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モーツァルトの『ハフナーセレナード』
廣部知久さんの著書『いつもモーツァルトがそばにいる-ある生物学者の愛聴記』はわたしの愛読書です。その、第138章 『セレナード第7番K.250/K248b「ハフナー」と行進曲K.249』。著者のこの曲に寄せる愛にあふれた記述が心にひびきます。
俗に『ハフナーセレナード』と呼ばれるのですが、ザルツブルクの富豪ハフナー家の子息の結婚式前夜祭のために作曲し、友人の結婚式に当日指揮者兼ヴァイオリン奏者としてみずから演奏したモーツァルト。さぞや幸せな気分であったに違いありません。
この曲がとても好きな私は、昔から複数のレコードを買って聴いてきました。残念なことに生演奏は聴いたことがありませんでした。有名曲、特にロマン派の交響曲などの楽曲に偏りがちとも思える我が国のクラシック界。名曲と言えど、セレナードなど軽く見られているのでしょうか、演奏会で取り上げられることは稀です。
今回、生演奏ではありませんが、ユーチューブで演奏会の録画を視聴する機会がありました。それがとても気に入りましたのでご紹介したい気持ちが強くわいてきました。Stuttgarter Kammerorchester & Thomas Zehetmairとクレジットがあります。シュツットガルト室内管弦楽団、指揮とヴァイオリン独奏がトマス・ツェートマイヤーさん。場所はシュツットガルトとのことです。
演奏もさることながら全体を通して、コンサートミストレス(向かって左)とその後ろ(さらにその左)の第1ヴァイオリンの女性の笑顔に惹かれました。コンサートマスター、またはミストレスは指揮者の意志を汲んで、楽団に仲立ちをする役割と、一種のムードメーカーの役割があると思います。
お二人の表情を見ているとそのことがわかるとともに、それだけではないご本人たちが演奏を楽しんでいる様子が伝わってくるのです。それはわたしの思い込みかも知れませんが……。でも、演奏者が楽しんでいなければ、聴衆に曲目のよさが伝わるはずもないことは自明ですよね。
聴いているうちに、わたしは涙しました。久しぶりです。音楽を聴いていてそうなったのは。幸福感に満たされてそれが心からあふれ出た結果の涙です。
ツェートマイヤーさんは、1961年オーストリア・ザルツブルク出身のヴァイオリニスト・指揮者とのことで、国際コンクールにも数多くの優勝・入賞歴のある方です。
ツェートマイヤーさんが、モーツァルトになり切ってかどうかわかりませんが、入魂のヴァイオリン独奏をした第4楽章の後で聴衆から大きな拍手で讃えられたことに少し驚きました。日本では拍手は全曲演奏の後にされるのが普通です。彼の技量と熱量に聴衆が魅了された証しでしょう。こういう自由さが羨ましいです。
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