自分の外に視座を持つ
3月29日、ジェラルド・カーティス先生(コロンビア大学名誉教授)に「ロシアのウクライナ侵攻が世界の外交に与える影響」について、ライブラリーの会員対象にお話しいただきました。
カーティス先生は、1964年の初来日以来、日本の政治を半世紀以上研究されています。著書の『ジャパン・ストーリー』、『政治と秋刀魚』や『代議士の誕生』は、日本語で綴った日本政治論。日本の政治、特に選挙制度の在り方、日本の政党政治の特徴など、多面的視点からわかりやすく論じられています。
カーティス先生には、2006年から「カーティス教授の政治シリーズ」として年3回、ライブラリー会員を対象にお話をいただいています。(もちろん日本語です!)
2019年まではアカデミーヒルズへお越しいただき、メンバーの前でお話をいただいておりました。しかし2020年以降は来日することができず、オンラインでの開催になっています。(下の画像は、リアルで開催していた頃のものです)
3月29日の講演について、2月下旬に告知をスタートした時点のテーマは「日本の政治と外交の課題」でした。しかし3月上旬にカーティス先生より、「ロシアのウクライナ侵攻は日本にとって対岸の火事ではなく、国際情勢が根本的に変わり、日本の外交そして日米関係が大きな曲がり角に来ている状態だと思う。次回はこのことを中心に話をしたい。」と連絡があり、テーマを変えて、カーティス先生が今考えていること、感じていることをお話いただきました。
講演の中で、印象的だったお話を何点か挙げたいと思います。
・日本の戦後が終わったのではないか?
2月27日にドイツのオラル・ショルツ首相が外交政策を大きく転換したことを、カーティス先生は「ドイツの戦後が終わった」と表現されました。
そして日本についても、ロシアに対する制裁をG7のメンバーとして明確に賛成を表明した岸田首相に対して、「今までの中途半端な対応ではない。これによって日本の戦後も終わったのではないか。」と、表現されました。
一方、日本がドイツと同様に自国の防衛に力を入れることになっても、「アジアの安全のバランスなど、平和のために何をすべきかを国内でしっかりと議論をすべきである。勇んでオーバーリアクションをすべきではない。」と、警鐘されていました。
・プーチン大統領の過ち
プーチン大統領は、ソビエト連邦崩壊後にウクライナがどのように変化したのかを見誤っているのではないか。
「ウクライナ人」という意識が強くなっている。今はもうロシアの一部ではない。
カーティス先生のお父さまはウクライナ生まれだったそうです。1911年にお祖父さまが出稼ぎに米国に来られたときに第一次世界大戦が始まり、祖国へ帰ることが出来なくなったそうです。逆にお祖母さまは、5人の子供とともに2年かけてウクライナから米国へ逃れたそうです。(上の写真は、そのころのご家族の写真です)。
その脱出の経路が、今のウクライナの方々の避難の経路と同じで、100年前と全く同じことが今起きています。
ただ、100年前にお祖父さま達は「ウクライナ人という意識はなく自分はロシア人だ」という認識が強かったそうです。しかし100年後の今は、「ウクライナ人」という意識が強くなっている、その点をプーチン大統領は見誤ったのではないか。
というお話がとても印象的でした。
カーティス先生に1時間お話をいただいた後は、参加したメンバーからの質問タイムです。通常のオンラインではチャットによる質問が多いのですが、せっかくの機会なので質問するメンバーは画面に登場して、直接カーティス先生と対話をしていただきました。
カーティス先生は日本の政治の研究者としての知識をお持ちの上で、海外から日本を客観的にみていらっしゃいます。日本国内にいる私達は全く持っていない視座でお話しくださいます。
2006年からスタートして、今回の講演は49回目でした。
オンラインでの開催は日本時間で夜の7時にスタートするので、ニューヨークは朝6時です。いつもカーティス先生には早起きをしてもらっています。本当にありがとうございます。
講演が始まる前に、「東京は桜が満開で、春本番です!」とお伝えしたところ、「早く東京へ行きたいな!」と本音がポロリ。
次回の50回目は、カーティス先生の来日が叶い、リアルに開催できることを願っています。
※タイトルの画像は、桜が満開の青山墓地を49階のアカデミーヒルズから撮影したものです。
アカデミーヒルズ 熊田ふみ子
#アカデミーヒルズ #メンバーイベント #カーティス教授の政治シリーズ