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5 夜の窓辺に二つの影
「キミは……! 謹慎してるはずじゃ……?」
うん、ちゃんと声おさえてくれてる。偉いぞエンタープライズ君!
「してるさ、公式には。今日はお忍びだ」
ここまでの話
空母たちの女子会は、エンタープライズ君の熱愛報道で大騒ぎ。同席のアーク・ロイヤル君がまさかの相手方だったの。折しも記者会見が火に油を注いでしまい……「彼女に会いたい。今夜」と押し切られてしまった、私、幹事のレンジャー目線ですわ。
「お忍びって、外の警備隊は」
「ええと、”休憩中”ということで」
「なんてやつだ……」
ほんとそれ。"爆撃のほうは、ちょっと苦手"、つって、あの威力、見てたロング・アイランド君から「うほへっ!?」みたいな変な声出たぞ?
それにしても、なんで先生が文字起こしまで……。当人はハーミーズ君と周囲を見張るって言うから、流れでこっちを任されちゃった。まあヤバイ気配がしたらユニオン寮の片隅くらい、煙に巻いてあげます。
録画ポイントは、2階のバルコニーの窓のあたり。
レースのカーテンを閉じたから、中の様子が影絵になっているわ。
「会見を見たよ」
テーブルに、雑誌らしきものを乗せおいての無慈悲なツッコミ。
「”公式のド変態”ってこと、忘れていたな?」
「っ! それは、誤解じゃないか!」
「……エン姉さん」
「すまない。アー君」
そっちか。ふーん……
窓のアーチの左側から、まるで骨格透けてるようなアスリート体型が、嘆息して手を伸ばして、比べて妙に肉感的な曲線の肩に触れるの。右側が恭しく膝をついて、百合というより騎士叙任の図ね。
うつむき加減な英雄の白く長い髪を淡い照明が通り抜けてくる。けど、その顔は、眼の光は、きっとぼやけてたりなんかしないんだわ。
「キミを擁護しては逆効果だな。今は冷静にわかる。だが、黙っていられなかったんだ」
必殺の曇りなき瞳、相手は黙る。どんな言い分があっても、彼女のカリスマと、その土台であるストイックなところが直に伝わって圧倒されるの。
ただこれ、対面時に限るのよね。
「誠意をもって言葉を尽くし、真実を話した。が、裏目に出てしまった。騒ぎはますます大きくなって、私が言ってもいないことまで流言飛語が広まっている。何が本当かなんて誰も気にしていない。もう解釈の問題ですらない」
エンタープライズ君……悔しいでしょうね。メディアにのってしまっては、終わりだ、ってヤツ。何でも編集しちゃうんだから。こんな風にね。
「ここから、何をどう言えばいいか、わからないけど、キミのためには何度でも話をする。いずれ、届くと信じている」
「…………」
「本当に、すまなかった。さあ、気づかれる前に引き上げてくれ」
つづく