トラムと石畳、アムステルダムへの道
My film journey -あの旅を綴る-, 2nd roll 第八話
ベルギー・ブリュッセル2日目の朝。 ロンドンの雨模様に続き、この街でも天気は芳しくなかった。どこかベルギーの地方都市へ足を伸ばすべきか、それとも一気にオランダのアムステルダムまで移動すべきか。曇り空の下、ブリュッセルの市街地を散策しながら、午前中をのんびりと過ごしていた。そして午後には、アムステルダムへ向かう決心をした。
当時の旅は、観光情報の多くをガイドブックに頼っていた。ガイドブックにはオランダについての情報が比較的豊富に載っており、ベルギーに関する情報が限られていたことも決断の一因だった。また、ヨーロッパ周遊フリーチケットで移動していた私は、移動距離が長いほどコスト的にお得になることも考慮していた。その結果、早めにアムステルダムへ向かう方が効率的だと感じたのだった。
ブリュッセルの街を歩いていると、ヨーロッパの都市でおなじみのトラム(路面電車)の姿が目に入った。そのレトロで愛らしいフォルムに、つい見入ってしまった。私の育った地方都市にもかつて路面電車が走っていたらしい。母はそれを使って大学に通ったそうだが、私が物心つく頃にはすでに廃止されており、現役の姿を目にすることはできなかった。
地下鉄も便利ではあるが、暗いトンネルを走る車両の中では、街並みの変化を楽しむことができない。その点、トラムは石畳をガタンゴトンと揺れながら進み、窓の外に広がる風景を眺める楽しさを提供してくれる。そのリズムやスピード感は、旅先でのちょっとした贅沢だと感じた。特にヨーロッパの街で見かけるトラムは、景観の一部としての美しさがある。
旅先で出会う風景や体験は、日常から離れた特別な輝きを持つ。新しい場所や文化に触れるたびに心が動かされる瞬間こそが、旅の醍醐味だと思う。そして、そんな旅の記憶を永遠に焼き付けるフィルム写真の魅力にも気づかされた。Ricoh R1sで切り取った一枚一枚が、今ではかけがえのない宝物だ。
午後、列車に乗り込み、私はオランダへと向かった。ブリュッセルを後にしてアムステルダムに到着するまで、車窓から眺める景色もまた心を弾ませてくれた。新たな出会いと発見を期待しながら、列車の揺れに身を任せたあの日の記憶は、今も鮮やかに蘇る。
All photos of my journey were taken by abeken with Ricoh R1s.