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エイブル・アートSDGsセミナー レポート

3月14日オンライン配信で開催されたエイブル・アートSDGsセミナーの様子をご紹介します。
近畿労働金庫とたんぽぽの家とで過去20年に渡り取り組んできた、エイブル・アート近畿「ひと・アート・まち」が今年度からはエイブル・アートSDGsプロジェクトとして新たに始動。
このセミナーでは今回のテーマである「子ども」に関する活動を進める4団体が登壇し、それぞれの活動を紹介します。また先の3月6日にワークショップを実施した2団体からはワークショップの報告も予定されています。
それぞれ異なる切り口や視点を持ち活動されている団体のディスカッションを通じて、どのような知見が得られるのか楽しみです。
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まずは「アトリエe.f.t.」の吉田田さんが、「新感覚ストア」から登場です。e.f.t.の活動を「名前のないわかりづらい活動」と話す吉田田さん。20年間続けているアトリエは受験予備校のスタイルでスタートするも、クリエイティブ(デザイン・アート・音楽)を通じて自分自身が学んだ豊かさをどう伝えていくか、と考える中でワークショップ中心の現在の形に至ります。
アトリエが掲げるのは「作るを通して生きるを学ぶ」。時には「寺子屋」や「夜回り先生」のような活動もし、来るもの拒まずでいろんな子を受け入れてきたところ、障害を持つ人たちの突出した能力にも気づき、自然と福祉のようなことにも関わっている。その境界線の曖昧さが「生きる」を学ベる場所と言える所以なのかもしれません。

当日開催されていた「新感覚ストア」とは、毎年3月に実施されているアートフェスで10年続いているイベント。今年は大阪・南堀江の古着屋店舗内での開催です。このイベントは半年ほどの準備期間を設け、アトリエの生徒が自分たちで諸々の担当、どんな風に作るかも決め、進めていきます。会場に並ぶ「習ったものがない」多彩な表現の作品も紹介していただきました。

e.f.t.は、ホームページなどから、まずは個人がやっている活動というのが伝わるので何か抱える人がアクセスできる余地がある。その延長に自分の苦しさを打ち明けてみよう、と思わせる状況があるのでは、と吉田田さんは感じているそう。先生と生徒というよりも「仲間」という関係性がそこにはあります。アトリエのスタッフ間で特別な何かをしているわけではないけども、まずは「あなたがそのままでいい」からスタートする文化ができている、と言います。
超肯定する=安心していられる場所を作ることがまずは大事。そこには「好き」の先に生き抜ける武器を手に入れた自身の経験から、「できないことはできないままでいい、できることをまず見つけよう。」という考え方があります。

吉田田さんの言葉の中にある、できることを見つけて伸ばすという視点は今回のSDGsプロジェクトにおいても重要だと感じました。
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次は「西淀川子どもセンター」西川さんのプレゼンテーションです。西淀川子どもセンターは地域に根ざした子ども支援を行なっており、子どもに向けての活動にとどまらずその周辺にいる大人に向けても働きかけることで、子どもを見守る環境を地域の受け皿として整えていくことを目指しています。

事業所のなかった活動開始当初は公園にパラソルを立て、子どもに呼びかけていたそう。そのアイデアからもしんどさを抱える子どもの声をどうにかして掬い取ろうという姿勢が伺えます。貧困・虐待・家庭環境や不登校、様々な要因が子どものしんどさの背景にはあるけれど、子どもは「助けて」と言えなかったり、言語化できない、ということがあります。そこで必要なのは気軽に話ができる関係性や大人が子どもを長く見守る環境。そしてそういった環境は楽しくあることが重要。この点において、先ほどのe.f.t.さんの活動のあり方に大きく頷いておられました。

勉強に限らず、ギターの練習や走る練習をする「てらこやプロジェクト」など、集まってきた子どもたちの悩み、些細な困りごとから様々なプロジェクトを立ち上げてきました。夜に帰りたがらない子どもたちのつぶやきから生まれた「一緒にごはん!食べナイト?」では夕方に子どもたちが集って調理をし、いただきます、ごちそうさま、を一緒にします。
西川さんの「子どものつぶやきの中から、個別にできることを考えながら活動している」の言葉通り、子どもの声に耳を傾けることが諸々の活動の原動力であり、効果の指標にもなっているようです。そして、子どもの微かな声を掬い取るには生活体験を共にすることが不可欠。「食べる」を通じて地域とつながる密度の濃いその活動には学ぶところがたくさんあります。

また、土間部と呼ばれる熟年スタッフが昔の遊びを教えてくれる、月に一回のボランティアシェフなど、多様な人たちとの関わりを作ることも大事にされています。

コロナ禍の今でもできる形を見つけ止まらず活動を継続されている西川さんは自分が子どもだった頃に想像力を働かせながら、今の子どもたちと対等な関係性を築いていきたい、と話されました。
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休憩を挟み、後半は「タチョナ」の活動紹介からスタートです。
3月6日に実施したワークショップの様子も合わせて紹介いただきます。

2011年より学校向けプログラム・地域向けプログラムを展開される「タチョナ」は、アートワークショップの企画、コーディネートを、講師やファシリテーターとなる方々と共に実施しています。学校向けのものは、学校の科目の一環として運動会のダンスの振り付けやパントマイムのワークショップ、また日用品を使った音遊びや、パッケージを使っての造形、写真の切り起こし、アニメーションや映画作りなど多岐に渡った活動を学校の現場に取り入れています。学校という枠組みだと誰もが平等にアクセスできる環境で、興味のあるなしに関わらず巻き込まれる。そこが学校向けプログラムの良い点でもあると、代表の小島さんは話します。

地域向けプログラムは「庄内つくるオンガク祭」(豊中で実施)など、その地域で活動している団体と共に地域の子ども向けに実施しています。3月6日に開催した「なんだこれ?!ワークショップ」は、2014年にスタートしたプログラム。講師は元現代美術家でもある編集者の岩渕さんです。
「なんだこれ?!サークル」は定期的に活動しており、発表して「なんだこれ?!」と言わせることを目標に「なんだこれ?!」を自分で考えて形にしてみせる、というものです。
とっかかりのアイデアだけを示し、子どもたちはそれを見て「なんだこれ?!」を作り出します。そうすると、でてきたものが我々がアートと呼ぶものと区別がつかなくなる瞬間があり、子ども向けのプログラムですが、大人がそこから気づくことも多い設計になっています。

先週のワークショップのテーマは「なんだこれ?!な、おしゃれをしよう」。
1時間ほど簡単なレクチャーをした後、それぞれがおしゃれをしてきて集まる、という内容です。実際、半年間続けるプログラムではストイックに「それが本当に『なんだこれ?!』ですか」というディスカッションを重ねて表現を高めていく。それを経ると、作ったものを堂々と見せるようになったり、作品の強度が高まる。すると、何をやっているのかもわからないのに見る人たちが固唾を飲んで作品を鑑賞し、自然と拍手が起こるようなことがあるのだそうです。
小島さんは「表現」で考えるとよくわからないことになるので「生き方」として捉えてほしい。よくわからない、嫌い、という子どもにはそういった問いかけをすることが多い、と言います。

また、このプログラムでは「誰かが真面目に作ったものを、誰かが真面目に見る」という関係性があり、芸術の基本をなぞっていると、岩渕さんは言います。間に何かを置くコミュニケーションの必要性。子どもたちの場合、表現することはあってもその先の、表現を介したコミュニケーションを機能させるところまでいかないことが多いので、そういう回路を作りたい気持ちがある、と、作ることの先に生まれる、人とのつながりを見据えた設計が「なんだこれ?!サークル」の活動に見えた気がします。
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最後に、「ママコミュ!ドットコム」出水さんの登壇です。
先の3月6日には「防災かるた」を作るワークショップを開催しました。

子育てを通して地域を豊かに変えていこう、と立ち上がったママコミュ!ドットコムは様々な視点からの防災に取り組んでいますが、現在子どもにターゲットを絞った防災活動を積極的に行なっています。その中で、子どもだからわかる、できる、伝えられることを形にして発信されています。
ワークショップでは子どもたちの発想力が必要な「防災かるた」に初めて取り組みました。これは70種類の取り札(絵札)の中から一つ好きな絵柄を選び、読み札(文字札)を自分で作る、というもの。自分の防災知識を引き出し、言葉にして伝えることが必要なワークです。実際に子どもたちが作ったかるたを見せていただきながら、このワークショップでどのように防災の知識を深めていったのかお話しされました。なぜ、その読み札を作ったのかを子どもたちに聞いたり、それぞれのイラストについて実際の災害の場面の知識を共有することで、防災の知識が子どもたちの中に定着し、また、すでに子どもたちの中にあるものをさらに伸ばすような内容でよく考えられたワークショップだと感じました。

身近な暮らしの中から世界の課題に目を向け、解決につながるアクションを意識して活動されているママコミュ!ドットコム。家族という単位で学びの機会を作っていくことがその防災プログラムの大きな特徴であり、子ども自身が子どもに向けて伝える、子どもから学ぶことを大事に活動されている、という印象を受けました。
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今回登壇いただいた4団体、形態は様々ですが、この場でお互いの活動からの気づきや、跳ね返って自身の取り組みの再確認もできたようです。
最後に進行の岡部より、皆さん共通して、間に、「食卓」「防災」「アトリエのようなもの」「アートのようなもの」を置くことで人と人がどうつながっていけるのか、ということをいろんな角度から豊かに考えている団体という印象を持った、と今回のセミナーを通じてそれぞれに共通するところも浮かび上がりました。
また、この一年コロナ禍で制約のある中でも工夫を凝らし活動の幅を広げている皆さんの姿に元気をもらった、と近畿労働金庫の八尾さんが本イベントを締めくくりました。

子どもに限らず、誰にとっても安心していられる場所。それは多様な出会い、関係性の中で育まれる。そういった意味でも、今回のセミナーでの出会いがこの先にまた新たなアクションを生むきっかけになれば、と思います。

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