君と久々に話せた日。
そこから彼からの連絡は完全に途絶えた。
学校で見かけても疲弊している姿しか見えず、以前のような覇気が全くなかった。
そんな彼に私が声をかけられるわけもなかった。
彼がひとりで隣のクラスで自習しているのを知っていて、一回も声をかけにいく勇気もなかった。
11月中旬彼から久々にラインが入った。
「美嘉、ごめん全然話せてなくて。今日一回目の試験終わったわ。全然自信ないけど。」
約2週間ぶりの彼からの応答であった。
彼は一番早い枠の医学部試験の一次試験を終えたようだった。
二次試験には面接が控えていた。
しかしここ一か月くらいの肩の荷がやっと下りたというような状態だった。
「ラインの通知完全に切ってたんだ。既読もつけられてなくてごめん。結構メンタルやられてたからさ。」
彼はこの一か月間、初めての医学部試験へのプレッシャーと多大な勉強量によるストレスから完全に痩せ、体調も悪そうだった。
「全然大丈夫、お疲れさま。今日はしっかり食べて寝るんだよ。」
私はこれ以上ラインを続けるのも控えた。なにより彼の体調が心配であった。
その日を境に、朝の少しの時間、寝る前の少しの時間彼と話せる日々が続いた。
なかなか面と向かって話す余裕はなかったが、選択授業の1科目だけ同じクラスのものがあったので挨拶くらいはできる仲に戻った。
話を聞くと彼は1年記念日の日、ちゃんと覚えてはいてくれていたようだ。
ただ彼の中で試験が近いという気持ちから、私とも一緒に帰りたかったけど、今は踏ん張り時だと思い、わざと冷たく接したようだった。
あと、私自身にも少しでも時間を無駄にしてほしくなかったということは本音だった様子。暗い中待たすのも悪かったと。
彼の優しさがにじみ出たラインであった。
私は内心その関係性の修復具合に安心感を抱いた。
それがまた勉強への活力になった。
12月上旬
最後の校内模試。模試は9時スタートの18時終了であった。
今回は全員の終了時間が同じになるように、ソフト理系の私たちは途中で休憩時間があった。
15時からの1時間が休憩時間となった。
その時彼が次の試験を控えているが私の教室の前に来ていた。
「美嘉、お疲れ!今日さ、久々に歩いて一緒に帰らない?」
何か月ぶりであろうか。久々の誘いに驚いたが私は笑顔で承諾した。
私は残り2科目を一生懸命解き、もう日が暮れている18時ごろ彼と一緒に帰路についた。
「今日はなんで誘ってくれたの?」
学校にでてある程度歩き、人気が無くなったところで聞く。
「いや・・・この二か月。大切な2か月、何もしてあげられてなかったなって。」
10月に1年記念日、11月に私の誕生日、12月にはクリスマス。
全て受験生だからって10月の模試のときに諦めたものたち。
「全然いいよ。大変そうだったもんね。体調悪そうだったからずっと心配してた。」
「うん、この二か月で5㎏おちてたわ、試験終わって3㎏は戻ったけど。」
彼は元々細身な体型であり、5キロも落ちていたら、女の私と同じくらいの体重である。
11月末の試験を終えてからはなんとなく表情も柔らかくなっていた。
「受験本番心配すぎるんですけど。笑」
「いや、1-3月俺死んでるかもしれん。笑 学校も休みやしな」
正月をあけるとすぐにセンター試験、その後私立大学の試験、国公立大学の二次試験が怒涛の速さで迫ってくる。
彼の体調は本当に心配であった。
私たちは見晴らしのいい池の前にあるベンチに座り、月を眺める。
「私たちってこれからどうなるんだろうね。」
漠然とした疑問をぶつける。
「俺が現役で医学部合格したとしても卒業まで6年、ちゃんとした医者になるまで8年かかる。26かー。その時美嘉は看護師5年目とかかかな。」
「同じ病院で働いてたりしてねー。私の方が先に看護師になるのか・・・。」
「俺、志望校結構遠いやん。美嘉遠距離いけるの?」
それは・・・・。
私が一番心配していることである。
正直言うと心配であった。
大学生という大人になるタイミングで物理的に一緒に居られないのは・・・。
この二か月でさえ本当に寂しかったのに。
「・・・いけるかな。めっちゃ寂しいとは思う。」
「だよな。」
「志望校は絶対そこがいいの?」
「せやな。そこがなんだかんだ一番条件がいい。」
「そうか・・・。」
彼はそんな簡単に志望校を決めたわけではなく、その条件ということを事細かく説明してくれた。
「・・・それは確かにいいね。」
「だろ。」
私はため息をつきながら月を眺めた。
「私たち将来一緒にいれるのかな。」
「そうなるように頑張るしかないだろ。大学生を乗り越えれば俺らは同じ医療の世界に入るわけで。」
彼が強く私の手を握る。
「一緒に頑張ろうぜ。」
悲しいけど受けとめることしかできない現実。
本当は。私も学力がもっとあれば彼と同じ大学の看護学部に行きたい。
でもそんなの無理で。
私は実家から通える範囲でしか大学も探していなかった。学力もないし。
そんな将来の話をしながら、お互いの電車に乗って家に向かっていった。
私の青春時代。
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