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コラム:9番について考える

 現代フットボールにおいて、各選手が求められるタスクは年々多くなっている。ポゼッションを主体とするチームのSBは内側でゲームメイクをしたり、WGの突破力を活かすために、WG以外の選手が中央に密集するアイソレーション戦術というのもトレンドの一種になっていたりする。今やGKですらビルドアップに積極的に関わらなければ、トップオブトップでは評価されない時代だ。しかし、ピッチに立つ11人のうちのひとりだけ、戦術的な縛りから開放されるべきポジションがあると私は考えている。GKはNOだ。上記で述べたビルドアップ能力に加えて、DFラインの裏にあるスペースのカバーリング能力の有無も、チームがラインの高さをどこまで設定できるかに関わってくる。GKはボール保持時はリベロ、非保持時はスイーパーにならなければならない。手が使えることが本来のリベロ・スイーパーとは異なる。

 答えは9番。いわゆるセンターフォワードの選手だ。基本的にビルドアップはGKを含めた最終ラインとボランチ(アンカー、インサイドハーフ)で行い、崩しの局面はWGとチームによってはトップ下を採用するだろうから、彼らの個人能力と連携によって打開するべきだと思っている。結局、何のためにペップ・グアルディオラマウリツィオ・サッリがポゼッションを仕込んでいるかと言うと、9番の選手の得意な状況に持ち込ませてフィニッシュさせたいからだ。どういう組み立てをしてフィニッシュしたいか?ではなく、フィニッシュから逆算してビルドアップを仕込まなければ、ポゼッションのためにポゼッションになってしまう。例えばジルージェコを最前線に置いたチームが縦に速く、カウンター中心のサッカーをしようとしていたら貴方はどう思うだろうか?

 9番が点で合わせることが得意なタイプならば、サイドから崩すための攻撃を主体に考えるべきだし、裏への抜け出しを持ち味としているなら、中盤の選手は早い段階で9番へスルーパスを送らなければならない。進化を続け、複雑化しているようにも見えるフットボールだが、9番の選手が得点を量産出来る体制を作ったもん勝ちの単純なスポーツだと思っている。エーリング・ハーランドの個人能力がバケモノとは言え、9番の選手が元日(16節)時点で21ゴールという驚異的なペースで得点を重ねている状況を作れているマンチェスター・シティはやはり強い。

 ハーランドの仕事はほとんどボックス内、どんなに遠くても相手ゴールから35m以内に限定されている。デ・ブライネからのパスを引き出すランニング、そしてフォーデンベルナルド・シウヴァのクロスに合わせる。たったこれだけ。ジダン政権のクリスティアーノ・ロナウド、昨季はベンゼマをフィニッシュに専念させたレアル・マドリーは直近6年で4回もCL制覇している(ベンゼマシティハーランドに比べると少々やることが多い)。マドリーマドリールカ・モドリッチトニ・クロースなど、長いフットボール史で見ても名前を残すであろう選手が在籍しているのが大きな要因であるが。

 クラブとしての規模が小さければ小さいほど、より一層9番の仕事は増える。下りながらパスを受ける回数は多くなるし、ボールキープしながら味方の上がりを待たなければならない。全てのチームにデ・ブライネモドリッチがいるわけではないので仕方ないのだが、だからこそ監督は精密に、9番にどのような形で点を取らせるかをチームに落とし込む必要がある。

 昨季や今季序盤よりはマシになったが、私が(ユヴェントスに二度目の就任となった)アッレグリを評価していない理由が、9番であるヴラホヴィッチが得点量産できる構造を作れていないことにある。フィジカルは強いので、ある程度はボールキープしたり、強引にフィニッシュに持ち込んだりすることは出来るのだが、彼のポテンシャルを最大限活かせてはいるとは言い難い。アッレグリミリクを重宝するのも、ヴラホヴィッチより無理が利き、ポストプレーの質が高いからだろう。ミリクの能力が高いのは有難いことなのだが、チームとして好ましいとは言えない。ミリクがポストプレーすることで持ち味が出せる中盤、或いは2列目の選手も欠けているのも、ユーヴェ停滞の原因に挙がるだろう。ミリクが多くのタスクをこなしてもこれなので、ミリクがいなければ本当に終わっていたと思う。

 ユヴェントスのお隣のクラブ、トリノFCの最前線にはアントニオ・サナブリアという選手がレギュラーとして出ている。今季は10試合に出場して2得点。昨季も29試合で6得点と、そこまで得点能力に優れている選手ではない。では何故ユリッチ監督に重宝されているか?彼がチャンスメイクをすることで、ヴラシッチラドニッチのような2列目の選手が活き活きとプレー出来るからだ。9番の選手をフィニッシュに専念させることが強いチームの条件だと考えているがこの場合は例外で、それはトリノが2列目の選手の得点関与回数を増やすことが勝利に繋がるとチームの共通認識としてあるから。

 ディ・マリアロカテッリコスティッチサポナーラボナベントゥーラニコ・ゴンザレスと比べてクオリティが劣っていると思う人はほとんどいないだろう。それでもヴラホヴィッチは21-22シーズンのフィオレンティーナで半年で17点決めた。逆にユヴェントスに来てからは1年で13ゴールしか決めていない。ペース配分と周りの選手のクオリティを考えるなら、最低でもこの1年で30ゴールを決めなければ辻褄が合わない。慣れの時間だったり、連携だったり、今季途中からはコンディション不良に悩まされたりしたヴラホヴィッチだが、それ抜きにしても13ゴールは少なすぎる。極端な話、主にイアキーニがクラブを指揮し、フィオレンティーナを残留争いに巻き込んでしまった20-21シーズンでさえ、21点決めてしまうのがヴラホヴィッチという男なのだ。こんな才能の塊である選手を活かしきれないアッレグリの手腕に少なからず疑問を感じることは否めない。1年前はハーランドと変わらないペースで得点を重ねていたのだから。クラブ以上の選手は存在しないとよく言うが、それでも才能が浪費されていくのは見ていて気持ちいいものではないだろう?

 9番のタスクと強いチームの条件を話したので、次は私の理想の9番像について。9番をフィニッシュに特化させられるチームは強いと思うが、フィニッシュに特化した選手が最高の選手とも思わない。私が思う2010年代の最高の9番はルイス・スアレスカリム・ベンゼマロベルト・レヴァンドフスキハリー・ケインの4人だ。いつの時代も年間30点を決める得点能力だけでなく、周りを活かす能力、単独でチャンスを演出できる能力も一流でなければ最高の9番論争に名前は挙がらない。毎年のように30点近く決めようとも、エディソン・カバーニマウロ・イカルディを世界最高の9番と呼ぶ人はいなかったと記憶している。得点能力と周りを活かす能力、独力でチャンスを生む力が一流だとどうなるか?そんな選手を1vs1で封じることはほぼ不可能。ディフェンダーは2人掛かりでマークしなければならない。2vs1での対応を強要されると、今度は誰かしらフリーの選手が生まれる。そう、単独でディフェンダー2人を釘付けにし、前線にフリーな味方を作る。それを実現できる選手こそが理想の9番像である。

ハーランドはもちろん、ナポリヴィクター・オシメンもこれに当てはまる9番のひとりだ。裏へのスペースへのランニングで、ボールが相手DFの先にあっても追いついてしまうほどのスピードと、身体を入れる隙すら与えないほどのパワーも兼ね備えている。そんな選手に1vs1で戦えるディフェンダーはセリエAだとミラン・シュクリニアルグレイソン・ブレーメルくらいだろう。オシメンのディフェンダー2人を釘付けにする能力は、今季のナポリ躍進の原動力となっている。セリエA ナンバーワンのインパクトを残したクヴァラツケリアをはじめ、ポリターノも水を得た魚のように伸び伸びとプレーしている。今季は重度の怪我やアフリカネーションズカップによる離脱もなく、ここまで11試合で9得点2アシストを記録。33年ぶりのスクデットは現実的な目標だ。

 次項はセリエA20クラブの9番を、求められているタスクや、選手自身が持っている特徴などを踏まえて紹介したいと思う。

※読みやすさや単語の曖昧さ防止のため、固有名詞は太文字にしています。その他にわからない単語等あれば遠慮なく言ってください。

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