ウィーンに響く古典の調べ
My Film Journey -あの旅を綴る- 1st roll. 第九話
ミュンヘンから飛行機でウィーンに到着した私は、瞬く間にこの街の魅力に心を奪われた。古典音楽が街角から自然に聞こえてくる中、シュテファン大聖堂の荘厳な姿に圧倒される。長い歴史と文化が息づくウィーンの街並みは、ドイツとはまた異なる華やかな雰囲気をまとっていた。それはどこか洗練されながらも温かみがあり、心地良い空間だった。
カフェ文化の発祥地として名高いウィーンでは、私もその伝統に触れてみたいと思った。憧れのカフェ、デメルを訪れ、濃厚なコーヒーとザッハトルテをじっくり味わう。柔らかな午後の日差しの中、クラシカルな装飾に囲まれて過ごす時間は、この上なく贅沢に感じられた。本場のHotel Sacher Wienのカフェにも足を運んだが、私にとってはデメルのほうが落ち着ける場所だった。独特の温かみや丁寧な接客が心の安らぎを与えてくれ、気づけば毎日のように通っていた。そんな時間は、旅の疲れを癒してくれる大切なひとときとなった。
夜になると、少し背伸びをしてウィーン国立歌劇場でオペラ「セビリアの理髪師」を鑑賞した。本場のクラシック音楽に触れるという経験は、私にとって格別なものだった。観客席に響き渡る歌声やオーケストラの演奏は、全身で音楽を浴びているような感覚を呼び起こした。言葉が分からずとも、演者たちの表情や動きから物語を想像し、その世界観に浸る時間は感動的だった。
また、ウィーン滞在中にはいくつかの挑戦も試みた。例えば、友人に頼まれて海外版の「PLAYBOY」を探したこと。意外にもこうした旅先のミッションが、スリルと達成感をもたらしてくれた。そして、自分へのお土産として購入したG-Star RAWのデニムパンツも忘れられない一品だ。当時日本ではまだ珍しかったそのデニムを、ヨーロッパで手に入れた喜びはひとしおだった。今では妻がそのデニムをオーバーサイズで着こなし、その素敵な色落ちを見るたびに、あの旅の記憶が鮮明に蘇る。
旅の前半、ドイツでは初めての海外という緊張感から、写真を撮る余裕もあまりなかった。しかし、ウィーンに到着してからはカメラを構える回数が増えた。Ricoh R1sのファインダー越しに捉えたのは、古い建築物と現代的な風景が調和した街並みや、そこで暮らす人々の姿だった。シャッターを切るたびに新たな発見があり、その一瞬一瞬が心に深く刻まれていった。
ミュンヘンでの思い出は依然として私の心の中で大きな存在感を持っていたが、ウィーンもまた、それに劣らない特別な街になりつつあった。歴史の音色が響くこの街で過ごした日々は、旅の彩りをさらに豊かにしてくれた。
All photos of my journey were taken by abeken with Ricoh R1s.