「蟻」
私はぐったり疲れていた。
30歳。広告代理店の営業として勤務していた頃だ。連日の飛び込み営業で疲れ切っていた。札幌駅のふもとで力つきベンチに腰掛けてぼんやりとしていた。飛び込んだ営業先で、渡した名刺を目の前でゴミ箱に捨てられたことが悔しくて悲しくて、立ち直れないでいたのだ。それに加えて毎日深夜までの勤務だ、さすがにこたえる。座ってしまうと自然に目を閉じたくなる。
ふと気づいたのは目の前の庭木用のコンクリート壁。20㎝ほどの低い壁だが、そこに蟻が列をなしている。ちょっとしたお祭り騒ぎだ。目をこすってよく見てみると、食料となる大きな虫を獲得したようなのだ。蟻の興奮した動きからすると歓喜乱舞という言葉がぴったりだった。
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