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お嬢様の本音
今晩、お嬢様があやした人間がすやすやと寝息を立てて寝ている頃、僕は他の部屋のシーツを取り換えて回っていた。 すると別の部屋からお嬢様と会話をする誰かの声がかすかに聞こえていた 少し聞き耳を立てて聞いていると途端に大きな怒鳴り声が廊下に響いた
「もう帰って!!!!!」
ガタンッという大きい音と共に、お嬢様がカツカツと足早にその部屋を去る音が反響していた
お嬢様がここまで取り乱すのはそうそうないので僕も驚いてしまった というのもお嬢様はいつも穏やかで、鈴を転がすように笑い、あまつさえ怒りなんて感情はどこかに置いてきてしまったようなそんな朗らかな方だと思っていたからだ心配になった僕は、だいたいの仕事を終えた後様子を伺いに向かった
コンコン とノックを2回
「お嬢様、お気分はいかがですか。少し失礼しますよ。」
返事はない、静かにすすり泣く音が聞こえてきたので、ゆっくりとドアを開けた そっと近寄りお嬢様 と 静かに呼びかけるも、お嬢様は床に座り込み布団に伏せた顔をあげようとはしない 僕は優しく背中をさすった 奈落の底へ来てからというもの、ここまで感情的な彼女を見るのは 初めてだった
彼女は涙を零しながら ふつふつと沸き上がる感情をまるで雨が滴り落ちる音のように微かに、語り始めた
「もう、少し休みたい。みんなみんな、結局は帰ってしまうのよあっちに。ずっとずっとここにいればいいなんて思ってしまう自分がいるのが情けない。でもみんなにはちゃんと自分を取り戻して、本当はあるはずだったしがらみの無い心に戻ってほしいの。でもそれがすごく寂しくて寂しくて仕方がない。愚かよね私って。いつも何故か反比例なことばかりを繰り返して泣いてるのよ。終わりのない悲しみの果てにしか存在できない自分にもたまに嫌気がさす。でもね、私は必要なの。ここに必要な生き物なの。だから逃げてはダメ。そう言い聞かせている。だいすきなのに、みんなのことだいっきらい。きらいだよ。さよならしたくない。でも突き放さなきゃみんなのために。あの子のために」
ずっとずっと彼女は1人で全てを抱え込んでいたのだろうなと言葉一つ一つをつかみながら聞いていた 大好きな人間たちへの愛情と、それがネックになって生じてしまう寂しさへの葛藤
人は愚かだ だって彼女をこんなにさせてしまうのだから
醜い人間のために何度彼女が命をけずってきたか分からないほど、数千年の歪みはやがて彼女の心の臓まで食い潰しているかのようだった
「でもね、わたしちゃんとお別れするのよ。あの子はもうあっちへ返さなくちゃならないから。明日帰る支度をしてあげてラグナ。ごめんなさいこんなところ見せてしまって。今日はもう休んで」
そうやって彼女は溢れる涙を放ったらかしにしてニコッと無理に微笑んだ その表情はあまりにも切なくて 胸がぎゅっと締め付けられた まるで昔の人間だった僕を彷彿とさせるかのように、彼女の表情に惑わされたあの時のような気持ちに逆戻りした
「お嬢様 無理、しすぎですよ。」
その涙があまりにも痛々しくて、思わず彼女の肩を寄せてしまった 主を抱きしめてしまう不躾な私をどうか、神様 お許しください できるのであれば今だけ この世界が彼女に優しくあるように 憔悴した彼女を庇わせてください
彼女の抱え込んでいたものが僕の胸にも寄りかかってくれた
彼女は朝まで僕の着ていたシャツをぐしゃぐしゃに濡らした後
まるで挙動が定まらない赤子のように 眠りについた