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踊り子で伊豆長岡に向かう。1時間ちょっとで着いてしまう。踊り子の客の多くがこの駅で降りていた。ラブライブきっかけで増設された部分は新しく、物産展とカフェもついていた。駅前には温泉まんじゅうをふかしている店と、チェーンの居酒屋がある。一軒だけある本屋にはおばあさんが3人集まって、コブのついた蔓みたいなのを引っ張り上げて見せていた。野菜を分け合っているのか。
国道に出ると3号目くらいまで雪で真っ白になった富士が見えた。その国道を渡ると狩野川になり、川の向こうが温泉街になっている。上山温泉と東根温泉を足したような雰囲気である。河原沿いを歩き、土手の下の幼稚園で園児が遊んでいるのが見えた。予約していたレストランに向かう。ロッジの2階にあり、店内は薄暗い。マネの絵画がかけられている。カツオのユッケ丼と鴨のコンフィのランチにグラスの赤をつける。量が多くて味も意外に本格的だった。
駅に戻って旅館のシャトルバスに乗る。前の乗客は60代くらいの母と40代くらいの娘で旅慣れていそうだった。この旅館は2回目で、前来たときはあそこの2階のカフェに行ったっけと話している。それは松島じゃないかという話になる。川を渡り温泉街を抜けて、さらに峠をいくつか越えると内浦湾が見えてくる。寂しげな砂浜にラブライブのオタクが何人かいて、写真を撮ったり石を投げたりしている。その湾でいちばん立派な、湾に突き出したような旅館が今回泊まるところだった。
部屋は広くて、半露天の温泉がついている。内浦湾が一望できたが富士は見当たらなかった。案内してくれた若い男の人が名乗った名前が、旅館の地下の画廊の名前と同じで、もしかしたら後継息子かもしれないと思った。
とりあえず大浴場に向かい、休憩所で待ち合わせる。タオルを持って行かなくていいのが嬉しい。客は全部で10組足らずで男はほとんどおらず、大浴場は独占状態だった。休憩所でアイスを食べ、ちびまる子ちゃんの漫画を借りて読み、湾に向けて開かれた窓のところのマッサージチェアで読んだ。
ロビーに降りてウエルカムドリンクの生ビールをもらう。ステンレスの器に並々と注いである。「今日は富士が隠れちゃって」と言われて、本来なら湾の向こうに富士が見えることを知る。
部屋に戻って半露天にも浸かっていると、雲が切れ切れになって、湾の寂しげな額縁にピッタリと収まるように富士の頭が現れた。これはなかなか値打ちもので、見えるのと見えないのとでは全然違うと思った。海鳥が遊覧船の周りをたかって飛んでいるのが見えた。そのまま暗くなるまで富士は見え続けていた。
旅館の窓際の安楽椅子のところで本を読んで夕食を待った。
夕食の懐石料理は素晴らしかった。前菜の鮑と若芽のおひたし、ホタルイカの芽和え、ふきのとうの当座煮が滋味深かった。白隠政宗を一合だけいただいた。筍ご飯と赤だしが出た。
部屋に帰って敷かれたパリパリの布団に横になり21:00くらいまで寝た。それから大浴場、半露天と入って、汗をかいた。備え付けの便箋に彼女と交互で三文小説を書いていく遊びをしたり、ウミガメのスープをやって、眠った。