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連載小説『ヰタ・セクスアリス・セーネム』四章 レンタル彼女(一)

 西本が「きたでー」と順平の部屋を訪ねてきたら、
 順平が「おらんでぇ」と自分の不在をこたえる。
「おるやん」と西本がツッコめば、
「おれちゃうでぇ。ひと違いや」とボケる。

 今日も軽快なあいさつを交わす順平と西本だ。和美が友達と出掛けたのでこわいものなしの西本がイチゴのパックを差し出してしゃべる。
「これ、かずちゃんに」和美への気配りというか、ご機嫌取りのつもりだ。「どや、肩のぐあいは」と順平への気づかいも一応する西本。
「まあまあ、可もなし不可もなしっちゅうとこや」と順平がこたえて言う。
「いつも、煮え切らんヤツやなぁ」と西本が突っかかると、
「いつも、煮えすぎのグツグツ野郎やなぁ。来週には、ギブスを外せそうや。どや、優秀やろ」と応酬する順平だ。
「今日はなんかおもろい話あんのか」と、実はひまを持て余していた順平が西本にくいつく。
「聞きたいかぁ。まあええやろ。特別に無料で提供するわ」ともったいつけて西本。

「おまえ、レンタル彼女って知ってるか」
「聞いたことあるけどよう知らんわ」
「こないだの話やけどな、オレがお袋の車いす押してレストラン行ったときになぁ」健一が、このあいだの土曜日に彼のお母さんを連れてランチに行ったときに耳に入れた情報らしい。地獄耳の西本はなにを仕入れたのだろう。
「俺とお袋、テーブルはさんで向かい合って食べとったんや。で、しばらくたったときやった」

 そこからの内容をかいつまんで言うとこうだ。西本がふと見ると目の前の通路を左から右に、女性が先に、そのあとに男性がよこぎって、西本たちの隣のテーブルに座ろうとした。
 女性が二十歳台前半の若さに見えて、男性は五六十歳台か。女性が壁ぎわの椅子に腰かけて男性は通路を背にして座った。つまり健一の右側に女性、お母さんの左側に男性という位置関係だ。
 聴くとはなしに、隣の席から聞こえる会話が西本の耳に入る。ふたりの関係が気になり出したのはしばらくしてからだ。

「最初は親子連れや思っててんけどな、ふたりが丁寧語で話すんや。ということは、普通考えたら親子や親族ではないやん。つぎに思うたんは教師と学生のふたり連れで、研究会とかの行き帰りとか。けど、ふたりの服装も話の内容もそれらしくもないねん。
「服装がなぁ、女性が、上品なワンピとコート、バッグをオフホワイト系でスッキリまとめ上げてるんやけど、男はごく普通のダークな上着になぁ、黒いダウンジャケット姿で、さえへん印象やねん。釣り合わん、っちゅうのんがまあふたりに関する印象やった。
「メニュー見ながらふたりが、ハンバーグやらエビフライ、メンチカツなんかをあれこれ楽し気に選んでた。食事がきたとき『おいしそう!』とふたりで盛り上がってたわ」
 西本がちょっとうらやましそうな顔で一区切り話し終えた。
 

 
 
 
ゆりがえる さんの画像をお借りしました。

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