超短編:猫とカバン
世界中のお宝を集めて回る、ふしぎなカバンをもつ猫の盗賊がいた。カバンというより袋のようなものだったが、とにかく猫はそれをカバンと呼んでいた。
気に入ったものはなんでも、カバンに入れて持ち帰ってしまう。
難点は、カバンは最後に入れたものの色に変わってしまうこと。パンを持ち帰っては背中がパンの色になり、宝石を持ち帰っては背中が宝石のように輝いてしまう。
持ち物がすぐにバレてしまうので、街から街へ、国から国へ転々としていた。
ある日、豪華な姫の部屋に目をつけた。何かいいものがあるに違いない。
その部屋の主が人形の飾り立てられ、さらに動かないので、猫はすっかり留守だと思い、しのび込んむとすぐに見つかってしまった。
しかし姫は言った
「なんでも全部もっていって頂戴。私にはいらないわ」
「でも全部もっていくのは無理だね、オイラのカバンにも限界があるんだ。この部屋で一番いいものをもらっていくよ」
好きにして、と姫は興味なさそうに言う。
猫は気になった。
「そうだなぁ、この部屋で一番いいものってもしかして喋れるのかもしれないなぁ」
聞けば姫は捕虜同然に連れてこられたそうだ。私自身飾りみたいなものよという。
猫は満足気だ。
「飾りか!飾りなら、お宝ってことになるのかな」
姫をカバン入れると猫はそのまま屋根をつたって部屋を脱出した。
背中は姫の色で煌々と輝いていたが、今宵は新月。
屋根の上の光る月が動くのがいつもより速いこと以外、街で話題になることはなかったそうだ。