3 ブラックボックス
「アーク・ロイヤル。ひとつ聞いていいか」
「ああ」
「なんでわかった? 私の、好みというか好き嫌いというか」
「なんのことかな」
「……レモン」
「ああ、それか。成程」
「え?」
「乗り気じゃないのは、わかったからな」
「そうか。……すごいな」
「そ、そんな。ただ、"イヤそうな顔"ならそれなりの数を……」
「申し訳ない。もっと奔放で勝手な人かと想像していた。とんでもないな。ここまで気の利くの人はそうそういない」
「お誉めにあずかり光栄だ」
「また誘っていいか?」
「いつでも。エンタープライズ。いや、エン姉さん?」
「っ!?」
「そう呼ばせてほしいな。イヤじゃなければ……わたしのことも好きに呼んで」
「……ああ。二人きりのときだけ、な?」
ここまでが証拠物件。よく録音してたものね。フライトレコーダーをしまいこみながら、アーク・ロイヤル君は"内緒"のジェスチャー。
「まあ、事実はこうだ。少し踏み込みすぎたかもしれないが」
「少し、って、もうだいぶ混迷してますわよ?」
「そうかな。シグニットちゃんの時に比べたら」
「ちょ、相棒!」
「あ、い、いまのは……聞かなかったことにしてくれ」
お、おう。前科はいいわ、本件だけで腹一杯よ。
立ち聞きしたのが誰なのか、それすらもう判らないし、自分だ、っていうKAN-SENが何人も名乗り出てるし。たしかなのは、拡散炎上に使われたのは会話のごく一部ってこと。あと、ツーショットの写真に、いかがわしい看板が写り込んでるのよね。
「実を言うと、それは現場じゃない。合成だ」
「ほんとだ~。切り抜き丁寧~」
わかる人かロング・アイランド君! この落ち着きようは本人もか。
「……こういうの、わたしは平気だけど、あの人は……」
物憂げに言葉を濁して、アシンメトリーな右前髪に隠れた瞳を潤ませてるの。
ああもう、イラストリアス君の前級だっけ?
風紀違反にできない部品で圧力かけてこないでよ!
「わかった。先生、協力しますわ!」
「い、いいのか?」
「様子を見てくるぐらい、お安いご用よ」
そのときなの。
警告音にみんな飛び上がった。発信源はロングアイランド君の携帯電話。
「あれれ~?」
スタンドに置いてJuustagramを全画面にして、そこに映ってるのは——
「エンタープライズ、緊急会見なの~~!」
つづく