【下巻】「からまれる日」
なんとか間に合いそうだ。駅に着いた私はトイレに入って、鏡で顔を確認した。血とか出てたら友達がびっくりするだろうから。幸いホホに軽く擦り傷がある程度だ。コートの背中は500円玉大にずっぽり穴が開いてしまった。もみ合いで柵か何かに引っかかったのだろう。まぁこのくらいならぜんぜん平気だ。
ひと安心して待合室のベンチに座っていた。あと15分か。良かった。まさかさっきの2人が駅に来ることはまず考えられない。大丈夫だろう。それでも気が張っているせいか時々入口を確認してしまう。
そのうちスモークが張ってあるヤンキー車が外に一台止まった。しばらくすると一人の男が待合室に入ってきて私に言った
「あのー、車の人が来いって呼んでるよ」
なに?呼び出し?そしてこの男の人は使いっパシリ?とにかく来いとのことだ。マジかよと思いながらも行ってみた。
「おう!お前なにガンつけてんだ?」
本日2回目のセリフ。このセリフを一日2回浴びるなんて奇跡だ。ヤンキー風の20歳前後の人は車の中から斜めに私を見上げている。
「い、いや、知り合いが来るかと思って、入口を見てただけです」
「あぁ、そうなの?、、、あれ?おまえ兄貴とかいる?」
「あ、はい、います2学年上に」
どうやら兄を知ってる人らしい。話がだんだん盛り上がってきた。
「…で何?これからどこいくの?乗せてってやるよ!後ろ乗れよ!」
いやいやいや、それはだめでしょ。怖い世界に落ちていきそうな予感がするー。ちょうど電車が到着する音がした。
「すみませんー、どうしても電車でいかなきゃならないのでー」
私はそう言って後ずさりしながら電車に飛び乗った。車からは「なんだよ、バカヤロー」みたいな声が微かに聞こえた。
いったい何なんだ今日は…と電車のシートにもたれたらドッと疲れが出てきた。友達の家についてもなんだか練習に身が入らず、早々に布団を借りて寝てしまった。心身ともに疲れ果てたのだ。
やはり私にはヤンキーの世界は似合わない。もうこりごりだと思った。
ではまた。
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