仏教余話

その246
名前のことも、気になるが、この雨衆外道は、サーンキャ学派内でも微妙な位置にあったらしい。その辺りの事情を、高木博士の言葉から伺ってみよう。
 『瑜伽師地論』『顕揚聖教論』などで、因中有果に執するものと難ぜられる雨衆外道とはまさしく数論学派を指している。しかし、一口に数論学派といっても、決して一様でないことは『成唯識論述記』が数論に十八部を数えていることからも十分に予想されることである。…ヴァールシャガニヤの一派がかつては数論を代表するものとして勢力を有していたことは、『瑜伽師地論』をはじめとする諸種の仏典、マッラヴァーディの『ナヤ・チャクラ』などのジャイナ論書、および〔サーンキャ学派の論書〕『ユクティ・ディーピカー』などの言及によって窺い知ることができる。…〔ヴァールシャガニヤの一派は〕、少なくとも〔『サーンキャ・カーリカー』を著し、最も流布している〕イーシュヴァラ・クリシュナの系統からは純正な数論師としての評価を与えられなかったということなのである。(高木訷元「ヴァールシャガニヤの数論説」『マータラ註釈の原典解明 高木訷元著作集2』平成3年所収、pp.46-49,〔 〕内私の補足)
他にも、高木博士は有益な情報を与えてくれる。例えば、サーンキャ学派の思想に関して、現在最も、使用頻度が高い『サーンキャ・カーリカー』とヴァールシャガニヤの関係に触れて、こう述べている。
 周知のごとく、われわれがこの数論学派による独立の纏まった資料を手にし得るのは、イーシュヴァラ・クリシュナ(Isvarakrsna)に帰せられる『数論偈』(Samkya-karika)〔=『サーンキャ・カーリカー』〕を待たねばならない。その成立は大体四ないし五世紀頃と推定される。この『数論偈』自体は僅かに七十偈余りからなる簡潔なものではあるが、これがヴァールシャガニヤ(Varsaganya)の作と目される『六十科論』(Sastitantra)の厖大な論書を略抄したものであることは、『数論偈』七二自身の述べるところである。(高木訷元「序説」『マータラ註釈の原典解明 高木訷元著作集2』平成3年所収、p.4、〔 〕内私の補足)


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