ロンドン、初めてのパブと雨の記憶
My film journey -あの旅を綴る-, 2nd roll 第二話
1999年当時、ヨーロッパ行きのアエロフロート・ロシア航空は非常に安価だった。航空券の価格を重視していた学生の私たちにとって、その選択は理にかなっていた。モスクワでの乗り継ぎが必要だったが、滞在ビザなしでロンドンまで行け、帰りはパリから日本への「オープンジョー」設定が可能だった点も魅力だった。
当時はこれが便利で、私たちのようなバックパッカーには理想的だった。
安全面については少し不安もあったが、「ロシア空軍のパイロットが兵役引退後に航空機のパイロットを務めている」という噂を聞き、逆にその経歴ならばむしろ信頼できるだろうと妙な安心感を抱いた。また、サービスよりも安さと速さを優先し、モスクワという未知の場所を経由する航路には若者らしい冒険心をかき立てられた。
モスクワ空港の薄暗い空気を今でも覚えている。唯一目を引いたのは、キャビアが並ぶディスプレイだったが、購入するどころか写真を撮る余裕もなく、ただ記憶に焼き付けたのみだった。
ロンドンで宿泊するホテルだけは、日本の旅行会社で事前に予約していた。これ以降の旅程は決まっておらず、ベルギー、オランダ、ドイツ、オーストリア、そしてハンガリーまでの旅を共にする大学の同級生と、ある程度の行き先だけを話し合っていた。
ロンドン滞在はたしか2泊程度だった。小雨が降る中、街を歩き回り、大英博物館を訪れた。そこではロゼッタストーンを前に、そのスケールや歴史の重みと自分達の小ささを感じたのを覚えている。
そして夜には、初めてのパブを体験した。当時愛読していた雑誌『BRUTUS』のロンドン特集に載っていた“The Cow”というパブレストランに行きたくて、友人とガイドブックの地図を片手に道を探し歩いた。
Google Mapがない時代。目的地を探すのは簡単ではなかったが、それもまた旅の醍醐味だった。やっと辿り着いたThe Cowでは、ギネスビールとオイスターを楽しんだ。カウンター越しに見えたボイルされたカニの料理がとても魅力的だったが、旅の始まりということもあり節約を意識して手を出せなかった。当時、カニは高価なものというイメージがあり、値段さえ調べることなく諦めた。
その後も何度かロンドンを訪れているが、いつもトランジットの合間で終わり、The Cowへの再訪は叶っていない。今度こそ家族で訪れ、当時手を伸ばせなかったカニ料理にリベンジしたい。きっとあの頃の記憶が、少し違う味わいで蘇るに違いない。
All photos of my journey were taken by abeken with Ricoh R1s.