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ドナウの輝きと、ブダペストの記憶
My film journey -あの旅を綴る-, 2nd roll 第十九話
ミュンヘンを後にし、ウィーンを経由してブダペストへと列車で向かった。目的地は、ハンガリーの首都ブダペスト。宮本輝の小説『ドナウの旅人』に描かれた情景に憧れ、ついにその地を訪れることに胸を躍らせていた。
ドナウ川は、ドイツのドナウエッシンゲンを源流とし、ルーマニアとウクライナの国境付近で黒海へと注ぐ。その流域には数々の美しい街が点在するが、中でも「ドナウの真珠」と称えられるブダペストの景観は格別だと聞いていた。
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実際に目の当たりにしたブダペストの街並みは、小説の描写を超える美しさだった。ブダの丘にそびえる王宮、ペスト側にそびえる壮麗な国会議事堂、それらが青空の下に映え、歴史の重みを感じさせる。夕暮れ時と朝の時間帯、ゲッレールトの丘から見下ろしたドナウ川の風景は言葉にできないほど美しく、心に深く刻まれた。昼間には、川沿いを散歩する人々の姿があり、その穏やかな空気もまた印象的だった。そして、ブダとペストをつなぐ橋の美しさも、この街を象徴する風景のひとつだ。
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ブダペストは「温泉の都」としても知られている。私たちは、ゲッレールト温泉やセーチェーニ温泉を訪れ、その独特な雰囲気を味わった。アール・ヌーヴォー様式の壮麗な建築に囲まれた温泉プールは、まるで歴史の中に迷い込んだような感覚をもたらした。ただ、日本の温泉文化に慣れていた私たちにとって、水着着用で男女共用の温泉プールに浸かるスタイルは新鮮であり、少し戸惑いもあった。さらに、水温は思ったよりも低く、長く浸かっていると寒くなってくる。
また、若い男子大学生だった私たちは、温泉での思いがけない出会いを淡く期待していた。しかし、実際にそこにいたのは地元の年配の方々が中心で、その期待はあっさりと打ち砕かれる。友人と顔を見合わせては苦笑し、「やっぱり俺たちってこういう運命だよな」と冗談を言い合ったのも、今となっては良い思い出だ。
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ブダペストの街は、宮本輝の小説の世界を超え、私たち自身の体験と記憶で彩られる特別な場所となった。旅から26年が経った今、当時撮影した写真を見返すと、青空の下に広がる街並みや、ドナウ川に架かる美しい橋が鮮明に蘇る。そして、その風景の中には、不器用で純粋だった大学時代の私たちの姿が、確かに刻まれているのだ。
All photos of my journey were taken by abeken with Ricoh R1s.
参考図書
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