見出し画像

やまなみ工房 訪問レポート

京都で活動する副産物産店の矢津吉隆さん、山田毅さんのお二人と、エイブル・アートSDGsプロジェクト2022の事務局スタッフがやまなみ工房(滋賀)を訪問しました。
本記事は「”福”産物ツアー」とは別に、やまなみ工房の活動についてレポートします。※”福”産物ツアーのレポートはこちら


◇ 訪問レポート

やまなみ工房敷地内のカフェ デベッソにて

やまなみ工房に到着した私たちは、敷地内にあるカフェ デベッソで支援員の棡葉(いずりは)朋子さんより施設についてご説明いただきました。

カフェ デベッソの内装・建物や、いただいたパンフレットがスタイリッシュで素敵なのでデザインについてもお伺いしました。
やまなみ工房のホームページ、グッズも含め、デザインはRISSI INC.さんの手によるもので統一されているのだそうです。
また、やまなみ工房のファッションブランドDISTORTION3や写真集などはRISSI INC.関連プロジェクトで笠谷圭見さんの主宰するPR-yによってプロデュースされているそうです。

やまなみ工房のパンフレット


やまなみで生まれるアートが一覧できる「ギャラリーgufguf」

カフェを出た後は「ギャラリーgufguf」へ。
こちらにはやまなみ工房の利用者の方々の作品が所狭しと展示されています。ギャラリーをみるだけで、ここで生まれる作品の多様さと物量に圧倒されます。
ふと気づくと作品の傍で利用者さんがのんびり休んでいました。
のびのびとしたやまなみ工房の雰囲気を象徴しているようで印象的なシーンでした。

ギャラリーで作品を観た後は、創作活動の拠点、アトリエを廻りました。
アトリエはやまなみ工房の敷地内の建物の中に点在していて、利用者さんの個性に合わせて空間の作り方が工夫されています。

カフェの3階にあるアトリエでは一人一つの机で集中して創作できるよう室内が整えられ、たくさんの利用者さんが制作していました。

縦縫いのみで作られた刺繍作品を紹介する田中乃理子さん
棡葉さんの説明も手慣れている

吉川秀昭さんが繰り返し描く「顔」は、細かな「目、目、鼻、口」で構成され絵画や陶芸作品として表現されています。
ちなみに棡葉さんの手している、「目、目、鼻、口」の説明用のミニホワイトボードはとても使い込まれた感じで、やまなみ工房への見学者の多さを物語っており、全国からの注目度の高さが伺えます。

飲み終えた空のペットボトルに布などを貼って作られた立体作品


2階のアトリエ「B-CHIC」へ降りると3階とはまた違った雰囲気で創作活動が展開されていました。

B-CHICはみんなでワイワイ創作を楽しめるよう広々とした空間

この部屋で制作をする三井啓吾さんは、やまなみ工房が創作活動をはじめるきっかけを作った方です。
やまなみ工房では活動当初、下請け作業などをしていたのですが、三井さんをはじめ当時の利用者さんたちがあきらかに楽しそうにはみえなかったそうです。そのいっぽうで、絵を描いている時にはとても生き生きと楽しそうだったことから、施設全体を創造活動にシフトチェンジしていくことになりました。
三井さんは指を使って絵の具を塗るので、それを拭うティッシュがたくさんあります。やまなみ工房ではそういった作品以外のものもたくさん保管しています。

やまなみ工房が創作活動にシフトするきっかけとなった三井啓吾さん(中央)


やまなみ工房では、絵の具、クーピー、墨、糸、紙の芯、卵のパック、布、ビー玉、スポイトやストロー等々、さまざまな画材や道具を使って創作活動を展開しています。
支援員が画材や道具を並べて、利用者さんはその中から自分の好きなものを選んで使われるそうです。
長年活動するなかで、利用者さんの変化に伴い、それまでとは違う画材を提示することもあります。支援員と利用者の日々のコミュニケーションが大切にされているからこそ、細かな変化に気づき、新たな画材で創作し続けられるのだと感じました。


布をモチーフに制作する人たちのアトリエ「こっとん」

「こっとん」は主に布を使って創作するアトリエです。
こちらでTシャツなどの布に糸を縫う作業を続けている瀧口真代さんをご紹介いただきました。一つの作品を仕上げるのに1~3年かかっているそうです。
つまみながら縫うのでどんどん縮んで、大人用のTシャツも小さくなります。
どこまで縫い続けたら作品が終わるかお聞きすると、縫うところがなくなったら終わり、とのこと。

やまなみ工房では、数分で作品を仕上げる方もいれば、年単位の時間をかけて作られる方もいます。支援者は利用者さんそれぞれの時間の流れに寄り添い、それがやまなみ工房の自由でのびのびした雰囲気につながっているように感じました。

縫われて縮んだTシャツ
「アトリエころぼっくる」で創作する井村ももかさん(ピンクのウイッグの女性)
作品が有名になったこともあり全国から材料のボタンが寄付され、
好みではない黒いボタンは上から色を塗って使われる


障がいのある方のなかには、困った行為をされる方がいます。
自分の皮膚にできたかさぶたを剥がすのが好きな方がおられました。それによって傷がどんどんできてしまうので
支援員が工夫をし、絵の具の固まったところを剥がす提案をしたところ、剥がす対象がかさぶたから絵の具の塊に代わったそうです。

剥がす対象がかさぶたから絵の具の塊に変換され、容器に集められていく

他にも、見通しが立たないことが苦手な方が絵を描く際には、はじめに数本のクーピーを渡して、一本使ったらしまうことを繰り返し、渡した分のクーピーがなくなったら終わりにする、横線を描く時には用紙の上から下まで描いたら終わりにするなど、終わりのわかりやすいルールを決めることで安定して作画を楽しめる工夫をしているそうです。

多様なアーティストがたくさん集まっているやまなみ工房。
意外に感じたのが、現在90名ほどおられる利用者さんのうち、当初からアート活動をしたくて入所されたのは実は5名ほどなのだそうです。個人の才能や技術だけではなく、それらを引き出す支援者、自由と選択肢のある環境づくりが重要だとわかります。

最後に利用者さん同士の関係についてお聞きしました。
実は、利用者さんが他の方の作品の真似をして制作することもあるのだそうです。棡葉さんによると、真似することを「してはだめなこと」と捉えるのではなく、「表現の過程」と捉え、禁止することはないとのこと。

このお話には、副産物産店のお二人も「アーティストは環境や周りの人と影響しあってこそ新たな創作が生まれますからね。」と賛同されていました。

自然にかこまれた敷地

やまなみ工房では、利用者のみなさんがのびのびと自分のペースで創作や生活ができるよう、空間だけでなく、ゆったりした時間の流れも大切にされているのが印象的でした。


写真:衣笠名津美
レポート:事務局 小松紀子

==================================

社会福祉法人やまなみ会 やまなみ工房

1986年 滋賀県甲賀市で開設、利用者3名でスタート
2012年やまなみ工房新作業棟増築工事完成と共に「ギャラリーgufguf」「カフェhughug」「プライベートブランド&ショップGooChieGoo」「ライブハウスBanBooBon」がオープン
以降、PR-y プロデュースによるファッションブランドDISTORTION3 とのコラボ企画や、作品集の出版、やまなみ工房ドキュメンタリー映画 「地蔵とリビドー」 が公開されるなど、幅広い活動を行う。
2017年には海外で単独個展を開催
2020年日本財団助成 により「アートセンター&カフェレストラン」 開設
現在は90名の利用者が「誰にも歪められず自分自身の世界を築き表現」している。

==================================


いいなと思ったら応援しよう!