健全なファッション物欲って何だろう?
こんにちは!able sustain.発起人のアキトモです。
国連貿易開発会議(UNCTAD)が2019年4月30日に発表した資料によれば、ファッション産業は石油産業に次いで“世界で2番目に環境負荷が高い産業”。
この文字情報を最初に目にした時の精神的ダメージを受けたことは、今でも鮮明に覚えている。
自称ファッション愛好家/業界従事者として、地球環境をばりばり破壊していると言われながらもファッションを楽しみたい!そんなモヤモヤした気持ちを払拭するには、”健全なファッション物欲”について定義化する必要を感じて、今回のテーマを設けました。
それでは、毎度の通り、弊社のCSO(チーフサステナビリティオフィサー)的活動担当のエリナ、へバトンタッチ。
僕と一緒にファッション業界の知人や友人へアンケート調査した結果を基に、
ファッションやストリートカルチャーに疎いからこそ、為せる彼女の業(執筆)を楽しんでもらい、何かの気づきを得て頂ければ嬉しいです。
able sustain.の記事執筆を担当しているエリナです。
好きなこと、興味のあることを仕事にする。ただ、その業界への風当たりが強いあるいは世間からの評判が良くない場合に、自らはどうその状況を捉え対処し、仕事にフィードバックしていくのだろう。
ファッション業界への風当たりは確かに強い。
では私の勤めている再生可能エネルギーの業界はどうか。メガソーラー(大規模な太陽光発電所)は環境破壊だ、太陽光パネルは児童労働によって生産されている、といった考えを持った人は一定数居る。それらは事実の一部であり、業界全体としては課題を認識している。100%問題を生まないようにすることは難しいものの、持続可能なエネルギー転換には欠かせないインフラであり、技術革新や利益構造の見直しによってより良い形にしていけると反論してきた。
ファッション業界に勤める人たちも、おそらく私の言い分と似たテンプレートで意見を持っているだろう。一つ違う点があるとすると、その業界を選んだ理由だと思う。ファッション業界を就職先に選ぶ理由として圧倒的に多いのは「ファッションが”好き”だから」である。
(株式会社ワールドが2022年に実施したアンケート結果より)
ワールドのアンケートで注目すべきは、ファッション業界への就業意思がなくなった理由の方だ。全体の1%程度であるが「環境に対してマイナスイメージがある」「大量生産に興味がない、売れるものをつくらないといけない」というものがあった。
現在進行形でファッション業界で勤めている人々も同様の葛藤を抱えているのではないかと思う。
ということで、私もファッション業界を内側から見る視点を得たいと思い、日々ファッションを仕事にし、商品を販売する店員たちにヒアリングしてみた。
ヒアリング概要
ヒアリング対象者:9名
年齢:20代
勤務形態:正社員・パート・アルバイト
質問:
地球環境への配慮として普段から心がけていることは何か?
自身のファッションの消費量は多いと思うか、思わないか?その理由と、それが地球環境に負荷をかけていると思うか思わないか?
最終製品だけでなく繊維素材のこと、消費者に渡った後など、商品の販売前後について考え、アクションを起こしたことはありますか?もしくは何か取り組んでみたいことがあれば教えて下さい。
ファッションは経済、社会、文化、個々人の自己表現にとっても重要なもの。大量生産・大量消費のビジネスモデルとはおさらばしつつ、いかにファッションを楽しむのか。得られた回答を見ていきましょう。
アパレル店員のクローゼット事情
アパレル店員はファッションアイテムの消費量が多いはず。
彼らはファッション好きということに加え、店舗での接客時に自社ブランドの服を着る、流行を取り入れたスタイルを心がける必要があるからだ。
質問2.自身のファッションの消費量は多いと思うか
9名のうち、「多い」と答えた人が4名、「多くない」が4名、「どちらとも思わない」が1名であった。
「多くない」に分類されたこちらの回答、
どういうことかと言うと、勤務時の服装≒プライベートの服装であるので、消費量そのものが抑えられていることに加え、この回答者の場合はそのブランドの製品自体の環境負荷が小さいのだ。
環境への負荷の観点ではファッションの消費量は当然少ない方が良い。ただ職業柄致し方ない部分に対して、それぞれが実践している工夫に注目してみる。
環境問題への取り組み、というと何から始める?
環境への負荷を下げるために自分たちが出来ることを、どのプロセスで実践するかについて考えが分かれていた。
例えばレザーバッグについては、以下のような実践が挙げられる。
購入段階:レザーの製造時に天然素材を使っているか、節水をしているか、長く使い続けたいと思えるデザインかを確認して購入する。似たようなアイテムをリユース品で購入できるかも考慮する。
使用段階:気が向いたときでも良いので、レザーの手入れをする。
手放す段階:メルカリに出品する。レザーのリサイクル回収サービスを利用する。
質問1.地球環境への配慮として普段から心がけていることは何か?
質問2.自身のファッションの消費量は多いと思うか
2つの質問の回答は関連度が高かった。つまり・・・
質問1でモノを必要以上に買いすぎない、あるいは顔の見える関係性で購入するなどの購入段階での取り組みを挙げた人は、質問3でも購入するアイテムの環境負荷を考えた行動を挙げていた。
また質問1で、ゴミの分別やゴミ拾いなど廃棄の段階での取り組みを挙げた人が多かったが、続く質問3でもリユースやリサイクルといった手放す段階での取り組みを挙げていた。
不要になったアイテムを手放す際には、リユースを選択することがより身近になった。リセールバリューを考慮して、ブランド品や限定品を購入する行動もある。
顧客とのコミュニケーションの場
able sustain.の記事でも取り上げた、アウトドアブランドのパタゴニアのスタッフさんにも今回のヒアリングに協力頂きました。
同社はミッションに「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」を掲げており、店舗に入ると目に入る商品に関するパネルからもその本気度が伝わってくる、と思うのは私自身の環境問題への関心度がとりわけ高いからかもしれない。
ただ、店舗での接客での直接的な消費者とのコミュニケーションにおいては、実際難しいところもあると言う。
接客以外の場面で、パタゴニアでは環境団体を招いたイベントやドキュメンタリー映画の上映会を開催しており、スタッフ自らが環境問題の話をするきっかけが多くある。その機会を活かして今後は「様々な大学に出張してリペアイベントをしていきたい」と伝えてくれた。
アパレル業界に携っているからこそ、やりたいことは?
身近に納得できる仕組みや取り組みがない場合、自ら行動を起こしてそれを作り出すことも一つの方法だ。質問3(商品の販売前後について、何か取り組んでみたいこと)の回答では、店員としての単なる販売活動に留まらないアイデアが含まれていた。
現実にはスタッフの職種や立場によって、できることには限りがある。それでも組織がスタッフからの積極的な提案を受け入れ、実行に移せる環境を整えたり、店舗内外で環境問題について語る機会を作れば、結果的に企業全体のブランド価値も高まるはずだ。
作り手への理解
衣服が環境に与える影響は、デザインの段階で最大80%決定されると言われる。デザインによって素材や縫製方法、染料の選択が左右されるためだ。
ヒアリングではこういった意見も寄せられた。
ファッションデザイナーは、ブランドの方向性や流行のスタイル、時代の訴求に合わせて抽象的なイメージを具現化する役割を担うほか、原料の調達元や製造工場といったサプライチェーンの上流にも関与することがある。
ファッションのサステナビリティというと、最近は環境負荷を軽減するために、オーガニックコットン、リサイクルポリエステルなど持続可能な素材ばかり注目されるが、生産工程全体としてサプライヤーとメーカーがwin-winな関係を築けているのか、長期にわたって継続可能なビジネスモデルなのかといったことにも目を向けていきたい。
あとがき
ファッションは環境悪だと思う半面、それはファッションの機能面に偏った話で、情緒価値を提供していることにおいては、ずっと人間の精神面の持続性に寄与してきたことは、強く訴えたい。
心身が健康な人間がいないと、サスティナブルな取り組みも行えない、ある意味本末転倒なことになりますしね。(アキトモ)