おとぎ話の城とアルプスの記憶
My Film Journey -あの旅を綴る- 1st roll. 第六話
ロマンティック街道の終着点であり、多くの観光客が目指す憧れの地、ノイシュバンシュタイン城。東京ディズニーランドのシンデレラ城のモデルとなったこの城は、その姿がまさにおとぎ話の世界そのものだった。白亜の城がアルプスの山々を背景に威風堂々と佇む光景は、訪れる者すべてを魅了する。3月という季節の訪問だったため、周囲にはまだ雪が残り、その白さが城の美しさを一層際立たせていた。この城の壮麗さには、ただただ息を呑むばかりだった。
城の中から眺める景色もまた格別だった。雄大なアルプスの山々が連なり、その麓には深い森が広がる。そしてアルプゼー湖の水面は透き通るように青く、光を反射してきらめいていた。目を凝らすと、近くには黄色いホーエンシュバンガウ城も見える。自然と人工の調和がこれほど美しい場所が他にあるだろうかと思わされる光景だった。この景色は、まるで別世界に迷い込んだかのような感覚を与えてくれる。
ノイシュバンシュタイン城の訪問は、ロマンティック街道の旅の締めくくりとしてこれ以上ないほど相応しいものだった。壮麗な城とその周囲の自然は、ドイツの歴史、文化、そして自然の美しさが凝縮された一場面を見せてくれた。これまで巡った町々の記憶と相まって、私の心に深く刻まれる体験となった。
観光地には家族連れや新婚旅行中と思われるカップルが多く、どこも賑わいを見せていた。その中で、私はひとりでこのロマンティックな場所を訪れていた。周囲の幸せそうな様子を見て少し場違いな気持ちにもなったが、同時に「いつか大切な人と一緒に、この場所を再訪したい」という強い想いが芽生えた。この想いは、26年後の再訪の原動力になったのかもしれない。
ノイシュバンシュタイン城での体験は、当時の私にとって忘れがたい記憶となった。そして今でも、その景色や空気感が私の心を明るくしてくれる。旅の思い出は、ただの過去ではなく、現在の自分を支える力になるのだと改めて感じる。
いくつかの研究によれば、旅行経験は人々の自信を高め、認知的・社会的な側面を強化する効果があるという。例えば、旅行の「深さ」よりも「広さ」の方が、人としての信頼感を高める傾向があることが示されている 1)。異なる文化との接触が、共通点よりも相違点を強調することで、人の視野を広げるのだろう。また、教育者にとって、旅行経験はグローバルな視点を育み、未知の状況に適応する能力を高めることが知られている 2)。
一方で、情報探索行動における経験の影響は複雑で、経験を重ねることで逆に選択に対する信頼が低下する可能性もある 3)。このような知見は、旅を通じて得られる学びが、単に経験の積み重ねだけではなく、その解釈や活用の仕方に依存することを教えてくれる 4)。
ノイシュバンシュタイン城でのひとときは、私にとって単なる観光以上の意味を持つ経験だった。その記憶は、旅先での偶然の出会いや発見が、どれほど人の人生に深い影響を与えるかを物語っている。写真と記憶を頼りに振り返るこの旅は、過去と未来をつなぐ架け橋であり、これからの人生、そして次なる旅へのインスピレーションとなっている。
All photos of my journey were taken by abeken with Ricoh R1s.
参考文献
Cao J, et al. Does Travel Broaden the Mind? Breadth of Foreign Experiences Increases Generalized Trust. Social Psychological and Personality Science 2013; 5(5): 517-525.
Dyer J. Shifting constructs of global education : the role of travel in meeting new challenges for teachers. Social educator 2010; 28(2): 4-11.
Teichmann K. Expertise, experience and self‐confidence in consumers' travel information search. International Journal of Culture, Tourism and Hospitality Research 2011; 5(2): 184-194.
Lejarraga T. and Lejarraga J. Confidence and the description–experience distinction. Organizational Behavior and Human Decision Processes 2020; 161: 201-212.
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