超短編:フラミンゴのボトル
フラミンゴのソムリエはその昔、自分が作ったワイナリーで、自分そっくりのワインを作った。
彼のワインはこの世のものではない程の美酒だったが、性格も首のように曲がっていたフラミンゴは気になった客にしかワインを振る舞わない。
幻の味ということで各国の権力者達が一口飲んでみたい、と彼の元と尋ねてきた。
しかし誰に対しても「あなたはまだ選ばれる時ではないようです」という。
その噂はついに天までとどき、神の名をもつ空の王様がたずねてきた。
「ワインに選ばれていないというのはどういうことなのかね」
空の王がどうしても見せろ、というのでフラミンゴはしぶしぶ蔵からボトルを出してきた。ボトルの首は、ガラスのような素材にもかかわらずくねくねと曲がっている。
「ボトルは認めた相手にしかワインをついでくれないのです。私にはどうすることもできません」
フラミンゴはうやうやしく首をたれたが、空の王は引くことを知らない。
「フラミンゴソムリエに命ずる。私の杯に注ぎない」
空の王の命令を断るわけにはいかない、空の王に逆らって大事な畑に太陽がのぼらなくなってしまったら大変だ。フラミンゴはしかたなく栓を抜いた。しかしボトルはグラスとは別の方向に曲げるばかりで一向に注ぐ気配がない。
「残念ですが…、まだ選ばれる時ではないようです。」
フラミンゴはボトルと同じ姿勢で王様に向かって首をヘアピンみたいに曲げたままのべた。
「そうか。私の寿命は地上の生き物よりはるかにながい、千の時をかけ、中身をのんでみせよう」
空の王はボトルを連れ帰り、毎日辛抱づよくボトルに語りかけた。
1000年後、とうとうボトルが折れ、神の王様のグラスにワインをそそいだ。ひどい臭いだ。ボトルは苦々しく口を開いた。
「あまりに時間が経ってしまったので、気に言った客に飲ませるには相応しくなくなってしまいました」
長すぎる年月を経て、中身はすっかり腐ってしまっていた。