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ウィーンへの旅立ち

My Film Journey -あの旅を綴る- 1st roll. 第八話

ミュンヘンで出会った彼女との別れは名残惜しいものだった。空港で交わした「またどこかで会えるといいね」という言葉が、未練がましくも胸の中で繰り返される。彼女はロンドンへ、私はウィーンへ。それぞれの新たな旅路に向けて足を踏み出した。

機内の窓から見える雲海に目を奪われながら、ここ数日間の出来事を振り返っていた。初めての海外旅行で偶然出会った彼女との時間は、まるで夢のようだった。異国の街並みを一緒に歩き、大きなビアホールで陽気な声をBGMに語り合ったひととき。お互いの趣味や将来の夢を語り合いながら過ごしたその時間は、今でも鮮明に心に刻まれている。

Ricoh R1sのファインダー越しに切り取った景色は、いつもと違った輝きを放っていた。それは単なる風景ではなく、自分の人生が新たな章を迎えていることを教えてくれる象徴のようだった。旅先で撮った写真の一枚一枚には、その瞬間の感情や空気感が込められているようで、フィルムを見返すたびにあの場面が生き生きと蘇る。

ウィーン市庁舎

機内では彼女のことが頭から離れなかった。短い間だったが、一緒に過ごした時間の温かさが心に残り、同時に胸が締め付けられるような切なさもあった。しかし、それは決して後ろ向きな感情ではなかった。この別れが、新たな出会いへの期待感を呼び起こしていることに気づいたからだ。ウィーンではどんな驚きや発見が待っているのだろう。新しい街、新しい人々、新しい物語。その全てが胸を高鳴らせていた。

ドイツとはまた異なる華やかな建築が多いウィーン

旅を振り返るたびに思う。人生は「一期一会」の連続だ。茶人・千利休の弟子、山上宗二は『山上宗二記』で利休の言葉としてこう記している。

「路地ヘ入ルヨリ出ヅルマデ、一期ニ一度ノ会ノヤウニ、亭主ヲ敬ヒ畏(かしこまる)ベシ」

山上宗二 著『山上宗二記』

この言葉は、目の前の人との出会いが一生に一度のものであると心に留め、その瞬間を大切にするべきだという教えを含んでいる。つまり、「あなたとこうして出会っているこの時間は、二度と巡っては来ないたった一度きりのものです。だから、この一瞬を大切にし、今出来る最高のおもてなしをしましょう。」という精神だ。旅先での出会いもまた、その精神が息づいているように思う。

ウィーンではとにかくいろいろなところを歩いた

振り返るたびに新たな発見があるのも旅の不思議な魅力だ。当時は気づかなかった細部や感情が、時間を経て鮮やかに浮かび上がる。そして、過去の旅の記憶は、新しい旅への糧となる。いずれまた、彼女と過ごしたミュンヘンを訪れる日が来るのだろうか。その時、どんな思いを抱き、どんな風景を写真に収めるのだろう。

ウィーン行きの飛行機が少しずつ高度を下げ、街並みが見え始めた。新たな冒険の舞台が幕を開けようとしている。ミュンヘンでの思い出を胸に刻みながら、私はまた新しい扉を開く準備を整えていた。

ウィーンでは歩いて、歩いて、写真を撮った

All photos of my journey were taken by abeken with Ricoh R1s.

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abeken/アベラボ
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