見出し画像

女子高生とメル友(死語)になった話【第2話】

PENICILLINのボーカルであるハクエイの自称彼女こと『サトミ』から偶然メールが来た話の続き。

2回目のメールが来たのはそれから1週間後のことだった。
『彼(注:ハクエイ)とデートの約束してたのに急に仕事だってドタキャンされたの』
と限りなく作り話っぽい話をしてきたので、まぁ嘘なんだろうなと思いつつ「仕事なら仕方ないよ、大人には仕事も大切なんだから」なんて慰めたりして有名人の彼女ごっこに全力でお付き合いしてあげた。

また別な日には、
『あべくんはどんな香水つかってるの?』
と質問がきて慌てて調べて「マリン系かな」と今まで香水なんかつけたことないのにこっちも軽く嘘をついたりしてなんだかんだメールのやり取りを楽しく続くこと数ヶ月。


何度目かにこんなメールが来た。

『画像を送りたいの、見れるアドレス送ってよ』

当時はガラケーでもカメラ付き機種が出て間がなくカメラ無しの機種もまだ多かった。電話番号だけのショートメールでは画像の添付は出来なかったし、カメラ無し機種では画像を送ることも見ることも出来なかった。私はカメラ付き携帯だったがサトミの携帯はまだカメラ無しだった。

私はカメラ付き携帯だし自宅にはパソコンもあるからいいがサトミはカメラ無し携帯のはず。どうやって画像を送るのかと思ったらお父さんのパソコンから送るとのこと。
大丈夫かな…トラブルにならないか心配だよ。

自宅パソコンのメールアドレスを教え、その後届いたメールに添付されていた画像はサトミの顔写真…ではなくハクエイの顔写真だった。

「ハクエイの画像見れたよ」
『彼が楽屋に入れてくれたの!その時の!』

「へーすごい!」
『でしょー?メンバーから冷やかされたよ』

ハクエイがカメラ目線で写っているとはいえ、もちろん誰が撮ったのか分からない写真である。そもそも雑誌か何かの写真をデジカメで撮ったのかもしれない。
出どころの怪しい写真で彼女ごっこを続けるサトミと乗っかる私。なんか面白くなってきた。
サトミのお父さんのメールアドレスが分かってしまったわけだがそこは見て見ぬ振り。やはり親のパソコンだから自由に使えないのか、さすがに不自然と思ったのかはわからないが画像が送られてきたのはその1回が最初で最後となった。

その後もしばらくは毎週1回ペースでメールが来ていたけれど、相手はやっぱり高校生。日々楽しいことや刺激的なことが多い時期でもある。メールの頻度は徐々に減っていった。半年後には月に1回くらいの頻度になっていたと思う。
いつもメールはサトミから。私からメールを送ることはほとんどなかったと思う。

頻度が減ってきてからのサトミのメール内容はちゃんとした答えの無い相談みたいなものが多くなっていた。いつの間にかハクエイの話題は無くなっている。

『親は大学行けって言うけど行きたくない』
『友達にこんなこと言われた、嫌われてるの?』
『こういう時に男子はどっちがいいの?』

いかにも女子高生って感じの悩みである。

私だって高校・大学と卒業して社会人にまでなってる訳で、所詮高校生の悩みなんて過去の経験を踏まえれば解決出来るかはともかくアドバイスくらいは容易である。
そもそもこういうのは相談した時点で半分は解決したようなもの。自分の味方になってくれる人がいるという確認作業をしてるだけなのだ。


そんなこんなで1年ほど経ってサトミも高校3年生になっていた。結局進路は家政系の大学に行くことに決めて受験勉強に勤しんでいるようだった。その頃にはますますメールの頻度は減っていて、数ヶ月に一度、忘れた頃に来るという感じ。

その頃、唐突にこんなことを聞かれた。

『あべくんって彼女いるの?』

確かに今までそんな話していなかった。
私は正直に答える。
「今はいない。2年前に別れて以来いないし今は別に積極的に彼女作りたい訳じゃないし」

それに対する返事はちょっと意外なものだった。

『よくわからないけどなんだか嬉しい』

なんだよその返事は、こっちこそ嬉しくなってしまうじゃないか。
とはいえこちらは大阪府の20代半ばの社会人。
向こうは神奈川県の18歳高校生。
お互いの顔も知らない。
もちろん会うこともない。
ちょっと寂しいけどただのメル友。

「ありがとう、そう言われると僕も嬉しい」
『卒業したら1回大阪に行きたいな』
やっぱり嬉しいこと言うよね。

そしてまた数ヶ月後、いよいよ来るべきときが来た。いつか来るんじゃないかと思っていたサトミからのメール。

『あべくんの顔が見たい』

こんなことを言うのは恥ずかしいが、当時はなぜか自分の顔に自信があった。
「鄙には稀な」という形容詞がそのままあてはまるような、ド田舎育ちなのに都会風の顔立ちだと子供の頃から評判だったのだ(いやホントに)。

その時たまたま人生で初めてパーマをかけたタイミングでもあったので記念として友人に写真を撮ってもらっていた。その画像を送ろうと思った。
以前にハクエイの画像が送られてきたサトミパパのパソコンのメールアドレス宛に送ることを告げ、今なら大丈夫と返事をもらってから画像を送った。

「画像送ったよ」
写真を送った時はドキドキだった。もしかしたら顔を見たら幻滅してしまうかもしれない。

すぐに返事が来た。
『思った通りの顔だー、優しそう』

ホッとした。マジでホッとした。
とはいえ顔についての話は長く続かずあとの反応は『ホントだ髪くるくるだね』とパーマのことだけ話して意外とあっさりとやり取りは終わった。

正直これでメル友としての関係は終わったかもしれないなと思った。顔を知らないというのが盛り上がる要素の1つなのにそれが一方的に無くなったのだ。
大体「優しそう」なんて顔に特徴のないヤツに言う言葉じゃないのか?バカバカ、なんで得意げに顔写真なんか送っちゃったんだろう、送らなきゃ良かった。
いつものようにまたしばらく沈黙期間となる。

それから数週間後、サトミからメールが来た。
それは過去イチ衝撃的な文面だった。

『私あべくんのこと好きになったかもしれない』

最終話へ続く

いいなと思ったら応援しよう!