見出し画像

添乗員のお気に入り⑬【それでもわたしは山に登る/田部井淳子さん】

どうせ超人なんだろうと思って何気なく読み始めたけれど、電車で読むんじゃなくてもっと静かに一人で読めば良かった、と思った。

若い頃にリーダーシップを培っていく様子と、後半はガンを患ってからの2部構成。

素晴らしい功績を残した方の、そこに至るまで。

山の用語を全然知らないわたしでも、登山の難しさよりも心の動きについて書かれている部分が多いので読みやすく、心揺さぶられる場面が多かったです。

情景が目に浮かんできてハラハラ、そんな中で沢山の重要なことを決断しなければいけないリーダーという立場の難しさ。

女性だけで登るチームというのは、着替えや生理痛への理解などの面では楽なこともあるだろうが、相手を思いやってしまったり共感の血が流れている同士では難しいこともあるだろう。

なんだろ、その難しさっていうのは職業柄わかるんだけど、田部井さんというスーパーウーマンからこういう文章が出てくることがね、泣けてくるんよね。

そしてやはり山の難しさ。

私は本格的な登山をしたことがないけれど、人を引っ張りながら山に登っている人たちを尊敬する。

田部井さんのことを、すごく強くて優しい方なんだろうなあと想像する。

お話しを聞いてみたかったな。

ガンを抱えながら遂行した「被災した東北の高校生を日本一の富士山へ」でのエピソードでは嬉し泣き。

エピソードをひとつ読むごとに、胸がはぁ~っとなって、すぐに次のエピソードに移れない。しばらく目を閉じて色々想像してしまう。

●一部抜粋

・それからのテント場はまるで戦場だった。また雪崩が来たら…という恐怖と戦いながら自分の身支度を急ぐ。恐怖で喋れなくなっている隊員もいる。わたしは自分の両手をこすり合わせてからその隊員のほっぺたを包み込み、冷たくなった彼女の耳たぶをマッサージした。彼女はわたしに抱きついて泣きだした。
・グングン直線方向に下りてゆくHさんを説得できなかったわたしのせいで、全員に足場も悪く時間もかかるひどい下りを強いてしまった。以前にも似たような経験がなかったわけではないのに、その失敗を生かせなかった。初めての場所で自信がなかったから。悔しく情けない。声高に発言する人に引きずられてしまった自分が恥ずかしい。
・それでも隊長は、「決定です」と押し通した。彼女は最後まで納得することはなかったが隊長は揺るがない。見事だった。わたしは自分を恥じた。隊長とはこうあるべきなのだ。八方美人では駄目なのだと痛感した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?