子育てに自信がないのは、イギリス人母も、日本人母も一緒
私はイギリスの、とあるベビースイミングクラブで働いている。
クラブと言っても、コーチ1人と雑用係である私の2人だけで運営しており、
個人宅のプールを間借りして、
1クラス4人までのプライベート教室。
少々お高い受講料ながら、6クラス/日は、いつも満員でキャンセル待ちである。
教えているのは、シャロン(仮)という
50代半ばのイギリス人女性で、
生徒たちを『私のベビー 、 ママ達』と呼び、
面倒見の良さと、さっぱりした性格で、
お母さん方からの人気も信頼も厚い。
私は、このシャロンと働くのが楽しくて、一緒に働いて10年になる。
本日の新入会ベビーちゃんは
生後3ヶ月の女の子とお母さん。
Tシャツにサンダル姿のお母さんが多い中、
そのお母さんは、
白いセーターに、プリーツスカート、
ストッキングに、パンプスだった。
近寄っていき、
「ストッキング、濡れますよー」
と声をかけたら、
なんと、目に涙をいっぱい溜めていた。
聞けば、自分ひとりで子供と外出するは、初めてだという。
いつもは自分の母親か夫についてきてもらうが、今日に限って予定が合わなかった。だから「今日はいけません」とシャロンに電話したら、「あ、大丈夫。あびかが全部手伝うから。おいで!」と言われたという。
勝手なことを。
「もちろんですよ」とニッコリ笑って、
ベビーちゃんのお着替えを手伝い始め、
しばらくすると、鼻をすする音が聞こえる。
となりを見ると、
「どうして私は、他のお母さんができることをできないのだろうか」
とボロボロと涙をこぼしていた。
声はかぼそく、生真面目な感じが日本人でいえば、有村架純に似ているだろうか。
あらら。
「あのねぇ…」と。
昔は10円あったら何でも食えた、みたいな
昔話などしたくはなかったが、自分の育児や失敗談なんかを話し、
「子の成長が様々であれば、母だって様々。
あなたが手伝いが必要なお母さんなら、手伝ってもらえばいいだけ」
と言うと、
「寝ているベビーに、
毎晩『今日もありがとう』ってキスしてみ?
愛はだんだんと、強さになっていく」
いつの間にか後ろにいたシャロンが言った。
彼女は20年前に当時3歳だった息子を亡くしている。
「子育ては『核』が決まってれば、後は適当でいいから」
「いや、適当はだめや」
とか言い合っていたら、
お母さんが笑ってくれたので、
「ベビーちゃんを見ててあげるから、着替えておいで」と言うと、お母さんは大きく頷いて更衣室へと走っていった。
真面目なんやわ
みんな、これでいいのかって言いながら子を育てる。子育てに自信満々ですって人は、ただの視野が狭いひと。
悩まないと見えてこないものもある。
そうシャロンと言い合いながら、ベビーをあやしていると、
いまや、満面の笑みの有村架純が小走りで帰ってきた。
私達も、満面の笑みでそちらに向くと、
その彼女が着ていた水着は、
布が極小の叶姉妹みたいな
金色マイクロビキニで、太もも全面には、
クレオパトラの顔の特大入墨があった。
いや、ギャップ…
シャロンは前を見たまま、口を動かさずに
「このガッツで、あと10人は産める…」
と小声で言った。