『知らないと損する年金の真実』への批評
当書は、読者に、年金制度への不安を約する事を掲げた年金の解説書です。
文章は読みやすく、内容はスラスラと頭に入ってきたのですが、年金制度への不安を払拭するまでには至らなかったので、本書への批判点や良い点などをまとめたいと思います。
1.批評
① 1000兆円の国の赤字について
本書では、年金の持続可能性について、何個か根拠を示しておりましたが、結局、国の財政赤字に関する対処法が述べられておりませんでした。
公的年金積立金の新規積み立て金は4分の3が国庫負担(税金)であり、国民年金に関しては、2分の1が国庫負担となっており、一部を税金で賄っているのが現状です。
現在、日本の赤字国債の発行残高は約1000兆円ですが、この借金の原因の大半は、医療や年金といった社会保障費に起因しています。
ですので、このまま、政府の赤字体質が改善せず、赤字国債が累積し、大幅な円安などが起こった場合を考慮しなくては、年金制度は安泰とは言えないでしょう。
② 労働市場の変化の可能性
業務の自動化やAIの導入などが各業界で進んでおりますが、この傾向が進んでいった場合、10年~20年後に、ごく一部の管理者または経営陣を除き、他の大半の人員が不要になり、失業率がかなり高まっている状況も予測されます。
実際、米国のGAFAMのような大手ITサービス企業は、大規模な人員削減を実施しており、そのような大きな利益を出す企業でも、大した従業員数は必要ないといった状況が現実になりつつあります。
失業率はそこまで上昇しない場合でも、高給取りはごく一部の人のみになり、残りは非正規雇用者といった状況も考えられるので、現在の雇用情勢が10年~20年続くというのは甘い考えだと思います。
③ 極端な少子化の発生
現在の年金システムは、賦課方式と呼ばれ、高齢者に配給する年金は、現在働いている労働者から徴収した保険料をほぼそのまま払っています。
2022年現在、出生数が77万人前後と、政府の予想よりもはやく落ちているようです。
ですので、このまま極端な少子化が進行し、高齢者を支える若者の数が減れば減るほど、年金支給額が減ってしまい、制度は成り立たなくなるのは間違いないでしょう。
外国人労働者を移民として迎え入れる選択もありますが、この点に関して、言及がほぼありませんでした。
④ 年金は円建て債権
①とほぼ被りますが、年金は円建て債権であり、円が破綻した場合は、制度自体が成り立たなくなります。
ですので、既に言及したように、日本政府の財政の問題もありますから、急速な円安が起こらないとも限らないので、その点は年金制度の一番の不安点になり得るでしょう。
2.良かった点
① 年金制度の歴史が解りやすく簡潔にまとまっている
公的年金制度が無かった時代の人々はどうやって生活していたのかや、2004年に確定拠出年金型への変更が成された年金制度改革やマクロ経済スライドについても、解りやすく解説されております。
② 年金制度が無くなった場合の問題点について述べている
本書では、年金制度が無くなった場合、各高齢者の子供達が、老後の資金3000万~8000万円を負担しなければならなくなるだろうと述べております。
その場合、若者は現在の年金給付額に近い金額(約月14万円)を、親一人当たりに払わなければならなくなり、現在の社会保険料よりも大幅な負担となってしまうため、年金制度の必要性を改めて実感いたしました。
3.まとめ
年金制度は5年に一回の見直しが行われ、状況に合わせて適宜修正を加えているため、本書で主張されており、100年は安泰だという見方も出来るでしょう。
ただ、5年に一回の修正が繰り返されるという事は、現在の年金制度と、10年~20年先の年金制度は全く異なるものになっている可能性もあります。
また、医療制度や年金制度は、財源を赤字国債に頼っているので、制度の存続の可否と財政の問題は切り離せないでしょう。
例えば、月収40万円のサラリーマンの方と月収20万円のサラリーマンの方の受け取る年金額はほぼ変わらないとの事ですが、こういった類の大盤振る舞いが、国の財政赤字に繋がっている事も否めません。
現役世代の負担を減らし、持続可能性を高めるためにも、こういった細部の調整はより必要になると思います。
ですので、年金制度が維持するためには、今後の政治や社会情勢が大きく関わってくるので、"年金制度は安泰だと"思い込むのではなく、当事者として適切なアクションを行う事が、必要だと考えます。
参考図書
・知らないと損する年金の真実 - 2022年「新年金制度」対応 - (ワニブックスPLUS新書)
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