武蔵野線に揺れながら 第二話
結局、彼が電車を降りるまで、目があうことはなかった。私は私で彼が誰かを思い出すことができなかった。
だが、いつか、思い出すかもしれないと、勝手に自分の中で納得させて、自分の携帯電話に彼を収めこんだ。
やっとのことで自宅に熱にうなされ、クタクタでフラフラとしながら、駅から徒歩12分の新しい自宅にたどり着く。
私は、自慢じゃないが、一度会話を交わした顔や嫌なことをされた人の顔は、忘れたことがないと自負している。そんな私が忘れてしまった顔。彼は、誰だったのだろう。もしかして、他人の空似というやつで全くの他人で合ったのかもしれない。なんとも確証のない話なのである。だが、90%の確率で私と何らかの接点がある人に違いない。そう思い込みたい自分がいるだけかもしれない。
それにしても、かっこよかった。ああいうタイプの人は、きっと彼女を大事にするタイプの人なのだろう。と勝手に妄想を繰り広げている自分がなんとも不気味である。いつからこうなってしまったのだろう。もうそんな誠実な人とは、結ばれることなんてないのだろう。現世では。
できるなら、上京して、学校に通うことにいっぱいいっぱいだったあの頃に戻ってしまいたい。戻れないとわかっているからなおさら。
自分が男好きだと気づいてしまったのは、その後だったから。
正確に表現するのならば男好きというよりは、人(特に異性)に感情が入りやすく、簡単に言うと惚れやすいということだ。自分のことながら、呆れるほどに。気づかなかったら今頃当たり前のように結婚でもしてたんじゃないかと思う。
いつから誠実じゃない遊び方を覚えてしまったのだろう。
続く