~これからの教育の話をしよう!~公教育とオルタナティブ教育のビミョウな関係
※安彦が経営するSocial Book Cafeハチドリ舎で、月に30ほど開催しているイベントをピックアップして、参加者の1人にボランティアリポートをしてもらっています。
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いわゆる義務教育だとルールに縛られる感じがする…など、近年批判の集まりがちな公教育。
社会の中で期待が寄せられつつも、まだまだメジャーではないオルタナティブ教育。
双方に賛否両論ある中、今年に入って福山市が発表した「イエナプラン教育校」の2022年創設のニュースに注目した方も多いはず。
公教育の中にも、オルタナティブ教育が導入されつつあるのです。
それぞれの良いところ・悪いところを含めて、まずは全体像を学んでみませんか。そして、どちらが正解でもない「これからの教育」を一緒に考えてみませんか。
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イベントの説明文を読んで、迷わず参加ボタンを押しました。
「『オルタナティブ教育』って聞いたことはあっても、その中身はよく分かっていない」
「『これからの教育』っていったいどうなるのだろうか」
「気になる。知りたい!」
そんな気持ちをもって、当日ハチドリ舎へ向かいました。
今回のイベントのゲストは、全国の教育現場の取り組みを支援するために講演や場作りで活躍する、教育コーディネーター武田緑さんです。
<ゲストプロフィール>
武田 緑さん
Demo主宰。教育コーディネーター、学校の民主化アドバイザー、人権教育・シティズンシップ教育ファシリテーター。
民主的な学び・教育=デモクラティックエデュケーションを日本中に広げることをミッションとして、教育関係者向けの研修の企画運営、現場の課題解決のための伴走サポート、教材やツールの開発・提案、キャンペーンづくりなどに取り組んでいる。
シティズンシップ教育、人権教育、オルタナティブ教育、学校と学校外の協働、子どもの参画、ファシリテーション、ワークショップデザインなどが専門。
「教育」をテーマにした学校や教育委員会等からの依頼はもちろん、「まちづくり」や「人権」をテーマに行政や企業からの講師依頼も多い。
現在、DEI-Democratic Education Initiative-の発起人として全国の教育現場の取り組みを支援しつつ、NPO法人授業づくりネットワーク・理事、学校働き方研究所・ファシリテーター、 一般社団法人はらいふ・理事、WEBマガジンここここ・編集長、NPO法人関西こども文化協会・東淀川区こどもの居場所づくりアドバイザーなどを兼任。
緑さんからの問題提起
まずイベントのはじめに緑さんからある問いを投げかけられました。
その問いは、ずばり、
「教育を選べることはいいことなのか?」
単純に考えれば教育の幅や選べる選択肢が増えることは、子どもたちにとっても保護者にとっても喜ばしいことのはず。
ですが、この問いこそが緑さんの1番伝えたいことにつながっていくとは、このときはまだ誰も知りません。。。。
そもそも「オルタナティブ教育」って何?
そもそも「オルタナティブ教育」という言葉が意味することが何なのか、基礎の基礎から教えていただきました。
オルタナティブ教育の「オルタナティブ」という言葉は、「代替の(既存のものに対する批判も込めて)」という意味があります。
今の日本の公教育の特徴を並べると、
教師主導
教科書中心
画一一斉授業
管理と強制
権威的
国によるコントロール強
「適応」を要求する
このような特徴があると緑さんは言います。
そして、これらの特徴を一言で言い表すと「銀行型教育」という言葉になります。
これは預金通帳にお金をどんどん入れていくように、知識やスキルをどんどん詰め込んでいく教育であり、「子どもたちには何にも能力がないから、必要なものを授けよう、与えよう、詰め込もう」という考えが前提の教育。
そうすることで、子どもたちはただただ受け身になって、周りに適応することががよいこと、権威者(先生、上司など)に従うことがよいこと、ということを暗に学んでしまいます。
(権威者にとって、非常に都合のいい人材が育っていくという流れ。)
この「銀行型教育」に待った!!をかけるのが、いわゆる「オルタナティブ教育」と言われるものです。
オルタナティブ教育の考え方の前提になるのは、「子どもがたちがそもそももっている能力を発揮できるようにする」ということ。
オルタナティブ教育では、子どもたちには自然と育つ力がある、1人1人違う能力のタネや可能性をもっている、という考えのもと、どうしたらその力が発揮されやすくなるのか、タネから芽がでて可能性が開花するのか、ということを考えて実践されます。
「銀行型教育」を「ない」が前提の教育とすれば、「オルタナティブ教育」は「ある」が前提の教育。
つまり「オルタナティブ教育」とは、今の公教育に対して「オルタナティブ(代替)」であるってことです。
したがって、オルタナティブ教育の特徴は
子ども主体
体験・対話中心
1人1人のニーズに合う個別学習や協働学習
自主性・主体性を大切にする
NPOや私立がメイン(国によるコントロール弱)
子どもたちに参加や行動を促す(自分たちには世の中を変える力があるということを学ぶため)
このような特徴をもっています。
諸外国と日本の「協調性」の違い
教育の現場でよく使われる「協調性」という言葉。
オルタナティブ教育でも日本の公教育でも大切な資質として使われる言葉です。
ただ「協調性」という言葉1つとっても、諸外国と日本では意味が違います。
オルタナティブ教育が生まれた諸外国で言われる「協調性」とは、
1人1人は自分の意見をもっている(自分のニーズを知っている状態)
お互いの意見を出し合える
意見の折り合いがつけられる
これが諸外国で使われる「協調性」であり、オルタナティブ教育の意味する「協調性」。
ですが、日本では使われる「協調性」は、「場の空気を読む」「察する」ことを暗に意味してることがほとんどで、自分の意見をもつこと(自分のニーズを知ること)やお互いが対等に意見を出し合うことを育てる風土がありません。
このように、オルタナティブ教育で使われる言葉と普段自分たちが使っている言葉の意味は違う可能性があり、オルタナティブ教育を理解する上では、言葉の意味を再定義するところから始める必要があることが分かりました。
オルタナティブ教育と呼ばれる教育法の説明
オルタナティブ教育の基礎部分の話が終わり、話題は「具体的にどんな教育法があるのか」というものへ。
「1こ1こ説明したら、とんでもなく時間がかかりようだな~(笑)」
なんて緑さんは言いながらも、簡潔にそれぞれの教育法について説明してくれました。
(写真がないものがありますが、そこはご愛嬌で…(笑))
①シュタイナー教育
シュタイナーさんという学者さんが考えた教育法で、
日本では最も多く大規模
表現や感性を重視
独自の世界観と発達観
が特徴としてあげられます。
緑さんいわく、「シュタイナーさんの独自の子ども観や発達段階論があって、それに従って教育する!ってイメージが強い」そう。
②モンテッソーリ教育
※写真がありません。
モンテッソーリさんというお医者さんが考えた教育法で、日本では幼児教育の教育法としてかなりメジャーです。(ヨーロッパでが中学生ぐらいまでモンテッソーリ教育が行われる学校もあるそう)
特徴としては、
発達段階を大切にする
教具を用いて「集中」「没頭」の空間を作る
こんな感じです。
③ダルトンプラン
※写真がありません。
ダルトンプランは
自分で自分のスケジュールを決める
個人活動と協働学習の時間がある
こんなイメージです。
④フルネー教育
※写真がありません。
自由作文(表現)⇒共有する
学校で自分の「生活(パーソナルな部分)」を共有する
こんなイメージで、日本では文章指導や国語教育などで使われています。
⑤イエナプラン
オランダのイエナプランの特徴は、
異年齢集団での学習スタイル
個別学習と共同学習の時間
「対話」の時間を大切にする
このような特徴があり、「20の原則」に則って、子どもたちに関わっていきます。
この「20の原則」が素晴らしく、【人間について】、【社会について】、【学校について】という3つのカテゴリーごとに、子どもたち一人ひとりがもっている力を発揮できるようになるために必要なあり方・考え方が簡潔にまとめられています。
この「20の原則」を読むだけでも、イエナプランが目指す世界観が分かると思います。
⑥サドベリーバレースクール
緑さん曰く、
「サドベリーバレースクールは見学に行って1番意見が分かれる学校」だそう。
カリキュラムなし
テストなし
子どもたちが学校運営をおこなう
サドベリーバレースクールはスタッフの人事や予算まで子どもたちによって決められるので、今の日本の公教育からは考えられないぐらい「超子ども主体」。
そして、カリキュラムがないのも、「一人ひとりが学ぶ時期になれば、必要な知識やスキル、考え方を身につけていく」という子どもの学びへの主体性を大切にする方針なので、ずっとゲームをして遊んでいる子もいるそうです。
この状態を見たら、確かに意見が分かれそうですよね。
⑦サマーヒルスクール
サマーヒルスクールは一言で「子どもたちが幸せであること」を大切にしており、この後でてくる「きのくに子どもの村学園」のモデルとなった教育モデルです。
⑧きのくに子どもの村学園
日本では老舗の「きのくに子どもの村学園」。
特徴としては、
時間割の半分以上が体験学習
縦割りの異年齢クラス
ミーティングで物事を決定
きのくに子どもの村学園では体験を通じて学ぶことを大切にしており、プログラム学習を異年齢集団で行ったり、ミーティングを行うことからイエナプランとも通じている部分があります。
日本での「オルタナティブ教育」の位置づけ
日本でのオルタナティブ教育の位置づけは主に3つ。
独立型(制度外)
私立型(制度内)
公立型(制度内)
今の日本の現状としては、多くのオルタナティブスクールが「独立型」であり、制度外(文科省の認可外)なため、オルタナティブスクールに通っていても学校に行っていない・不登校あつかいを受ける現状があると緑さんは言います。
しかし、制度内で行う私立型や公立型の場合、国の制度や学習指導要領のしがらみの強い中で行うので、オルタナティブ教育の自由度が下がってしまう可能性もあると指摘しています。
教えて!緑さん!Q&Aコーナー!
Q:オルタナティブ教育のデメリットは?
A:①独立型の場合、学校行ったとみなされない場合がある(不登校あつかい)
②今の日本のスタンダードとずれているので通っている本人が悩む場合がある
③お金がかかる
Q:そもそも今の日本の公立学校でオルタナティブ教育って行えるものなのですか?(公立学校でオルタナティブ教育を実施している事例があれば教えてください!)
A:学級づくりなどクラス担任の裁量の中でオルタナティブ教育を取り入れている場合が多い。
クラス会議
教室リフォーム(話し合って学ぶ環境を自分たちで作っていく)
パスちゃん(授業への参加をパスできる人形)
などほかにもたくさんの事例あり。
Q:「複式学級」についての緑さんの意見があれば教えてください。
A:複式学級は「手厚い」、「個別対応」、「異年齢と関われる」としてとらえられているし、そういう側面ももちろんある。
でも裏を返せば「大人の介入が多い」ともとらえられるし、ふだんの授業自体は教室を半分に分けて学年別にやる学校が多いため、異年齢と関わって学んでいる実感はそんなに多くないかもしれない。
Q:保護者としてどのように学校教育と関わったらいいのか(何か言うとモンスターペアレンツって言われてしまう現状があるし…)、アドバイスがあれば教えてください。
A:声の大きい人が正しいようにとらえられがちだけど、それは関係ない。「ん?」って違和感を感じたことがあったなら、伝えていくことが大切。
そのためにはPTAやママさん同士のつながりを作って、そこで感じた違和感や教育のことを話していける関係づくりをしていくといいかも。
Q:オルタナティブ教育でも「いじめ」ってあるんですか?ある場合はどのように対応しているのか、教えてください。
A:オルタナティブ教育の場でもいじめはある。ただ、そもそも子どもが学校で抱えているストレスが公教育よりも少なかったり、話し合う風土があるから発見したらすぐみんな話し合ったりするので、深刻化しずらい。
Q:福山市の小学校へイエナプランが入ることが話題になっていますが、市にオルタナティブ教育が入るのはどうしてですか?(トップの権力が関係しているの?)
A:これは、トップの影響がかなり関係していますね(笑)
Q:公教育でオルタナティブ教育を入れて学級崩壊した事例がありますが、そのときの理由は何だったのでしょう?
A: 公教育のやり方に慣れている子どもたちが扱える範囲以上の「自主性」や「自由さ」をいきなり与えてしまったことが1番の原因。(公教育が大事にすることとオルタナティブ教育が大事にする部分が違うため、子どもたちが混乱してしまった。)
そうならないために、子どもたちの状態に合わせて徐々に「自主性」や「自由さ」を取り扱えるように、段階を踏む必要がある。
Q:子どもによって「オルタナティブ教育が向いている子」、「向いていない子」、というような特性はありますか?
A:オルタナティブ教育は本質的なことを大事にするので、オルタナティブ教育の考え方自体に向かないという子はほとんどいないと思う。
ただ、オルタナティブ教育の手法には向き不向きはある。手法はその子の特性や性格に合わせて選んだらいい。(サドベリーバレースクールが向く子、向かない子みたいな感じ)
緑さんが伝えたい想い~教育の民主化~
最後に、緑さんは「教育の民主化(デモクラティックエデュケーション」が必要だと強く主張しています。
自分の望むものを知り、他者と対話をして、私たちのあり方を考えて、社会のあり方を考えていく。
そんな4つの段階を踏むことで、子どもたちは多様な他者と協働しながら自分らしく生きていけます。
しかし、今の日本の教育はそもそもの「自分の望むものを知る」という1番最初の段階が大きく欠けた教育を受けており、年齢が上がるほどに日本の子どもたちは自己肯定感が下がったり、自分の将来が見えなくなっていきます。
また緑さんは、「民主的な環境(多様性を受け止め合える安心安全な場)」「民主的なコミュニケーション」、「デモクラシーに必要なスキル」、「デモクラシーに関するトピック」を順々に積み上げていく必要があるといいます。
日本の公教育には土台となる「民主的な環境(多様性を受け止め合える安心安全な場)」はまだまだ少ないですし、オルタナティブ教育をやっている団体の中でも1番上にある「デモクラシーに関するトピック」を子どもたちに伝えていけている団体も少ないそう。
緑さんが伝えたい想い~「教育の市場化」への警告~
もう1つ、緑さんがどうしても伝えたかったことが、最初に問題提起された「教育を選べることはいいことなのか?」ということ。
この質問は「教育の市場化」への警告です。
教育を選ぶ=選べる人と選べない人が生まれる。(市場の原理が働く)
もてるものともたざるものから生まれる「格差」
サービス化や差別化が生まれる⇒本質が軽視され効率化が図られたり、「オルタナティブ教育」が形骸化していく恐れ。
教育の本質は、誰もがよりよく生きるために、自分らしく幸せに生きるために必要なもの。
選べることが大切なのでなく、
どの子も例外なく、本質的な教育が受けられることの方が大切。
そのためには、「公教育」で本質的な教育が行われるようになることが大切。
そのように緑さんは語られて、会は終了しました。
まとめ
今回のイベントに参加してみて、改めて「教育」の目的は、「誰もが自分らしく、自分のもてる力を発揮して幸せに生きていくための学び」であることが分かりました。
選べることが大切なのでなく、
どの子も例外なく、本質的な教育が受けられることの方が大切。
そのためには、「公教育」で本質的な教育が行われるようになることが大切。
この緑さんの想いに私も強く賛同です。
そのためには、公教育やオルタナティブ教育といった教育機関のハード面が整っていくことはもちろん必要。
そして、子どもたちがもっている可能性のタネ、未来の希望のタネを大切にして、のびのびと成長していく姿を見守っていく。
そんな姿勢をもつ大人が1人でも増えていき、オルタナティブ教育の理念が根付く土壌を作っていくことも重要だと私は感じました。
まずは私から、そういう大人の一人になろう。
そんなことを決意したイベントでした。
緑さん、ハチドリ舎のみなさん、ありがとうございました!
レポーター:さーちゃん
※安彦が経営するSocial Book Cafeハチドリ舎で、月に30ほど開催しているイベントをピックアップして、参加者の1人にボランティアリポートをしてもらっています。
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