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ババア☆レッスン(その8・出産、3人目)

 3人目の出産は40歳の時だった。父親は、2人目の時と同じ男である。バツ2にはならなかった(今後も、なる予定はない、多分)。 
 「雑な子宮保持者」である私は、またしてもシレッと妊娠したわけだが、その妊娠発覚時の事は、なかなかに忘れがたいエピソードとして記憶に残っている。

 その晩、私は編集さん達と新宿で飲んでいた。あははアハハと陽気に楽しく飲んでいた。そこまでしたたかに飲んだつもりはなかったが、相当に泥酔してしまった。タクシーで帰宅後、とにかく吐き気が治まらず、朝まで便器に顔を突っ込んだまま身動きが出来ない。
見かねた夫が、私を抱え込んで近所の病院へ連れてってくれた。
そして、二日酔い対策の点滴を打ってもらえる事になったわけだが、その時。
「妊娠してませんよねぇ〜〜!!?」と、医者。
「妊娠してませーーーん・・・・・」と、死んだ目で答える私。
とりあえず点滴を受けたおかげで、異常なまでの吐き気が治り、その後、ヨロヨロしながら無事帰宅出来たのだが。

・・・・・要するに私はその時、妊娠していたのである。
本人が気付いていなかったのである。
後日、妙な予感がして妊娠検査薬でチェックをしたら・・・案の定、陽性。「妊娠してませーーーん」なんて言ってる場合じゃなかったわけだ。本当に、全てにおいて、雑。

 というわけで、さっそくまた例の、杉並区にある無痛の病院へノコノコ出向いた次第。出産予定日を告げられ「ああ、また妊婦になったのか・・・」と、なんとなく、ホゲ〜〜と白眼になった・・・・と、こんなふうに書くと「世の中には子供が欲しくても授からない人達が大勢いるのに!!」という意見がまた湧きそうだが、私は「あの一派」と同じ子宮だから仕方ないのだ。
ヤンキーと毒親。何故だか子宝に恵まれてしまう、あの一派。

 そしてまた始まった妊婦生活。
予想していた通り、性別は男の子だった。それ以外は何も目新しい出来事はなく、つわり、食欲に支配され、不安や鬱・時々脳内お花畑の日々。
妊娠3度目ともなると、さすがに緊張感に欠けてくる。出産予定日まで、毎日カレンダーに「✖️」をつけて、1日1日をジリジリと過ごしていた、そんなある日。
 病院の検診で「逆子ですね」と医師に告げられた。
「・・・・逆子ですか・・・?」「逆子のままだと、帝王切開になりますよ。」
逆子を正常な状態に戻すための体操をして下さい、と言われ、なんかヨガみたいなポーズの絵が描かれたプリントを渡された。
「・・・・逆子」。
3度目にして初めての事態である。帝王切開・・・切開という名の通り、外科手術での出産である。
「・・・・・案外、面白い経験になるんじゃないか?」
雑な妊婦である私は思った。
1度目の出産が普通の自然分娩。2度目は無痛分娩。そして3度目は・・・・・もしかしたらの、帝王切開?
「バラエティに富んでて、いい感じがする・・・・」雑妊婦のほくそ笑み。
 というわけで、こうして私は勝手に「3回目は帝王切開だ!!」と決めつけ、医師から渡されたプリントなんてそっちのけ、逆子体操には着手せず、日々、ダラダラと過ごしていた。
(ちなみに私の友人で、逆子をなんとかしたくて、夫に脚を支えてもらい、日々、逆立ちに励んだ女がいる。妊婦の腹で逆立ちって、考えただけでも・・・・逆さ吊り妊婦。危険なので絶対真似しないで下さい)

 てなわけで、そんなふうに本当にダラダラと・・・食欲や眠気に支配される日々を送っていた、そんなある日。ソファでごろ寝していた気怠い午後。
 ふと、感じたのである。「あれ???」と。
今でも不思議に思うのだが、本当に突然、ふと、感じたのである。
「腹の中にいるこの子はもしかして、帝王切開で生まれたくないんじゃないのか?」「本当は、普通に生まれたいんじゃないのか?」「私が帝王切開がいいって言ってるから、無理して逆子のままでいるんじゃないのか?」
 突然、そういう思いがブワーーーっと頭をよぎった。
絶対そうだろうという、謎の確信があった。そして、自分はこの子に、ものすごくかわいそうな事をしてるのではないかと思った。
「ゴメン、ごめんごめん、ゴメン、ごめん!!アンタの好きなように生まれていいよ!!ごめんごめん、ごめん!!」
思わず腹に向かって平謝りした。本当に心からの平謝り、と、その瞬間である。
「グリ、グリグリグリグリ〜〜〜〜」
腹の中の赤子がグリグリと、今までに感じたことのない動き方をしたのである。雑妊婦の目が点になったのは言うまでもない。
「まさか・・・・・」

 その「まさか」が現実となった。二日後くらいの病院での検診で、医師が驚いている。
「あれ?逆子、治ってますよ〜〜〜」
「・・・・・・・・」私、地蔵みたいに固まるしかなかった。
胎児はみんな、見てる、聞いてる。
 
 にしてもこの、逆子グリグリエピソード、これは、いい話なのかホラーなのか・・・私はこの体験で、「腹の中にいるこの子は、多分、すごく優しい子なんじゃないか」と思った。雑な母親に気を使う、性根のいい子。
 事実、現在中2になる次男、確かにそんな奴に育っている。
私と長男がとっくみあいの大ゲンカをすると、すぐに、台所から包丁を別の場所に隠す、そんな気の利いた優しい少年になっている(てか、私はケンカの時に包丁を振り回すような人間ではない)。

 というわけで、ようやく出産、である。
今回は、前回の義母・居座り事件があったので、義理実家には予定日を当然伝えなかった。夫にも「3時すぎとかに来ればいいよ」と、のんびり伝え、2度目の無痛分娩は、スルスルと滞りなく事が進んだ。
 そして、夫が病院に着いた頃にちょうどよく、分娩台に上がるタイミングになり、出産。赤子、ものすごく元気な勢いで力強く産まれてきた。

 にしても、2年前と今回の出産、本当に驚いたのが、麻酔医療技術のさらなる進化。無痛分娩が2度目という事で、お産の流れも知っていたから、落ち着いて事に挑む事が出来た、というのもあるだろう。しかし。
それでも「すごい、すごくなってる」と思ってしまうのはやはり。
あの、「絶叫激痛のお産」を一度経験してるからなんだろうな、と思う。

 てなわけで、現在中2の次男。
特に好きなアイドルがいるふうでもなく、好きな歌手がいるふうでもなく。
しかし、何故かこの曲だけは、繰り返し聴いてるのである。
「そんなに好きなら、この人の他の曲も聴いてみたらいいじゃん」と私が言うと「いや、他のは興味ない」との事。なんだそれ。

宇多田ヒカル「One Last Kiss」

 


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