仏教余話

その243
さて、先に見た『瑜伽師地論』では、サーンキャ学派に相当する漢訳はなく、因中有果論を説く者は、雨衆外道と呼ばれている。その由来を見る前に、もう1つインド撰述の著作から、雨衆外道についての記述を紹介しておこう。無着作とされる『顕揚聖教論』は漢訳のみ現存している。そこには、こうある。
 因中有果論〔原因に結果があるという主張〕とはいかなるものか?ある沙門、もしくは、婆羅門には、以下のような見解がある。こう論ずる。「常に、絶えず、結果は原因に必ず存在する。」と。そのように、雨衆外道〔はいうのである〕。
 因中有果論者、謂如一若沙門若婆羅門、起如是論、因中常恒具有果性、謂雨衆外道、作如是計。(『顕揚聖教論』大正新修大蔵経、No.1602,521b23-25)
『瑜伽師地論』と、ほぼ同文である。ここでも、因中有果論は、サーンキャ学派ではなく、雨衆外道の所説とされている。大蔵経データベースで、雨衆外道を検索すれば、たちどころに、聞いたことのない文献の用例まで知ることが出来る。その内、由来について、最も詳しいのは、玄奘の弟子、基の『成唯識論述記』の次の記述である。
 外道がいて、名をキャピラという。昔のカピラ(kapila)の訛りである。これを「赤褐色」ともいう。髪や顔が、赤褐色だからである。昨今、西方の貴いバラモン種族は、皆、赤褐色である。時に、世人は、赤褐色の者を別して、仙人とする。その後、弟子の上位の者が18部いて、主なる者の名をヴァルシャ(伐里沙、varsa)という。訳せば、「雨」である。雨季に、現れたので、名としたのである。その雨の徒党を雨衆外道と呼んでいるのである。インド(梵)では、サーンキャ(僧佉)といっている。
謂有外道名却比羅、古云迦毘羅訛也。此云黄赤、鬢髪面色並黄赤故、今西方貴婆羅門種、皆黄赤色也。時世別為黄赤色仙人。其後弟子之中上首、如十八部中主者名伐里沙、此翻為雨、雨時生故即以為名。其雨徒党名雨衆外道、梵云僧佉。(『成唯識論述記』大正新修大蔵経、No.1830,252a26-252b3)


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