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一昨日書き忘れたこと。
吉祥寺から電車に乗ったら、それなりに混んでいて、出入り口付近で立っていた。すると後ろから怒っている男の声が聞こえてきたので振り向くと、僕のすぐ後ろに横山緑がいた。「スマホを覗かれるのがいちばん嫌いなんだよ」と怒っている。一緒に20代-30代くらいの女性がいる。その人が宥めている。「だから吉祥寺は嫌いなんだよ」と言っている。2人ともガタイが大きくて、実在感が強かった。横山緑は銀色のダウンジャケットに黒い帽子をかぶっていた。流石に有名人だけあって、このような実在感で、厄介そうな存在だった。強くこのように居る。気力や体力の充実が凄い。僕が降りる駅になって、一度降りてどいてくれた。2人からは珍しい香水のような匂いがした。
安部公房の『飢餓同盟』を読み直している。三島由紀夫が安部公房の小説について「最先端の戦車が組み上がるかと思ったら、出来上がったところでもう残り数ページになっている。結局その戦車は走らずに終わる」ものばかりだということを、どこかで言っていたが、その通りだと思う。そこが共産党の限界ということか。でも僕はそれを欠点であるとは思わない。安部公房には気の抜けた中編が多く、『飢餓同盟』もその一つだと思う。ボロボロの戦車が組み上がるが、破綻が目に見えていて、完成したとしてもどうなんだ、と思うようなもの。三人称多元視点で屈託なく描かれる物語は、童話めいているが、不条理の感覚で作られているので、夢の中でのように粘液質の壁に阻まれ万事がうまく進まない。
『他人の顔』などのかっちりした小説を読み直したいと思った。
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