Tips of Buddhism
No.63
There have been a great many Europeans and Americans who studied Buddhism with interest,but unfortunately they have never heard of Mahayana.They too hastily concluded that the true doctrine of Buddhism is Hinayana,and that so-called Mahayana is nothing but a portion of Indian pure philosophy.They are wrong.They have entirely misunderstood.(Zitsuzen Ashitsu,Buddha,The World’s Congress of Religions at the World’s Columbian Exposition,ed. By J.W.Hanson 2006 rep.of 1893,p.424)(Mahayana大乗、Hinayana小乗)
(訳)
興味を持って仏教を学ぶ欧米人は数多くいる。しかし、残念ながら大乗を聞くものは絶えていない。彼らは、軽率にも仏教の真の教えとは小乗であって、いわゆる大乗は純然たるインド哲学の1部であると決めつけた。彼らは間違っている。彼らは完璧に誤解している。
(解説)
これは、1893年、9月11日に開催された、シカゴ万国宗教会議で、日本から参加した天台宗(てんだいしゅう) 芦津(あしつ)実(じつ)全(ぜん)(1850-1921)の講演の1部である。芦津は、後に、禅宗の1派、臨済宗(りんざいしゅう)へ移る。この講演にも表れているように、19世紀頃、欧米では小乗仏教、すなわち現在東南アジアやスリランカで行われている仏教を評価していた。今のような禅ブームなど全く考えられない状況だったのである。以前、取り挙げた忽滑(ぬかり)谷(や)快天(かいてん)の『侍の宗教』も当時の欧米へ向けて、大乗仏教そして禅を宣伝するために書かれたものである。この時代の仏教は、国内外とも厳しい局面を迎えていた。国内では、廃仏(はいぶつ)毀釈(きしゃく)という仏教排斥運動があり、国外では日本仏教に目を向ける者はほぼいなかった。シカゴ万国宗教会議の様子は、以下のように言われる。
シカゴ万国宗教会議は、クリストファー・コロンブスの「新大陸発見」400周年を記念して開かれたコロンビア万国博覧会に併設する会議の一つとして1893年9月11日から27日までの間開催された。コロンビア万国博覧会は、近代化をとげたアメリカの経済発展を世界に示す場として物質的豊かさを誇るものであった。しかしそれと同時に、経済優先、物質主義からくる人間性の喪失(そうしつ)という側面についても問題提起する場として「物ではなくて人間、物質ではなくて心」という開催モットーを掲げていた。当時のアメリカ社会は、マーク・トウェインらによって名付けられた「金箔(きんぱく)の時代」と呼ばれる金(かね)を中心とする物質主義がはびこっていた。・・・またチャールズ・ダーウィンの進化論に基づく近代科学主義も、キリスト教の弱体化(じゃくたいか)を招く結果をもたらした。キリスト教では神による天地創造が世界の始まりとして、信仰の基礎となってきた。しかし進化論では、神による天地(てんち)創造(そうぞう)を否定、人類も自然の摂理(せつり)に従って生存(せいぞん)競争(きょうそう)を繰り返すことによって進化したと考える。この説は、敬虔(けいけん)なキリスト教者たちを動揺させるとともに、科学の信奉者(しんぽうしゃ)によるキリスト教批判を促進(そくしん)する結果をもたらした。・・・万国宗教会議の議長として選出されたジョン・ヘンリー・バローズ(シカゴ第一長老教会の牧師)による開会式の挨拶(あいさつ)にその意気込みがみられる。
キリスト教界は、この宗教会議を真実と愛を照らし出す聖火として誇りを持って掲げよう。20世紀の明けの明星(みょうじょう)であることを証明しよう。アメリカがキリスト教国であることは、真に高潔(こうけつ)な意味を持つものである。・・・我々の宗教がほかに勝るものであることは一般に受けいれられ、認められている。
バローズはキリスト教至上主義的立場から、この会議がアメリカにおけるキリスト教の威(い)信(しん)を再び内外に知らしめる機会ととらえていた。(那須里香「1893年シカゴ万国宗教会議における日本代表 釈宗演の演説―「近代日本」伝播の観点からー」『日本語・日本学研究』5,2015,pp.82-83,ルビほぼ私)