【NVIDIA GTC 2022】新着情報ふりかえり
NVIDIA 社が主催している AI と HPC 分野のカンファレンス「NVIDIA GPU Technology Conference 2022 秋」が 9/20~9/22 開催され、その中で恒例となっている NVIDIA 代表 Jensen 氏の基調講演が公開されました(日本時間 9/21 00:00~)。
基調講演の中ではエンジニアリングにおける最先端のブレイクスルーがたくさん紹介されていて、いつもながら とても多くの刺激や発見がありました。この記事ではゲーマー目線&ソフトウェアデベロッパー目線で、新製品の発表や注目のポイントを、スライドと共に振り返ります。
「あまり興味が無いよ」という方も、Closing Summary の「01:34:29~ 未来感満載の AI・HPC 分野の事例集」を見るだけでも刺激になると思うので、ぜひチェックしてみてください。
動画↑は誰でも視聴可能になっています(9/23 現在)。トータルで 1hr 37min もありますが、日本語字幕に対応しており、プレゼンテーションもすばらしいので 内容を把握するのは難しくないです。
けれど、専門用語も多く、ボーっと聞き流していると、何の説明だったのか途端に分からなくなり、すぐに迷子になってしまいます。ちゃんと把握するには結構な集中力が必要でした。
途中、フレームワークやプラットフォームの能力をアピールするためのハイライト動画が、ふんだんに散りばめられています。この記事を読む時間が取れないなら、ピックアップしておいたハイライト動画をつまみ見てみるのも良いでしょう(目次にある数字6桁で示されています)。それぞれの凄いところが、少なからず感じられるはずです。
チャプター: GeForce Beyond
NVIDIA は、創立時はグラフィクスカードの会社でした。そこからの発展について振り返りながら、新製品の発表で締めくくっています。
「RacerX」というテックデモを開発し、これが新製品上の1つの GPU で動作していると明かされます。Jensen 氏が主張するように、ゲーム制作はプリレンダリングやベイクから解放されて、シミュレーションだけで表現できるようになるのでしょうか。
00:01:03~ 「RacerX」
Ampare から Ada Lovelace アーキテクチャーへ
GPU アーキテクチャーの変遷を少々補足しながら、新アーキテクチャー Ada Lovelace(エイダ・ラブレス、数学者、世界初のプログラマーにちなむ)の改善点・効果の紹介がありました。
これが「ただのグラフィクスの進化」に止まらないのが、興味深いところです。GTX がアーティスト活動に可能性を与えたように、RTX はサイエンティスト活動に可能性を与える、そう実感させられます。
Ada Lovelace における3つのイノベーションが示されました。
新しい SMX(Streaming Multiprocessor)。90TFLOPs、SER(Shader Execution Re-Ordering)の導入によってレイトレース性能が 2~3 倍に
新しい RT Core はレイと Triangle との Intersection 性能が 2 倍に。2つの新しいハードウェアユニットを搭載。Opacity Micromap Engine はαテストの性能を 2 倍に、Micro-mesh Engine は BVH 構築に頼らずに形状をリッチにする(ディスプレースメント対応とか)
新しい TensorCore は 1400 テンソル TFLOPs
DLSS2 から DLSS3 への進化
Ada Lovelace におけるレイトレーシング性能の向上に大きく寄与する DLSS3 の発表がありました。RT Core だけでなく、さまざまなハードウェアロジックによる支援機能を惜しみなく導入しており、性能向上に懸ける NVIDIA の情熱が伝わります。
トランジスタ数を増やしてプロセスを多数並列化することによる性能向上もありながら、一方で TensorCore や SER のような並列化以外のアプローチによって、ムーアの法則の限界を上回る成果につなげられているのって、すごいことだと思います。
00:12:48~ 「Microsoft Flight Simulator」
RTX Remix による MOD 製作
やや唐突気味に、ゲームの MOD 製作のためのアプリケーション「RTX Remix」が発表されました。なんでグラフィクスの会社が MOD 製作を支援することになるのか。その秘密は、次のチャプターに関係があります。
RTX Remix を通じてゲームを起動するだけで、ゲーム上のアセット(モデル形状やテクスチャー)が次々と手に入る、という風に聞こえたけれど、日本在住で MOD 文化に疎い筆者としては、権利関係だとかいろいろ別次元で引っ掛かりを感じてしまいました。
いやでも、これはスゴいことです。
00:14:11~ 「Portal with RTX」
00:15:36~ 「The Elder Scrolls III: Morrowind」の製作
GeForce RTX 4090 / 4080 の発表
チャプター: NVIDIA Omniverse
現在のインターネットは HTML で記述された Web サイトを接続し、ブラウザーで表示するが、メタバースは USD で記述された仮想空間に接続し、シミュレーションエンジンで表示する、と NVIDIA は考えているようです。近年バズワード化しているメタバースですが、Jensen 氏はエンジニア的で現実的なメタバース像を提示しました。
そのために Omniverse を開発しており、インターネットが世界中のコンピューターをつなげて情報を流通させたように、Omniverse は社内の従業員が使う DCC ツール(Digital Content Creation ツール。具体的には Autodesk Maya、3dsMax 等)やゲームエンジンをつなげて 3D 空間を構築し、3D アセットパイプラインの構築を可能にするそうです。
Omniverse は現実世界で物を設計・構築・運用する目的で利用できるので、多くの世界的有名メーカーが Omniverse を純粋な事業活動(ブランディング目的でない)のプラットフォームとして試用し始めているようで、わくわくしました。
00:19:34~ Omniverse のダイジェスト
00:30:15~ 世界中の Omniverse の採用事例
Omniverse のエコシステム
00:34:02~ Rimac 社の Nevera(スーパーカー)ワークフロー
チャプター: NVIDIA Robotics Platforms: Isaac、DRIVE、Clara Holoscan、Metropolis
ロボティクス分野の未来を担うディープラーニング技術、その実行基盤となる製品群の発表がありました。
DRIVE Sim のショーケース動画は必見です。出てくる技術1つ1つに感心させられます。産業界の注目が集まっている分、自動運転技術への投資と成果にはすさまじいものがあります。
Amazon の巨大倉庫で自律走行しているような AMR(Autonomous Mobile Robot)分野の発展も先行きが楽しみです。インテリジェントシステム構築のための End-to-end なソリューションが数多く公開されているので、Jetson 開発キットや JetBot を使った再現も比較的容易かもしれません。
NVIDIA DRIVE Thor
0042:00~ NVIDIA DRIVE Sim
00:46:55~ DRIVE Sim を支える技術のショーケース
Jetson Orin Nano の発表
00:55:04~ Omniverse、Isaac Sim、cuOpt による AMR のシナリオトレーニング
チャプター: NVIDIA AI
このチャプターでは、AI 分野の貢献についてたくさんの発表がありました。
プロダクトとして見えるものは皆無なため、筆者のミーハー心を満たすものは さほど見つかりませんでした(RAPIDS と Triton は、データサイエンスを志すならチェックしておくべきでしょう。筆者も趣味で触り始めようかと思っています)。
RAPIDS 22.10 リリース
チャプター: LLMs(Large Language Models)
Large Language Model は、昨年だけで 1 万を超える論文発表があり、AI リサーチの自然言語処理分野を震撼させています。NVIDIA からは、LLMs に関連したサービスの発表がありました。
自然言語処理の応用先としてバイオケミカル分野があるというのを、今回初めて知りました。
チャプター: Hopper and Grace Hopper
LLMs の隆盛の発端となった Transformer 技術と、機械学習における Embeddings(埋め込み表現)は、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)と比べても桁違いの演算とメモリが必要になるようで、それらを支えるデータセンターグレードのサーバー製品 Hopper シリーズの紹介がありました。NVIDIA、隙が無いです。
チャプター: AI & Omniverse Services to Enterprises
このチャプターでは、NVIDIA やそのパートナー企業などが提供する、さまざまな Domain-specific なアプリケーションフレームワークが紹介されています。
その中でも時間を割いて説明している「NVIDIA ACE」というクラウドネイティブな AI マイクロサービス群は、とても実用的に見えました。
01:26:58~ NVIDIA ACE のユースケース
チャプター: Closing Summary/まとめ
最後にプレゼンテーション全体を振り返っています。ここまで 90 分すべて寝ていたとしても、このサマリーを見るだけで ほぼすべてキャッチアップできますw
01:34:29~ 未来感満載の AI・HPC 分野の事例集
最後に宣伝で締めさせてもらいます。
筆者が所属するサークル「すらりんラボ」は、9/25 まで開催中の 技術書典13オンラインマーケット に参加しています。
DXR(DirectX RayTracing)や Vulkan をはじめとしたグラフィクス API の入門書を中心に、物理本・電子書籍を取り扱っておりますので、よろしければお立ち寄りください。