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「はじめて学ぶLGBT 基礎からトレンドまで」を読んで考えたこと

はじめに

自分は性的マイノリティである。性自認はXジェンダー(ノンバイナリー)で、性的指向はパンセクシュアルである。

分かりやすく言うと、自分の性別も規定したくないし好きになる相手の性別も気にしない人である。

当事者として性的マイノリティに関するネット記事や話を積極的に見聞きしているが、今までちゃんとした書籍を読んだことはなかった。

という訳で学校で借りて読んでみた。

性的マイノリティに関する本で、当事者の体験を書いた本は数あれど、このような包括的に書いた本はあまりないように思う。(個人の感想です)

読んですごく為になったので、記録のためにこの記事を残す。

本書の概要

筆者の石田仁氏曰く、この本は「「LGBT」についてはじめて学ぶ人のために、また、ある程度のことは知っているけど、もう少していねいに考えてみたい人に向けて、入門書として書き下ろしたもの」である。

読んでみて、私は「性的マイノリティを取り巻く種々の問題およびその近現代史について論述した本」であると感じた。

一例として、性的マイノリティの人々が持ちうる心身上の問題・法律上の問題・市民生活を送る上での問題や、レインボー消費と称される「LGBTビジネス」、更にDSD(性分化疾患)についての言及がある。

当事者がどのような生活を送っているのか?という論点ではなく、当事者がどのような困難を抱えやすいか、医療・法律・日常生活等の観点から論じているというのが私の持った印象である。

ここが良かった

1.性的マイノリティに関する近現代史や現在抱えている問題を多角的に明記している

2021年現在当事者たちが抱えうる社会的課題を全て言及しているのではないか?と思うくらい詳細に言及している。

昨今法制化が叫ばれている同性婚制度はもちろん、カムアウト、当事者の心身の問題、性別違和を持つ人の戸籍問題やホルモン治療、非男女カップルが賃貸物件への入居を断られる問題、生物学的同性カップルの出産および育児問題、男性カップルがそれ以外のカップルより裕福である可能性が高い話、教科書の性的マイノリティに関する記述、LGBT差別禁止法とLGBT理解増進法の違い、ゲイカルチャーとボーイズ・ラブの関係、LGBTトイレ、企業へのLGBT研修の話、LGBTという呼称の抱える問題、「SOGI」という呼称の提起など、とにかく多角的に論じている。

同性婚・ホルモン治療・入居問題・子育てに関する問題など既に知っていた問題についてはより深く知ることができ、法律の話や同性ウェディング広告ではトランスジェンダーがほとんど出てこないことなど全く分かっていないことを新たに知ることができた。

特に、「同性ウェディング広告ではトランスジェンダーがほとんど出てこないこと」は目から鱗であった。確かに、「女らしい女同士」か「男らしい男同士」の広告などはあるが、トランスジェンダーらしい人を自分は見たことがない。このような発見をできただけでも本書は素晴らしいと言える。

2.自分とは異なるセクシャリティを持つ性的少数者のことを知れた

例えば、私は生物学的に女性であるから、「シスジェンダーのゲイ男性」になりうることはない。

なので、ゲイ男性がどのような困難を抱えるのか、これまで社会的にどのように扱われてきたのか、なんとなく想像はできてもちゃんと勉強したことはなかった。

本書では第8章にてゲイカルチャーについての言及があるが、詳細かつ中立的な観点で言及されている。無論それだけで理解したと言うつもりもないが、知識はついた。

また、シスジェンダーの読者にとっては、「性別違和を持つ人向けのホルモン治療」などは勉強になる部分が多いと予想される。

ちなみに私も性別違和を持っている訳だが、ホルモン治療をするつもりはない。身体的男性になりたいわけではないし、何よりホルモン投与に伴う医療上の問題(副作用)を恐れているからだ。このような点についても本書では論じている。

3.センセーショナルに記述することを避けている

1.で述べたような種々の問題を、感情的にならず冷静かつ客観的に書いているというだけでも本書は素晴らしいと考えている。

私は普段から性的マイノリティ当事者やアライの人々が発信するメディア等のネット記事をよく見るが、少なくない記事が感情的かつ主観的になっている場合がある。

例えば、現時点で同性のパートナーがいる人で同性婚の法制化を求める人は多いだろう。そのような人が同性婚制度についてのニュースを見聞きしたとき、「なんでまだ法制化してないの?」「オランダはもう20年も前に認めているのに」「ただ好きな人と結婚したいだけなのに」といったような反応をすることがある。

私も同意見であるが、そのような人々の中には「同性婚反対派は人権を無視した人類悪」くらいの勢いで反対派を拒否している人がいる。

反対派にも、「男女での結婚が伝統的であると考えている」「同性婚制度を追加として作るのではなく最初から既存の婚姻制度と統合して異性同性含む全ての婚姻を統一した唯一の制度を作ろう」「名字をどうするか問題があるので男女別姓婚をまず認めてから」など様々な反対理由がある。

私たちの社会的不遇を考えるとそれだけ怒ってもさもありなん、とこそ思うものの、ただ怒るばかりではなく自分と違う意見の者の話も聞きながら議論を深めていくことが、自分の納得する未来につながるのではないだろうか。

そして冷静に議論を行うために、まずは正しい知識をつけることが重要だ。本書はその一助となるだろう。

ここが気になった

DSD(性分化疾患)の扱いについて

DSDについて: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%80%A7%E5%88%86%E5%8C%96%E7%96%BE%E6%82%A3

説明自体は他の章同様、詳細かつ冷静に記述してあるので、そこに不満は無い。

私が問題だと感じたのは、「LGBTの枠組みでは取りこぼしがちな「性分化疾患(インターセックス)」についても、独立した章を立てました」という記述が、初めてこのような性的マイノリティに関する本を読んだ読者が「性的マイノリティにはDSDの人々も含まれるんだ」と誤解するのではないかという点である。

確かに、性的マイノリティの言い換えとして用いられることのある「LGBTQ"I"A+」の「I」は「インターセックス」、つまりDSDの人々を意味するが、DSD当事者は性的マイノリティとして分類されることを嫌う傾向にあるという。

(上記Wikipedia参照。また、筆者は実際にDSD当事者等から構成される団体から「性的マイノリティに括らないでほしい」「DSDであることと性的マイノリティであることは独立現象である」「DSD当事者の多くは自身をLGBT等の性的マイノリティと感じていない」と指摘を受けた経験がある。)

それを踏まえると、取り扱うこと自体はいいものの、「DSDは性的マイノリティとして括られがちですが、実は違います。」くらいの説明があるとなお良いと感じた。

参考: https://twitter.com/intersexjapan

最後に

性的マイノリティが抱えうる困難について知りたい人にとっては、一読の価値があると考えている。

当事者としても、自分たちが抱えている問題とはどのようなものか、詳細に知ることが出来たのは、今後の人生で大いに役立つと考えている。

筆者と同じ大学の学生ならば、本書を学生相談室で借りることができるので、ぜひ読んでほしい。

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