エイブル・アートSDGsプロジェクト2023「LIFE IS ART〜生きることは表現すること〜」フォーラム レポート
2023年11月18日、近畿ろうきん肥後橋ビルで、エイブル・アートSDGsプロジェクト2023「LIFE IS ART〜生きることは表現すること〜」が開催されました。
寒さに外出をためらわれる方が多いのではと少し心配しましたが、幕が開けばたくさんの方が足を運んでくださり、ワークショップ、フォーラムともに心揺さぶられる一日を共に過ごすことができました。
本レポートでは、午後に行われたフォーラムについてお伝えします。
午前中に行われたワークショップ(ワークショップのレポートはこちら)に続き、午後から「高齢化と表現を考える」をテーマにしたフォーラムが行われました。
はじめに50歳からのハローシアター主宰の細見佳代さんに「50歳からのハローシアター(以下ハローシアター)」の活動についてお話を聞きました。
ハローシアターのメンバーは現在64歳から85歳の17名。自営業、主婦、パーキンソン病患者、退職者、、、様々な背景の人たちが集って活動しています。細見さんは、シニア世代の話し方に深みや味わいがあることや体の存在感に惹かれ、この活動を続けているのだそうです。
日々の活動では例えば発声練習で、普段人に言えないことを言いそれをみんなで繰り返したり笑い合ったりするなど、「お芝居」という非現実=安全な枠組みの中で過ごしてまた現実にもどる、芝居技術の練習にとどまらない体験がたくさんあるのだそう。
この日はハローシアターのパフォーマンスも披露されました。タイトルは「わたしの手」。
これはコロナ禍で対面の稽古ができないからとオンラインでワークショップをした際、画面に全身は映らないけど「手」はよく映ることに細見さんが気づいて着想し、メンバーに「わたしの手」を題材に詩を書いてもらった事からできた作品です。
「手」ということでいうと、、、
実は2007年に近畿労働金庫主催「エイブル・アート近畿 ひと・アート・まち」で職員のみなさんが色んな「働く人の手」を撮影した写真展が開催され、細見さんも偶然観られていたのだそうです。意外なつながりに主催者に嬉しい驚きが広がりました。
「自分の手をみてください。その手で毎日どんなことをしていますか?何をしているときが楽しいですか?」
静かな問いかけの声でパッと場の空気が変わり、「手」を通してメンバーの生涯が語られはじめます。
子供の頃の、若い頃の、中年の今の手。
手で触れたもの、得たもの、手放したものが全身で、言葉で語られる芝居に会場に感動が広がります。目頭を熱くする観客もちらほら。
メンバーそれぞれのパーソナルな物語なのに、何かしら自分や近しい人と重なり合うものを感じたり、ハッとさせられたり。観ている自分たちの身に沁みる舞台でした。
続いて、紙芝居劇むすび(以下むすび)マネージャーの石橋友美さんから活動についてお聞きしました。
むすびは2005年に結成。活動拠点の大阪市西成区釜ヶ崎は石橋さん曰く「人生そのものを表現している人がたくさん住んでいる街」。
メンバーの平均年齢は73歳。仕事が好きな人たちが人前でパフォーマンスをする姿の素朴さが観る人に好評で、若い人たちも応援してくれるのだそうです。
元々は日雇い労働出身のメンバーが多かったですし、今のメンバー達もわりと一匹狼的に生きてきて人と繋がって何かをすることが少ない中で「遠くの親戚より近くの他人」のような密度の関係性ができていて、亡くなった仲間をみんなで見送るなど出会いと課題に向き合いながらこの「たまり場」ができています。
鬼のパンツやお面、おさげのついた帽子など、紙芝居劇の衣装をまとい個性全開で自由度の高い「おっちゃん」たちに挟まれている石橋さんの語り口調はとてもにこやかでフラットで、その存在があってこそのむすびなのだろうなと感じられ、とても印象に残りました。
今日披露された紙芝居は「文ちゃんの冥土めぐり」。
主人公の5歳の女の子文(ぶん)ちゃんが死んでしまって、地獄で無邪気に鬼さんや閻魔さまたちと遊ぶお話です。
文ちゃんを演じるのは94歳の長谷さん。
なめらかでゆらぎのある唄のような文ちゃんと、優しそうな(弱そうな?)鬼さんたちの語り口に魅了されていると、おもむろに鬼のパンツの踊り。ん?振り付け?もしかして素??
非日常を飛び越して異次元に来たような体験。
途中で鬼さんが台本のセリフを見失う場面もあったり。と思えば、白鳥が登場してバレリーナのような優雅な舞を披露したり。
物語の最後、死んで地獄に行った文ちゃんが生き返ったときのナレーション
「生き返った文ちゃんがどうなったか、みなさん考えてみてください。」
には、ハッピーエンドや悲劇など、何にも帰結しない物語のあり方を感じ、そこにむすびらしさを感じたのは筆者だけでしょうか。
ありがちな、おっちゃんたちの苦労人生が表現される…とかでもなく、むしろその人生ではほとんど表すことのない、大切な深層部分を特別にのぞき見させてもらったような感覚もあり、「紙芝居」を通して期待をはるかに超越した、なんだかとっても貴重な体験ができました。
さて、手の物語にじーんときて、異次元に楽しく優しい地獄めぐりの後は、細見さんと石橋さんに今日の公演やそれぞれの活動についてお伺いしました。
(岡部/司会)今日のハローシアターのお芝居が素晴らしかったのですが、どれくらいの期間で作ったのですか?
(細見)週2回の練習で2ヶ月間です。私はそれを構成はしましたが、ストーリーはご本人たちの言葉です。ここ(ハローシアター)が「自分をオープンにする場」ということになっていて、そこでは自分の話なんだけどそれを自ら演じるという感覚がある。17年続けているので17のレパートリーがあります。
(岡部)フォーラムの事前に練習場にリサーチに伺ったときも、私たち主催者スタッフがいつのまにか練習に参加していました。練習では上手い下手ではなく、コミュニケーションの仕方を入念に考えられていると感じました。
文ちゃんの紙芝居劇はどんな感じで作られたのでしょうか。
(石橋)オリジナルとしては「文ちゃんの冥土めぐり」が一作目です。配役では主役を一番高齢の人がすることが多いです。冥土の土産というか。笑。みんな役のとりあいで喧嘩するようなことはないですね。
(岡部)本番で誰かが失敗するけどみんなが勝手にフォローし合うという関係性はどうやってできてるのでしょうか。
(石橋)日常で同じ釜の飯を食べる、その場で各々好きにしていながら、何を言っても許されるし個性を受けとめる。というのが効いていると思います。
その中で、メンバーとして受け入れるのは誰でもいいというのではなく、とても気を付けて選んでいます。
(岡部)人前でそれぞれがキャラクターを発揮できるためにはどうしてるのでしょう?
(石橋)だいたいみんな初めは人に連れてこられてるんです。いろんな背景でいろんな生き方をしている人が、それを受け入れられたときに何かが開花しているのじゃないかと思います。長谷さん(文ちゃんを演じた)は自分がゲイであることを隠さないといけないと思っていたのをオープンにして活き活きとされた。浅田さんはずっと芝居が好きで、一時はプロとしても活動した方。それぞれだと思います。
(岡部)細見さん、石橋さんがお互いの舞台を観ての感想はいかがですか?
(細見)うちとは逆で紙芝居は物語が始めに決まっていて、伝統芸能のような印象があります。きっちり役のある中で個性がでるというのが面白く拝見しました。
(石橋)ハローシアターは女性が多いですよね。女性ってすごいと思いました。「私はこうだった!!」といえる姿に雷に打たれたような気がしました。抑圧されてきたからこその自信や表現を人前に立って見せる勇気はすごいです。私も「私は生きてきた!」と言えるようになりたいです。
(細見)一人ひとりの人生の中にも、他の人が見たときに伝わるカタチを見つけるのが難しいです。むすびさんは伝統芸能のような形式でそれを表していますね。
(岡部)劇のはじめと最後に浅田さんが拍子木を手に調子をバチッと決める、そのフォーマットの力を感じました。
ハローシアターは女性の参加が多いですし、むすびも男性、女性、その間とある中で、50歳になったとき、僕はどこに行けるかと思ったりします。
むすびさんの稽古を見に行ったときにみなさんがそこでダラダラする感じがずっとあって、それがとても大事なんだと感じました。
(石橋)紙芝居というより、一番はみんなで過ごしたいというのがありますし、その人のナチュラルな姿が出るのを見せたいと思っています。
今回のプロジェクトでは高齢化がテーマでしたが、「高齢化」というより「生きる」というテーマを感じました。人生は「起承転結」とはいかないんだなと。文ちゃんも「終わり」から物語が始まっている。細見さんも石橋さんも「私が私らしくある」「安心安全の場」を作っているということろに感銘を受けました。
これからもこのプロジェクトで人が生きること、人の豊かさを共有できるといいなと思います。(岡部)
撮影:衣笠名津美
レポート:小松紀子
「エイブル・アートSDGsプロジェクト2023」
「LIFE IS ART」〜生きることは表現すること〜
開催日:2023年11月18日(土)
会場:近畿ろうきん肥後橋ビル
1.ワークショップ「手が語る、わたしの人生の物語」
ファシリテーター:細見佳代(50歳からのハローシアター主宰)、50歳からのハローシアターの俳優のみなさん
2.フォーラム「高齢化と表現を考える」
登壇者:細見佳代(50歳からのハローシアター主宰)、石橋友美(紙芝居劇むすびマネージャー)
進行:岡部太郎(一般財団法人たんぽぽの家 常務理事)
3.展覧会「ヒューマンレガシー」
4.「出張GOOD JOB STORE」
主催:近畿労働金庫
企画・運営:一般財団法人たんぽぽの家
協力:NPO法人関西NGO協議会・きょうと障害者文化芸術推進機構 ART SPACE CO-JIN・(社福)わたぼうしの会
後援:大阪府・大阪市・(社福)大阪府社会福祉協議会・(社福)大阪市社会福祉協議会・(一社)大阪労働者福祉協議会・大阪府生活協同組合連合会・こくみん共済COOP(全労済)大阪推進本部