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モーツァルトの『ポストホルンセレナード』

 先日の『セレナード第7番K.250/K248b「ハフナー」と行進曲K.249』と同様の趣向で、廣部知久『いつもモーツァルトがそばにいる-ある生物学者の愛聴記』を引きながら『セレナード第9番K.320『ポスト・ホルン・セレナード』と行進曲(K.335)について書きたいと思います。

『ハフナー』や『グラン・パルティータ』などと並んで人気のあるセレナードです。聞いて幸せになれる楽しい音楽で、しかも陰影に富んでいて私も実に好きな曲です。作曲経緯はよくわかっていないが、と廣部さんが記します。

ザルツブルク大学の学生の卒業式の音楽(フィナ―ル・ムジーク)として依頼されたものと考えられている。当時の学生は試験を終えると、ミラベル宮殿で大司教への御前演奏をし、行進曲を演奏しながら大学に向かい、教授の前で再度音楽を演奏するのが常であった。そのための音楽が「セレナード」と呼ばれていたのである。「ポスト・ホルン・セレナード」という愛称がついているが、郵便馬車で旅立つ学生の象徴がこのポスト・ホルンであった。

廣部知久『いつもモーツァルトがそばにいる-ある生物学者の愛聴記』第148章

「セレナード」や「行進曲」の意味と意義、そしてこの曲の愛称など実に興味深い説明に納得です。
 映像をYouTubeで検索しましたところ、生真面目な演奏や行進曲を省略したものが多い中で、わたしの琴線に触れたものをご紹介します。

 指揮者が登場した際に、コンサート・ミストレス(マスター)に何かをささやいて高笑いさせるシーンが印象的です。また、ジョークでオーケストラのメンバーをリラックスさせようとした指揮者のうわてを行くこの女性。演奏の技量もさることながら肝っ玉の座った方です。

 勇壮な行進曲から始まり、第1、第2、第3楽章と明るい基調のなかに陰りも時折交えるモーツァルトの音楽の魔法で、わたしの幸福感もどんどん高まっていきます。
 第4楽章が終わったときのことでした。フルート、オーボエ、ファゴットなどの木管楽器やホルン奏者の熱演を称揚して立ち上がらせるシーン。観客ももちろん拍手で讃えています。楽曲全体の演奏後にはよく見る光景ですが、演奏中でのこのような場面は初めて目にすることです。

 ひとしきりの拍手のあと、指揮者の指示によりオーボエ奏者の出音でオケが調弦します。途中での調弦もオーケストラの演奏会では常態ではないと思いますが、指揮者に意図があると思うので引き続き見ていきましょう。

 第5楽章のアンダンティーノ楽章へとみちびきます。「セレナードのわくを超える深い悲痛感と暗い緊張感」と、手もとのレコードの解説(※)にもある通りの、印象に残る曲調です。このビデオでもオーボエ独奏女性の音楽性が際立っています。

 次の、第6楽章では、トランペット奏者が持ち替えた、ポストホルンの音色を堪能できます。楽章終了後、また指揮者が独奏者を立たせ、観客が拍手した場面で映像が突然切れてしまいます。
 えっ?実際の演奏で最終楽章を省略したとは思えません。次に向けて指揮者がタクトを挙げていましたから。演奏されていたかもしれない行進曲の後奏も含めて、とても残念。最後まで見たかった。

 指揮のジョージ・クリーブはもう故人ですが、1890年オーストリア・ウィーン出身で、1940年に家族と共にアメリカへ移住したとのこと(ウィキペディア)。

 ジョージ・セルに師事したことがあるそうです。同じファーストネーム、同じくヨーロッパからの移住組、厳しい指導姿勢という点で共通性を感じますね。
 セルほど著名ではありませんでしたが、モーツァルトに造詣と愛が深く楽団の指導も厳しいものがあったようです。ビデオの冒頭の、あの笑いの場面からは想像できませんね。

 とてもいい演奏なのに編集が尻切れトンボで、YouTubeにこのオーケストラに関する情報がありませんでした。これも残念なことです。

※わたしの愛聴盤です。カール・ベーム指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団演奏のグラモフォンレコード。

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らいとらいたあ
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