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【ネタバレ感想】『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』を観た

「観たいものが観れてよかった~~~!」と喜びながら、好きなシーンや思ったことをネタバレありで残しておきたいと思います。
※本記事はあくまで一個人の感想・解釈であることをお断りします。

また、原作小説を映画鑑賞前に読んでおり、原作小説と映画の違いについても大いに触れます。
原作は原作で面白いので、気になる方は読みましょう! オススメ!


観たかったものが観られた

私が一番「劇場版」軍師に期待していたことは、一年は組の仲間たちが事件解決にもっと絡んでくることでした。
原作小説では、一年生の中できり丸だけが「土井先生は出張ではなく行方不明になっていて、最悪死んでしまった可能性すらある」ということを知ってしまい、そのまま乱太郎やしんべヱにすら打ち明けないまま幕引きになりました。これはこれで「スリリングでシリアスな事件がひっそりと解決し、何も知らない子供たちという日常へ土井先生が帰ってくるお話」として面白い構成ではありました。
ただ、せっかく「忍たま乱太郎」としてアニメ映画化するなら、一年は組の仲間たちがワチャワチャやりつつ活躍する要素欲しいな~~~~~~~!!! 『全員出動の段』でもあの子たちが個性を生かしつつモチモチ動き回るの好きだったんだよな~~~~~~~~~~!
でも全体的に大人や上級生が動くシリアスな大筋と食い合って加減が難しいよな~~~~~~~~とうんうん唸りながら数か月過ごしてきました。

そして映画鑑賞。

ありがとう忍たま乱太郎~~~~~~~~!!!!!
ありがとう映画制作スタッフの皆様!!!!!!!!!!!

この映画の中で一番原作小説になかったシーンって、一年は組がみんなで「土井先生を取り戻すぞ~!」「お~~!」してドクタケに乗り込むところですからね!!!!

授業では調子はずれなことばっかりしているくせに、いざ敵陣に乗り込むぞとなると機転が利く。一年生だけでここまで考えて動けるんなら「実践に強い」と言われるのもわかる、という楽しい調査シーンがあって嬉しかった…… 子供たちがたどり着いた一夜城はハリボテだったけど、これはあの子たちに限らず、大人の大名や忍者たちさえも本当の戦場がどこか掴みかねていたので、どっちかっていうと天鬼が超すごいという流れに収めつつクライマックスへつないでて綺麗なアレンジだと思いました。

やっぱ好きなんですよね。
一年は組のよいこたちがワチャワチャしているところが。

細かな好きよいこたち

庄ちゃん「クソタレガキ城の……」

クラスで一番真面目そうな子ですらこの言いようだからとんでもないガキンチョたちだよ。目の前にいるのはその城の忍者隊のめっちゃつよいお頭なんだぞ!

忍たまの大人たち、ガキンちょに怒ることは怒るんですけど、それと同時にまあ子供(若いの)ってそんなもんみたいな受容も感じますね。

坂東がどこか教えてくれてありがとう

「ぼくたちの足だとひと月くらいだけど、土井先生の足なら半月くらい?」
この時代、もちろん新幹線や飛行機なんかないから、近畿から関東に行くなら人間が一生懸命テクテク歩いていかないといけないですねぇ。
ゆるく盛り上がる会話が「ああなんかこの子たち本当に仲がいいんだなぁ」という感じがしてなごみます。

まとまった休みの度に十歳くらいの子供がふたりだけでひと月歩いて家と学園を往復してるの改めてすごい状況。

殺気でベチャベチャになってる一年生たち、愛

ここだけ何度でも観た~い。一瞬すぎてどの子がどんなリアクションしてたか全部は見切れなかったので~~~!
クソタレガキ城とか舐めたこと言うもちもちのガキたちも、さすがに殺気はわかるんだという感心と、TVアニメに引き続き殺気を注意する役回りをやってる安藤先生でクスっとくるなどしました。

むくれるよいこたち、愛

大好きな先生たちを悪く言われてむくれるよいこたちかわいいねぇ。
だったら普段からもうちょい真面目に授業受けな!?

でも映画冒頭の土井先生とのやり取りで「まだ習ってないですよ!」からの「教わるの楽しみだね~」とニコニコしているよいこたちを見ると…… 胃を痛めながら何回でも教えてあげちゃう気持ちもわかる……

知らぬ間に仇敵を痛めつけているよいこたち

あれっ、結構大変な目にあってたから、ヨシ!
子供視点での尊奈門の禊でもあるんでしょうけどね。
これ雑渡さんにイジられるやつ以外、土井先生とか山田先生は日常的にやってるのマジ?

なめくじ

なめくじさんサービスシーンありがとう。
しかしいかになめくじさんたちといえど、この戦いにはついてこられない……

忍者、かっこいい

忍たまらしい外連味はあるものの(そもそも忍術学園という概念があること自体ファンタジーですが)、今回かなり能力バトルじゃない忍者マンガしてましたね…… 特に大人たち。
アクションもかっこよかったし、調査や潜入パートでもしれっといろんな忍術を使っててすごく忍者してた~
全部分かったわけではないけど、調べたらちゃんと手法として名前がありそうな動きとかいっぱいありましたし。
潮江の袋槍組み立てシーンとか、食べられる壁とか、毒手裏剣とか、道具のディティールもいろいろ見せてくれて楽しかったです。

学園長も今回は全然ふざけず一派閥の長としてずっと振る舞ってて、こうなってくると老練な猛者の風格があるんだなぁ……

八方斎の小悪魔アイライン

冷徹に戦を進める天鬼よりもよっぽどドクタケ忍者が全体的に殺伐としていると私の中で評判の小説『最強の軍師』。
最悪すぎて一周回って大好きな「(乱きりしんを)天鬼に斬らせよう」が原作のままの文脈で本当に映画に出てきてビビっちゃいましたね。
ただ、映画では「八方斎だけが頭を打って悪いバフにかかってしまった」としてて、周りのドクタケ忍者たちはTV版とそんなにノリが変わってなかったという。乱きりしんを天鬼に斬らせようのくだりでは部下のドク忍たちも明らかに引いてたし。TVアニメの延長で映画を観る場合、八方斎だけが劇場版仕様でワルくなっちゃったのは受け入れられますが、風鬼とかも忍たまを殺すことにためらいがなくなっちゃってたら泣いちゃうかもしれなかった。TV版と劇場版軍師を繋ぐ上手い調整だったと思います。

最後アイラインがにゅるっと引っ込んで(?)憑き物が落ちたようになって、そうはならんやろ!
映画八方斎のキービジュが公開された時、「なんかいつもよりアイラインめっちゃキマってない!?」って驚いていた人々の感覚は間違ってなかったんだ。
八方斎の生態に、「アイラインが濃く鋭くなるとワル賢くなる」が追加されましたね……

劇場版『最強の軍師』は「土井先生が元に戻って日常が帰ってくる」という話であり、ドクタケ忍者にとっても「八方斎が元に戻って日常が帰ってくる」という話でもありました。今日は怖い人にいっぱい道を聞かれてコワかったドク忍は完全にTV版ドク忍のノリだったな……

タソガレ忍者

一年は組のよいこたちの手裏剣は「味方」に飛んでいくのがお約束。
決闘以降は何もしない尊奈門先生には飛んでいくが、「ドクタケの優秀な軍師」を責任取って始末しにいかなきゃならない立場の雑渡先生には飛んでいかない。うーん。
てっきりよいこたちに手裏剣を浴びせられてキレる雑渡さんが見られるかと思ったら、そうはならなかったんですねぇ。
単に土井先生を拾って最強の軍師を得たドクタケと、土井先生を取り戻したい忍術学園の二陣営が戦うだけではなく、第三陣営のタソガレドキがいて間で睨みをきかせる構図になっていたことで、ストーリーに様々な城や派閥が割拠し思惑を巡らせる戦国の世っぽい緊張感が出てよいシリアスでした。

雑渡さん

タソガレの者としてはもちろんドクタケの優秀な軍師を早期に暗殺してしまうべきなのだが、そうなると大事な教員を先んじて殺された忍術学園との関係が悪くなることは避けられない。
でもじゃあ多少時間をかけてでも忍術学園と協力して土井先生を奪還しますかとなると、それまでに最強の軍師の導きで状勢が変わってしまうこともありえる。それまではもちろん待てず、何なら尊奈門の不用意な行動がとがめられて、尊奈門が手打ちになることだってあり得る。
雑渡さんは長だから、タソガレドキに関係する事件、そして自分の部下の行動によって起きた出来事すべてに責任を取る必要がある。

ミステリアスで茶目っ気もある強キャラの雰囲気に反して、すごく繊細で板挟みな状況をやりくりしてたお人だと思ったし、中立(敵でも味方でもない)立場なのが分かる~ でも利吉さんたちに手加減してたのも、毒手裏剣を投げるのを少し待ったのも、ギリギリまで忍術学園と対立しないで済むようにしていたからだろうし、やっぱこう案外泥臭いあがき方をする人だとも感じました。

利吉+卒業生と戦ってる時、雑渡さんなんか飯綱落としみたいなことやってませんでした? 卒業生たちこのまま脳天砕かれそうな捕まり方したのに、地面に叩きつける前にポイっと放り投げてて、「ああ……これ殺しはしないよう加減してくれてるやつだ……」というのがありありとわかりましたね……
忍者マンガみたいな人だな本当。

原作の時から思っていたけど、雑渡さんが先生代理として学園に留め置かれてるの、実質タソガレ忍者隊の頭の身柄を忍術学園に預けさせられてるようなものだよね…… 学園長の「先生代わりにやって」の一見突飛な無茶ぶりを雑渡さんがあっさり受け入れるのも、今回の発端はタソガレに落ち度があるから、責任を取るための行動だろうし。
すげぇ! お頭ァ、責任でがんじがらめだ!

ここまでやってるわりに尊奈門への当たりがあんなもんで済むのはむしろ本当に責任感も情もある上司だと思います。こりゃあタソガレ忍者たちが雑渡さんにメロメロなのもわかりますぜ!

もしこの感想をお読みの方で、雑渡昆奈門(及びタソガレ忍者)と忍術学園の邂逅をご存じでない方は、今すぐ『劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!の段』を見よう!

尊奈門

なんかよくわからないでやったミスが重大なインシデントを引き起こしちゃった新人社員みたいでしんどいねぇ。実際そういう状況なんでしょうが。

低学年には土井先生のこと秘密にしようっていってるのにフワッと失言して、雑渡さんにも普段優しい先生方にも「お前ッ!」って睨まれてるの、マジで肝が冷える~。
もう何年か無事に過ぎて、この件で起こっていたこととか、周りの人たちがどれだけ心を砕いてくれたかを実感できる日が来るといいね……

忍たま一年生と六年生くらいの歳の差が、土井先生と尊奈門にあるので、世界におけるこの五、六歳くらいの人生経験や熟練の差に想いを馳せています。彼があと五年も経ったら今の土井先生くらいやれるのか、土井先生がヤバすぎるだけなので全然届かないのか……

竹林アクション

ア!!!!!! CMとかで観たやつ!!!!!!!!
VS天鬼のシーン、最初から六対一をやろうとしていたわけじゃなくて、六年生三人で天鬼一人を押さえつつ、残り三人が通り抜けてドクタケの詰所に侵入するっていう人数差を大いに生かした手はずだったのに、通り抜けようとする三人も正面から向かってくる三人も全部一人で相手どってボコボコにする天鬼がまさに鬼のように強~い!
腕っぷしに自負アリな六年生三人がかりで足止めかく乱すらできない忍者なんてそうそう出てこないのに!
六年生、近接武器で敵にぶつかる人が三人と、後ろから補助する人が三人でちゃんとサポートし合ってチームとして全力で戦っていたのに……六年生たちは血まみれボロボロで、天鬼の真っ白な装束には汚れ一つついていないのが……圧倒的すぎる……!

一年生が樽に入って無茶な転がり方しても血の一滴、こぶの一つすら出なかったのを踏まえると、このシーンは本当にギャグの加護が切れてて、いつもと違うことが起きているぞという緊張感がたまらなかったです。

槍と鉄双節棍を同時にさばいてるのに、まだ刀持ってる方の手が空いてて三人目の攻撃もいなせるのはんぱな~い! 腕二本しかないのに武器持った人間三人同時に処理できるのどうなってんねん!
忍たまのかわいいまげを掴んでたたっ切ろうとするなんて、今までそんなことやる人もいなかったことを!!!
髪は切られるし、目もガチで潰そうとしてくるし、手裏剣は本当に刺さってるし、殺意がすごいんだから!

六年生

忍術学園の最上級生として重い任務をやる一方、天鬼にボコボコにされたり、卒業生の先輩に全力挨拶してたりと、年若い人の一面も見られてアツかったです。
天鬼の正体が土井先生だと分かった直後の六年生、今までガチで切り結んでたのに、一気に先生を慕う生徒の顔になって戦闘態勢を解いてしまうのが…… かわいいねぇ……
TVアニメで「現六年生が一年生だったころ、土井先生が忍術学園にやってきた」ことが明かされたので、彼らにも現一年は組のよいこたちみたいに土井先生と接していた時期があったんだろうと思うと切ないし、たった五年でほとんど大人に近い働きができるくらい成長したものだねぇ~

ラスト、土井先生の「怪我させちゃってごめんねぇ」に対して、「いえ! 我々が未熟だっただけです!」と声をそろえて返すの体育会系……! 

今回の六年生、ガッツリ感情が出ちゃう人(潮江、食満、中在家)と、ひとまずは抑えているひと(七松、立花、善法寺)でわかれてるのが印象的でした。あの喧嘩シーン、こういう時普通の人が感じそうな事とか言いそうなことを六人に分けてやらせてるから、見てる分には誰かに感情移入しやすくていいと思います。

あと、着替えのシーンでさらっと彼らの服はリバーシブルになっていますをやってましたね~(片面は忍者服、片面は普段着みたいな柄)
忍者道具が使われてるところいっぱい見れて楽しい。

潮江

ア! 貴重な袋槍の組み立てシーンだ!!
いつも穂先だけ苦無みたいに持ってるか、すでに槍の形になっているかなので、リアルタイムで槍にするところ初めて見たかも! キャッキャ!

やっぱり彼も挙動が少年でフレッシュでした。
冷静に徹しようとするも、ポロっと感情が出ちゃうし、生徒の顔してたし、彼もちゃんと少年なんだなぁと。
そこらの人に聞き込みをしてる時の雰囲気は顔の老け感も相まって大人っぽかったのに……
でも辛いけど誰かが提案しないといけないことを率先して言い出せるところは偉いと思うよ。

あと小説にあった「留」「文次」呼びは引き継がれていて、ああそれアニメに再編成しても通っちゃうんだと…… 君たちやっぱり仲いいでしょ! 
我忍たまの名前を崩したあだ名呼び好き侍に候! 「留」「文次」の他によく聞くのは「きりちゃん」とか「庄ちゃん」くらいしかないけど。
この作品、古典演劇のごとく、その回で初めて出演したキャラは毎回フルネームで呼ぶし、関係が深くても名前を崩さず呼ぶ傾向にあるので、それでもあだ名呼びが通ると判断されているキャラというのは、そいつらの親密さも誰が誰を呼んだかも視聴者に自明の理だと判断されているということであり……

食満

顔の流血が似合う男ランキング一位。
全然そんなこと言ってる場合じゃないシーンなんですが、額からの流血がカッチョええんですわ。
鉄双節棍で謎ポーズを決めたかと思えば、ドクタケ陣侵入時に上手くやってたり、カッコつけてるとカッコいいを行ったり来たりしていました。
熱血な人はこの作品結構いるんですが、その中でも彼の感性はどっちかっていうと現代人寄りな気がします。彼のカッコよさないしカッコつけ感は、作中時代が室町なわりに彼の言動が妙に当世風(平成以降の日本という意味)な要素を含むからなのかなと思ったりしました。ある意味、現代人の視聴者(読者)にとって感情の落としどころになってくれてありがたい存在でもありますね。

いやまあ己の中の正義感を制御しきれてないところについては、危なっかしい子供っぽさが残っていると言わざるを得ませんが…… 技術はある程度身についてるんでしょうが、まだ……プロ忍として野に放つには早いかも……

七松

前衛タイプなので戦術としてガッツリ前には出るものの、案外冷静でこの人忍者に向いてるかも……と思うなどしました。
雰囲気朗らかなんだけど、今回潮江食満中在家が見せたやりきれなさげな姿と比べると、カラッと役目に従事できる落ち着いた精神性みたいなのを感じます。
でも仲間が「危ない!」となれば身体でかばいに行っちゃうのは……

中在家とベストフレンドなのをいっぱい見せつけられちゃった。

中在家

意外と激情家でかわいいねぇ。
無口なだけで、優しい人であるとはよく言われているので、当然お世話になった先生が死んだかもしれないとか、本気で戦わなければならないとかになれば感情が爆発しちゃうんですねぇ。

平時はどっしり状況を見ているタイプって感じがする彼ですが、今回要所要所でマジで感情的になっちゃって悲しいクマみたいになってるのが味わい深かった。

六年生の中で多分きり丸と一番付き合いが深いのは彼だと思うので、なおのこと気持ちが溢れたんだろうなとも思います。

立花

作中で描写されるタイプのイケメンキャラだ……
聞き込みされた女性が「あらやだ素敵」みたいな顔してましたねぇ!
彼の場合は意図して振る舞いも美青年風に寄せられるというのもありそうです。

彼が竹林バトルで二重に火矢を投げるシーンはみんな好きじゃないですか?
クレバ~。
目まぐるしいシーンだけど、引き際にも技が必要なほど大変な相手だって描写が盛られてて好き好き大好き。

伊達に普段から「冷静かつ優秀」と言われているわけじゃなく、彼が本当に苦しい時も状況をよく見て動ける人だという説得力があってよかったです。

原作の「もう鳥の子はない」っていったくせにしれっとまだ予備を隠し持ってるという茶目っ気シーン好きだったんですけど、エピローグへの流れが変わってなくなっちゃってたのが少し残念。

善法寺

ア! 乱定剣だ!
『全員出動の段』でも思ったけど、お決まりの形・重さでないものを正確なコントロールで投げられる腕があるのがすごい。
今回、わりと全体を見て動けるタイプなところが描写されていて好きだった。

ていうかギャグの加護がギリギリまでそぎ落とされてるのに不運は起こるのかい!
天鬼だって向かってくる石を武器で弾くことはできても、竹に何度もバウンドして投げた奴に当たるように弾くのはさすがに厳しかろうと思うので…… ガチ不運じゃないですかぁ!?
メタ的に、彼の不運って取り返しのつかないようなことにはならないみたいな物語の加護があるので、あのシーンでこれが最後の加護だったのかも?

腫れて片目半開きのまま動き回ってたシーン好きなんですが、彼の場合傷が似合うというより、ボロボロになっててもなお、まなざしに力を感じるところが美しく感じるんじゃないかと思います。その調子で戦国の大人の脳も視聴者の脳も、焼こう!

「みんなかすり傷でぇす!!」は、いつもどちらかというと「無理しないでね」とか「怪我はちゃんと手当しなきゃだめだ」とセーブする方な彼が、自分含め六年のみんなで無茶してでも土井先生を助けに行こうとしてて、なんかリビドーを感じる~

彼に限らず、今回の六年生たちは、土井先生を慕う少年でもあるという要素が強く出ていて、一段とフレッシュなパッションが味わい深かったです。ジュル

この「無茶してでも土井先生を助けに行くんだ!」というリビドーは、一年は組のよいこたちの「僕たちも土井先生を助けに行くって決めたんです!」のリビドーに通じるので、だからこそ彼や食満は折れちゃったんだな~と。みんな土井先生好きだから。考えることは同じだ。

五年生

六年生と比べると全員一固まりでずっと動いてるし、どちらかというと「攻め」より「待ち」の仕事が多めだったのかなと思いました。
任務に関わるなかで最も年少だから、「暇だと思えるくらい余裕のある仕事」を任されていたのかなと思ったのですが、雑渡さん(曲者)とすれ違っていたりと、十分危険のある仕事ではあり、三郎の気質の問題である可能性も否めない……

大人や六年生が激しい攻防をやる裏で、五年生が静かに情報収集や情報操作をやっていて静の忍者と動の忍者でメリハリがあります。

上級生たち、そりゃ天鬼とか雑渡さんには勝てないけど、大人の足軽くらいだったら囲んで勝てるくらいの腕前はあるのがロマンですよね。

エンドロールでジャンプしてたのは何だったんでしょう?

山田伝蔵は渋くてカッコいいベテラン忍者なのである

山田先生ホントなんかずっと渋くてカッコよかったな……
手練れのベテラン忍者としての魅力をいかんなく発揮してくれた映画でした。アクションも腹の探り合いもずっと大人の魅力が溢れていてカッコいい。
いろんな人から「熟練のすごい忍者」として一目置かれているゆえんがよくわかる描かれ方でした。
よいこたち、こんな先生に習ってるだからちゃんと授業を受けな!? ちんたら冷めた心でランニングしてるバヤイじゃないぞ!

でも今回、山田先生は忍たまたちの先生をしている時間はちょっと短くて、どちらかというと土井半助の先生な一面が多かったかも。
山田先生と近い立場にあるのは実は雑渡さんで、「自分が面倒見ている若いのが、自分の陣営に害を与えるかもしれないやらかしをしている」から。
山田先生は先生の総括とかじゃないけど、そもそも土井半助を先生として学園に連れてきたのが山田先生だから、「土井半助」が何か問題を起こせば責任を取らなきゃいけない立場ではある。
少なくとも映画の学園は即手打ちみたいな強硬策を取る組織ではないだろうけど、最強の軍師がマジで最強だったがゆえに、事はもういろんな城を巻き込んでいて身内だけで納められる問題でもなくなっている。もたもたしていれば土井半助の命も、他の城の状勢も取り返しがつかなくなってしまう。

親子のように面倒を見てきた男への情と、組織人としての責任という公私のはざまでもがいている人という点で、山田先生と雑渡さんのやりとりは言外の共感と駆け引きがマジで渋い。画面の緊張感も演技もしびれる。
(雑渡さんと尊奈門も映画では語られないけど、単に上司と部下なだけじゃなくて、情があるような関係なんですよね)
二人の立場を踏まえるとなおのこと、雑渡さんの「それはいつですか」の圧と、それを聞く山田先生の空気感がたまらない。

原作ではサービスシーンみたいな感じで女装シーンあったけど、劇場版だとそれもなくて全体的にキリリと締められた活躍をしてましたね。

「させるもんかね」とかカッコよくない!?
おじさん好きは軍師映画を観ましょう。

利吉さん

今回は割と忍たまっぽい立場で動いてましたね。忍たまというか子供キャラというか。
この話、「土井先生を助けたい! 好きだから!」で無茶できるのは子供キャラの特権であると私は解釈しているので。
先で述べた通り、大人キャラは公の人としての立場から土井先生(天鬼)を最悪殺す覚悟で動いているのですが、今回の利吉さん、きっかけは仕事としての調査依頼だったものの、終盤は人としての情(家族のような人を助けたい)にかなり寄ってた感じがします。お兄ちゃん言うてたし。

クライマックスで利吉さんを見た雑渡さん、山田先生から「土井先生はウチで家族のように面倒見てた」の話を聞いているので、利吉さんが何でここまでやってるのかも分かってしまうという……

この映画、年齢におけるスタンスが綺麗に分かれていて、忍たまの他の作品と比べて青年枠というか、大人と子供のあいだの層がはっきり固有の層として描かれてた感じがしますね。

・よいこたち(一年は組)
完全に子供で、大人の事情なんか全然わからない。大好きな土井先生を助けたい一心で動く。ギャグの加護がある。

・青年(六年生、尊奈門、利吉)
大人に混じって任務ができるくらいに成長しているものの、状勢への影響を考えたり組織への筋を通すことより、自分の感情で動いてしまう瞬間がある。それも含めて上の人からまだ目をかけてもらっている。

・大人(先生たち、雑渡さん)
公私をはっきり自覚して動いている。
私情は大いにあるものの、全体への影響をきちんと考えて、いざという時は筋を通さねばならないという覚悟のもと行動している。

普段は一年生のよいこたち目線で「自立した大人のお兄さん」として出てくることの多い利吉さんの「まだ完全には大人になり切れてない」面を見られた映画でした。

山田先生と腹の探り合いしてる時は仕事人だったのに……
山田先生が「天鬼の正体を知ったら冷静ではいられんだろう」と言っていたわけですが、本当にだいぶ冷静ではいられなくなっててですねぇ……

土井先生 あんたが主役

兵法書の話が、「山田先生の家にあった兵法書を読み込んでいた」という表現に少し脚色されていて、山田先生に出会う前にガッツリ兵法を学べるような経歴があったかどうかは完全にノータッチ。土井先生の出自について、「戦乱によって天涯孤独になった人である」くらいにとどめられて、普段のアニメやこの映画しか見てない人でも混乱しないような情報の出し方に整理されていましたね。

この山田先生に保護された後、そこにあった兵法書を読み尽くしていたという話が、記憶を失った土井先生がドクタケに保護されて、そこにあった八方斎のマンガを読み込みまくってるシーンと完全にリンクしてて、「綺麗な対比の演出だ~~~~~!!!」と膝を打ってました。

頭がすごくいいのと同時にメチャクチャ素直なんでしょうねこの人……
いる場所の理に染まるタイプというか。
作中では部分的にしか分かりませんが、八宝斎のマンガって明らかに荒唐無稽で、そんな真面目に読み込むような内容じゃないと思うんですけど、まっさらな状態の彼はそれを吸収しちゃうんだなぁ……

しょうもない話ですが、土井先生自身はこれだけ物覚えがいい人なのに、一年は組のよいこたちが堂々と「まだ習ってないんだ!!!!!!」と言ってくるの、相当きつくないですか!? 「これでダメならどう教えたら覚えるんだこいつら!?」って頭抱えるでしょ。まあ実際胃を痛めているんですが。
それでもよいこたちの覚えに寄り添って、何度でも教えてくれるところがあ愛されているゆえんでしょうし、逆に天鬼状態でドク忍に素朴な質問されても「私はお前の先生ではないよ」と突っぱねちゃうところ……ヒュッてなる……
このやりとりは原作小説でもありましたが、声が付くと天鬼の乾いた拒絶の響きが冷たく刺さる~!

原作小説では、兵法は山田先生に出会う前に身に着けたことのようだ、というのが土井半助としての記憶を失っていても軍略に長けていたことに繋がっているんでしょうが、映画では竹林バトルで書物を武器として使う謎の技術が身体に残っていたわけですし、いままでの人生全てで得た技術はわかるけど、人とのつながりに関する記憶はないという状態だったんでしょうね。
いそいそとドクタケコミックに鉄板を仕込む天鬼の姿を想像するとちょっと面白くないですか?

ドクタケミュージカルで全然バイブス上がってない虚無の目をしているところでちょっと笑っちゃったのは内緒です。一緒に盛り上がって「ドクミュサイコ~!」となっていても笑っちゃいますが。

天鬼モードの彼はそんな社交的に人と話したりしないと思うのですが、それでもドクタケで下働きしているおばさま方から爆モテしていたのは…… 罪作りな男よ……

きり丸 あんたも主役

戦乱の世の孤児なんて出自を掘り下げたらお辛くなるのは、そうだろ!!!

幼き日のきり丸、ここまでボロボロの姿が出てきたの衝撃じゃないですか……? というか、今の小ぎれいでバイタリティにあふれたきり丸からすると、あの回想のボロボロの子供が最初誰なのかわからなくて(土井先生かきり丸かで迷って、パンフ読んできり丸なんだと断定しました)、親も故郷もなく、どこかの軒下でかろうじて生きているこの子が、いま自分の手で学費や生活費を稼いで元気いっぱい学園にいるの改めてすごすぎる。強い子だ。

きり丸のあのシーンに限らず、軍師映画は行き場もなく痩せて困窮した人々がガッツリ描写されているのが特徴だと思います。戦乱の世で、こういう人はたくさんいたし、なんならきり丸や土井先生も、忍術学園に行き着かなければこういう人たちと通じるような境遇であるというのをゴロっと見せてくるのがかなりハード。

きり丸ってただお金が好きなだけじゃなくて、生きるためには自分で稼がなきゃって考え方からバイトやってるのに、それでも土井先生が死んだかもって聞いたら手に付かなくなっちゃうの、きり丸にとって土井先生はもう心の大事な部分に座ってる人なんだと感じちゃって……

クライマックスで土井先生の記憶を刺激するような言葉を言いまくるシーン、「命より銭大事!」って平時はケロっと言いまくってる言葉なのに、きり丸の知る土井先生はきっと怒るだろうって信じて涙を流しなが言い放つのが泣けちゃう……

資材を市井の人々に配ってしまうのに全く抵抗しなかったきり丸で突然の土砂降りになるやつ、スピード感はギャグですけど、きり丸の心情を考えるとギャグでもないし、どういう顔して観ればいいんですかねこれ!?

土井先生の危機を一年は組の仲間たちに打ち明けたの、忍者としてはダメだと思いますが(「秘密にしてね」っていう上の人の指示に従わなかったので)、先述の通りこの話において「土井先生を助けたい! 好きだから!」で掟破りの無茶をしていいのは子供の特権なのでよいのです。

軍師のクライマックス好き好き大好き

土井先生復活シーン、「教えたはずだ! 教えたはずだ!」のお約束のやり取りが決め手になるのやっぱりグッときますね~~~!!
周りの大人や上級生たちが散々シリアス忍者やってきたうえで、最後にみんなを救うのは、30年以上原作漫画やらTVアニメやらでやってきたコレだから……この話が忍たまの話として美しく終われるという……

あの瞬間、乱きりしんを天鬼が斬ってしまうか、暗殺が間に合ってしまうと、土井先生も、彼を慕う人々も、さすがにやりすぎじゃないかと不安がっているドク忍たちも、タソガレドキも、今回関わった全ての人々にとって取り返しがつかなくなるという状況からの解放がね~~素晴らしいカタルシスですよ!!!
大筋は原作と大体同じですが、もっと役者があの場に揃ってて、より劇的なフィナーレになっていたと思います。

ア! 特別編でオープニング曲がエンディング曲になるやつだ!
今回、道中が完全に「いつもと違う流れのシリアスな話」だった分、エンディングでやっとオープニングの「勇気100%」が流れるのが……「みんなで集まって笑顔で忍術学園に帰還、大団円」という長編のお約束みたいな映像と相まって、これで本当に日常が帰って来たんだなとしみじみしました。

ほか細々とした感想

崖エグすぎ

土井先生、着地点にたまたま障害物さえなければ、たぶんあの高さの絶壁から放り出されても無事だったってマジ? 忍者すご~

滝夜叉丸出演おめでとう

今回四年生以下は任務に関わらせないって話だったけど…… 
滝夜叉丸はちょっとだけどセリフつきの出番がある!!!!
忍たまのお約束サービスシーン、滝夜叉丸、三郎の変装、山田先生の女装、なめくじみたいなイメージあります。

滝夜叉丸ですら「お前たち、あまり先生方に心配をかけるんじゃないぞ」と言うであろうって、なんかこう……忍たまたちの目上の人に対する親愛仕草にじんわり来る。
まあ今回は土井先生の方が一年は組のよいこたちに心配されることになったわけですが。

彼岸花

バトルでちょっと血が出るのはまだそのまま描写できるけど、村が焼かれ、人が殺される様はさすがに抽象的な表現でしたね。
いやそれでも普段の忍たまから考えると十分ドギツイシーンでしたが……

かかしでぼかされていましたが、着物や形からおそらく女の人が殺されている場面があって、なんというかきり丸とか土井先生ってお母さんが死ぬところ見ちゃったのかなとか想像して……お辛いよ~~~! 子供の泣き声みたいなのも聞こえてさぁ~~~! 
子供は何があっても守る忍たまとして、戦乱の世にふんわりとかかっているヴェールがいっとう薄くなった瞬間だと思いました。

まとめ

『最強の軍師』という大人たちメインで話が動くかなり殺伐とした外伝作品を、子供向けアニメとしての忍たまに上手く落とし込んでいたかと思います。それでも今までのアニメと比べると「死が近い戦乱の世である」というメッセージがかなり強くなっており、挑戦的な作風の特別編であったとも言えます。

前回の映画『全員出動の段』の、制作からの「この物語を子供や、あまりシリーズに詳しい人でなくても楽しめるものにしよう」という丁寧なまなざしが好きだったのですが、『最強の軍師』からもそのまなざしを感じて、私としては大いに満足できる作品でした。

願わくば、また忍たまのこういう新しい作品が観たいと思うばかりです。


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