読書感想文:ブルース百歌一望
著者は音楽評論家で、ブルース・インターアクションズ(Pヴァイン・レコード)創業者の日暮泰文氏。
氏がブルースの歴史を通じて、独自で100曲を選定しその背景や精神性などを考察していく読み応えのある本だ。
著書には有名曲もあれば、初めて耳にするような曲もある。
ブルースというジャンル以外でもジェームズ・ブラウンやアレサ・フランクリンなどのブルースとそこから密接したというような形でソウルやファンクの歌手の一曲も選定されている。
曲目は1920年代の曲もあれば、2000年代の曲もあったりとまさにブルースと世の流れ、そして人々の暮らし向きやシンガーの心情を深く知るにはとても興味深い一冊と言える。
ブルースは1900年代初頭に生まれたと言われる。
ブルースは自らのみならず色々な事象や、事柄を歌う。
昔起きた大洪水の事や、災害の事、政治的な事も含まれる。
本書の序文に出てくるブルースの説明だ。
この説明だけで充分に何かが伝わってくる。
そう、ブルースは身近にあるものなのだ。
その出所がそこにはしっかりと書かれている。
人々はブルースを歌う事によって、何を訴え、何を表現していたのだろう。
その考察は各時代によって変わり、秘められた意味みたいなものが明かされているようで大変興味深い。
その時代に生きてきた人々の生の感情をそこに感じるようで、ブルースの歌の意味をひも解いているようで、そこにはまさしく人間の感情や叫び、そして誰に対して歌っているのかと著者の考察は、誠に鋭く深く考えられている。
こうもその人生の深みから生まれてきた歌というのは深いものなのか。
その熱のこもった歌い方や、咆哮などに一種の感情と時代性が込められていることがよく分かるのである。
そして歌を通じて地理的なことや、シカゴブルースの時代に歌った有名シンガー達のあの歌にあった背景や、その後などが詳しく知れて凄くためになる。
面白い事に当時の関わってきた人々の人間関係のような事も書かれてあるので、その繋がりや関わりみたいなものがよく分かったりする。
ブルースに替わってファンクやソウルが主流になる頃の話など、曲を絞って絡めて書かれているのでまあ、資料的な側面もあると言えるのかな?
なのでラップの事もちょっと触れてたりしているので、時代の波に乗り、ブラック・ミュージックがどのように派生してきたのかを知る上でも根幹の部分を掴んでいるような気もする。
まああくまでも感想ですが。
時代の波に乗り、ブルースはどういった過程を辿り、そしてどのような感情や思いがこもっていたのか…。
そう、感情や表現としてのブルースを捉えながらも、著者の言葉である「本流ブルース」というものが生まれたプリミティブな部分を知ることを忘れてはいけない。
それは根幹の部分でもある。
なので、この選ばれた100曲の深い考察や背景を読んでいると全てが地続きに繋がっているとさえ思ってしまう。
一言にいうと歴史、なんでしょうね。
そういった積み重なった歴史や伝統のスピリットを忘れないようにするためにも先輩シンガーが、後輩シンガーにと脈々と受けつがれていくんでしょうね。
確かバディ・ガイも若いブルースマンを発掘して指導したりしているとか。
1930年代生まれのバディの言葉はきっとブルースとは…っと受け継がれていくものになるんじゃなかろうか。
まああくまでも想像ですが。
この約100年の間で選ばれたブルース曲は激動の歴史と共に歩んできた事も充分と分かる。
そして人々の生活に、文化に、お喋りに、男女間の話題に、はたまた動物の事などブルースは雄弁に語る。
一人の人間がどういった状況に置かれていたのか…。
どのような経験をしてきたのか…。
著書の「ブルースの明日といま」という項に紹介されている作品からの本文の抜粋だ。
色々なブルースが表現としてあるが、このブルースが自分から生まれてくるもの、そして隣に居座っているものという事を痛感する項でもある。
そしてブルース衝動というものが内から発せられている事もまさしくブルースのプリミティブな部分でもあるのであろう。
過去もブルース、未来のブルース、そして今そこに横たわっているのもブルース…。
このブルースという音楽の捉え方は様々なのであろう。
著書では色々なブルースが紹介されている。
その人間の生の感情を、そして秘められた事を、悲喜こもごもを辿る上でも最高の一冊なのではないかと思っている。
記事を最後まで読んで頂き誠にありがとうございます!
本書の中の一曲、ウイリー・ブラウンの1930年に録音された「フューチャー・ブルース」。
宜しければご視聴下さい!