初めての旅、初めての写真
My Film Journey -あの旅を綴る- 1st roll. 第一話
1998年の春、大学の春休みを利用して、初めての海外旅行に出かけた。行き先はドイツとオーストリア。そのとき、家にあったRicoh R1sというコンパクトフィルムカメラを持って行ったらしい。なぜ「らしい」のかというと、当時はカメラにまったく興味がなく、格安のフィルムを家電量販店で適当に買ったというだけは覚えているものの、どんなカメラで撮っているのかという興味もなかったため、記憶になかったからだ。
最近、カメラにどっぷりハマっている私は、先日実家に帰省した際にふとそのことを思い出し、当時のカメラについて父に尋ねてみた。すると、家の引き出しの奥からそのカメラを引っ張り出してくれた。それが、擦り傷が時の流れを感じさせるRicoh R1sだった。
このカメラは、コンパクトカメラの名機「Ricoh GRシリーズ」の前身にあたるモデルだと知り、驚きと喜びが入り混じった気持ちになった。あの頃、自分がそんな素晴らしいカメラを手にし、旅の記録をしていたなんて!ついでに当時のネガフィルムも見つかり、近所のカメラ屋でデジタル化してもらうことにした。
改めてデジタル化された写真を見てみると、記念すべき初めての海外旅行の最初の一枚は、なんとホテルのベッドだった。成田空港や飛行機内、降り立ったフランクフルト空港の写真は一枚もなく、ただホテルのベッドの上に放り投げられたコートだけが写っている。初めての海外、そして初めての一人旅。きっと緊張していた私は、やっとの思いでたどり着いたホテルのベッドを見て、ホッとしたのだろう。
今のようにYouTubeやSNSがあったなら、機内の様子や空港での興奮、旅のスタートをもっと詳細に記録していただろうが、当時はそんな手段もなく、写真に写っていない道中のことはほとんど覚えていない。それでも、26年前のフィルム写真は、当時の旅を思い出す大切な手がかりだ。
あの頃は、旅の思い出を気軽にシェアできる時代ではなかった。自分の中に留め、たまに友人と酒を酌み交わしながら語る程度だった。しかし、それがかえって良かったのかもしれない。SNSに気を取られず、自分自身の成長に集中できた旅だったのだから。
ちなみに、当時の一人旅には密かなテーマがあった。それは「いつか大事な人を自分の好きな場所に連れて行くためのロケハン」。おかげで今、家族を連れてあの頃訪れた土地を再訪し、新たな経験を積み重ねられることが本当に幸せだと感じている。
旅の記憶とそれを補完してくれる写真をもとに、若かりし頃の経験を振り返りながら、今の私が見つめる未来を少しずつ綴っていきたい。そして、20年後、子どもたちに「いいね」と言ってもらえるように。
最後に、あのRicoh R1sだが、新しい電池を入れてみたら少し反応はしたものの、フィルムは装填できず、残念ながら使えなかった。それでも、素人の私が適当に撮った写真ですら魅力的に仕上げてくれるこのカメラの凄さを、ぜひ皆さんにも感じていただきたい。
All photos of my journey were taken by abeken with Ricoh R1s.