SF思考で未来の社会を構想する
1. IVS 2024 KYOTO
「ガンダムを切り口に、未来の社会課題について語って欲しい」
リクエストをいただき、日本最大級のスタートアップイベント「IVS 2024 KYOTO」で、『SFから現実へ〜近未来に訪れる社会課題と向き合う〜』というメインステージのセッション(2024年7月4日)に登壇しました。
ガンダムSEED、攻殻機動隊、銀河英雄伝説、スターウォーズ、マイノリティリポート、三体、ジュラシックパークなどについて、登壇した皆さんと一人のアニメ・SFオタクとして思う存分語りました。
私もかつて、以下のようなガンダムSEEDについてのコラムを記しています。
2. SF思考(SFプロトタイピング)とは
テクノロジーの進化の流れが早く、非連続的な変化も起こり得る現代において、「現在の状況から考えるとこうなるだろうな」というForecasting(予測・積み上げ型)で50年後・100年後の未来を予測するのは難しい。
したがって、「こういう未来を作りたい」という意志・ヴィジョンを持ってあり得べき社会像を構想し、そのために現在行うことを考えるBackcasting(逆算型)こそが、国家・社会・組織を率いるリーダーには必要だと考えています。それこそが、SF思考(SFプロトタイピング)です。
SF思考が良いのは、常に未来に目を向け、思考の制限を解除できること。
政治家は、国家百年の計を考えながら政策立案することが重要です。政治家にこそ、SF 思考が必要なのではないかと感じます。
3. 影響を受けたSF作品
ガンダムSEED(アニメ)
私のこれまでのキャリアについての考え方は、ガンダムSEEDが言語化し、教えてくれました。
それは、「『できること、望むこと、すべきこと』の交点を考える」ということ。
私がキャリアを選択する際には、主人公のキラ・ヤマトたちが作中で繰り返し述べていた、以下の3点を常に意識しています。
この3つの交わるところに進むべき道があると考えています。もちろん、その時々において、①・②・③の比重は異なります。②に重きを置く時もあれば、③に重きを置く時もあります。
詳細は以下のコラムをご参照ください。
銀河英雄伝説(小説・アニメ)
銀河帝国(権威主義)と自由惑星同盟(民主主義)の戦いを描く、様々なテクノロジーを駆使した宇宙大戦の物語。
テクノロジー領域としては、宇宙空間のワープや、防御シールド、中性子ビーム砲などが出てきます。その上で、銀河英雄伝説が特筆すべき点は、戦略と戦術に関する思想や、政治思想です。
民主主義 vs 権威主義に関する究極の問を与えてくれます(徹底的に腐敗した民主主義と、素晴らしい善政を敷く皇帝が支配する権威主義の、どちらが良いかなど)。自身の民主主義に関する思想に大きな影響を与えました。
また、銀河英雄伝説では、テクノロジーには著しい進展が見られる一方、生物としての人間の進化はなく、現代の我々人類そのままの姿で描かれます。物語全体を通読して感じることは、如何にテクノロジーが発展しても、そのテクノロジーがもたらす未来の行く末は、結局はそれを使う人間次第であるということです。
攻殻機動隊(アニメ・漫画)
攻殻機動隊は、100年先の国家・社会を構想して政策を立案するために、非常に有用なSF プロトタイピングの材料を提供してくれる作品の一つです。特に、義体化技術や、電脳化技術は、多くの示唆を与えてくれます。
4. SF思考が影響した歴史的事例
1983年3月23日、米国のレーガン大統領は、これまでの核の均衡の基本概念である「相互確証破壊」(MAD: Mutually Assured Destruction)を書き換えることを意味する新たな対ソ防衛構想として、「戦略防衛構想」(SDI: Strategic Defense Initiative)を打ち出しました。大陸間弾道ミサイルをレーザー衛星兵器等で撃ち落とすといった技術開発を目指す本構想は、通称「スターウォーズ計画」と呼ばれています。
スターウォーズの「デス・スター」のレーザー砲や、ガンダムSEED DESTINYでザフトが所有する宇宙機動要塞「メサイア」の巨大レーザー砲「ネオ・ジェネシス」を思い起こさせます。
5. SF作品に出てくる注目すべき技術領域
影響を受けた技術作品の中で、注目すべき技術領域としては、以下が挙げられます。
核融合
ガンダムSEEDシリーズの主人公キラ・ヤマトが搭乗するモビルスーツの中で、映画『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』で搭乗する「ストライクフリーダムガンダム弐式」のエネルギー源は、小型の核融合炉です。
それ以前の搭乗機「ストライクフリーダムガンダム」や、ドラえもん、鉄腕アトムなど、我が国の誇る他のロボットたちも、その多くが主に核エネルギー(核分裂を想定していると考えられる)が動力源として描かれています。
核融合エネルギーの研究開発については、現在、多くの研究機関やスタートアップ企業が取り組んでいます。
バイオテクノロジー
架空の紀元であるコズミック・イラ(C.E.)という時代に展開されるガンダムSEEDの世界観に一貫しているのは、ナチュラル vs コーディネイターの戦い。
これまでの人類である「ナチュラル」と比べ、バイオテクノロジーによって遺伝子調整が行われた人類「コーディネイター」は、あらかじめ強靭な肉体と優秀な頭脳を持って生まれ、生物個体としての能力が異なります。
詳細は以下をコラムをご覧ください。
バイオテクノロジーを題材とした他のSF作品としては、例えば「テラフォーマーズ」が挙げられます。
電脳化・義体化
攻殻機動隊で展開される世界観の中で、最も重要な技術は、電脳化技術(Brain-Machine Interface)と義体化技術(ロボット技術)だと考えられます。
6. 最も可能性の高そうな未来
自身の体験に即して考えると、上記で挙げたSF作品のうち、攻殻機動隊が描くSFの世界観が最も実現可能性が高い気がします。
電脳化技術
本年6月28日に発売された、空間コンピューティングデバイス(Spatial Computing)「Apple Vision PRO」のデモを体験しました。
実際に着用してみると、目の前に広がるバーチャルな世界や物体が「現実」そのものであるかのように感じられます。
ボタンをただ単に「見る」だけでアイコンが選択されるます。あとは指先をタップ(親指と人差し指をくっつけて離す動作)するだけで、様々な動作が可能になります。
映画「マイノリティリポート」の時代(透過型ディスプレイ、タッチスクリーン)はもう目の前に迫っていると感じました。
その次に可能となるのは、攻殻機動隊の作品中で度々描かれているバーチャル空間(電脳ロビー)で実施する作戦会議のような、バーチャル上の共同作業空間ではないでしょうか。「Apple Vision PRO」では、まだ同一空間における複数人の相乗りはできないそうですが、その実現はそう遠くないのかもしれないと感じました。
このようなデバイスが自己の身体の外ではなく、脳内に埋め込まれると、まさに攻殻機動隊の電脳化技術(Brain-Machine Interface)となるのでしょう。
医学生時分の2010年、脳腫瘍の一種である聴神経鞘腫に対する聴性脳幹インプラント(ABI: Auditory Brainstem Implant)埋め込み手術に立ち会いました。これは、聴覚を司る脳神経に出来た腫瘍によって失われた聴覚を取り戻すために、人工的な電極を脳幹に直接貼り付け、聴覚の再生を試みる手術です。電脳化技術(Brain-Machine Interface)の一端を初めて見た瞬間でした(生物とデジタルの融合(Biodigital Convergence)とも言います)。
義体化技術
以前、介護施設を訪問した際に、分身ロボット「OriHime」を活用した介護現場を体験しました。
そのときに確信したのが、障害や介護の程度に関係なく自身の身体を自由に使用できる時代が来るということ。分身ロボット「OriHime」は、攻殻機動隊の「リモート義体」(遠隔操作義体)を思い起こさせます。
「最先端テクノロジーの要請は、介護現場にこそあるのではないか」と、考えるようになりました。
介護施設の責任者の方が仰った「自分の身体を自分で介護する時代」という言葉の現実味が増しています。
そのような潮流の中で、攻殻機動隊の描く義体化技術は、超高齢社会への一助となるのではないでしょうか。
実際、『攻殻機動隊ARISE』で、主人公で全身義体の草薙素子と、義体技師の干頼晶が織り成す以下のシーンは、義体化技術が超高齢社会に大きく貢献をしている姿をありありと描いています。
7. SF世界のテクノロジーを活用した未来社会を実現するための分岐点
SF思考で未来社会を構想し、具現化していくためには、以下の2つの分岐点が考えられます。
技術的条件
社会的条件
技術的条件
ガンダムSEEDでは、核融合炉やその小型化技術、コーディネイターを形作るバイオテクノロジー。銀河英雄伝説では、宇宙空間のワープや、防御シールド、中性子ビーム砲。攻殻機動隊では、義体化技術や電脳化技術、光学迷彩など。
これらを実現するためには、科学技術に関する様々な制約や限界を突破して行かねばなりません。
このような技術的制約を除去し、社会で実用化するためには、科学者や起業家が大きな役割を果たします。
社会的条件
一方、社会的条件の整備(社会的制約の除去)には、政治家が大きな役割を果たすのではないでしょうか。
例えば、SF作品に描かれる世界から導かれる社会的な課題として、以下のようなものが挙げられます。
これらを一言で表せば、ガンダムSEEDや攻殻機動隊は「生命倫理観」のアップデートに関する課題であり、銀河英雄伝説は「政治思想」のアップデートに関する課題であると言えます。
生命倫理観や政治思想は、人類社会において長い年月をかけて意見が醸成された社会的概念であり、一朝一夕に変わるものではありません。しかし、科学技術の発展に伴いアップデートされた概念を、法律を通じて社会で具現化する場合には、政治家が果たす役割は大きいと言えるのではないでしょうか。
8. 21世紀最大のイノベーション
かつて、スティーブ・ジョブズが言った言葉です。
この生物学(バイオ)とテクノロジー(デジタル)の交差とは、何のことを言っているのでしょうか。
カナダ政府の戦略的未来構想機関(Strategic Foresight Agency)である「ポリシー・ホライゾン・カナダ」(Policy Horizons Canada)は、このバイオとデジタルの交差のことを「バイオ・デジタル収斂(Biodigital Convergence)」と呼び、注目すべき技術領域として挙げています。特に、COVID-19パンデミック以降に顕著になった現象としています。
ガンダムSEED
ガンダムSEEDの世界では、バイオテクノロジーによって生み出されたコーディネイターが、技術の粋を集めて作られたガンダム(モビルスーツ)に搭乗して戦います。
コーディネイターと彼らが操るモビルスーツの組み合わせは、いわば技術空間でのバイオ・デジタル収斂の究極型と言えるかもしれません。
攻殻機動隊
全身義体化と電脳化に代表される攻殻機動隊の世界観が、まさに生物学(バイオ)とテクノロジー(デジタル)が交差する様子を描いていることは、論をまちません。
9. 戦略的未来構想機関(Strategic Foresight Agency)
SF思考は国家・社会の未来像を構想するために非常に有用ですが、そのような未来像を構想する政府機関を設け、政府の政策に反映させている国もあります。
カナダ
前述したカナダの政府機関「ポリシー・ホライゾン・カナダ」(Policy Horizons Canada)は、国家としてのカナダの未来像(foresight)を構想する政府機関です。
現在、同機関は、①経済の将来、②社会の将来、③ガバナンス(統治)の将来という3つの軸を定め、研究・構想を行っているとのことです。
シンガポール
シンガポール政府の「Centre for Strategic Futures」は、首相官邸直轄の機関として、国家の未来像を検証・構想する機関です。特に、国家の未来構想と現在の国家戦略をリンクさせる役割を果たしています。まさに、Backcastingを戦略立案に組み込んでいるのではないでしょうか。
日本
我が国には、カナダやシンガポールのような戦略的未来構想機関(Strategic Foresight Agency)は存在しません。また、国家の未来構想を基盤として、テクノロジーの発展を見据え、内政と外政を包括する戦略はありません。
我が国には、「国家安全保障戦略」や「国家防衛戦略」といった外交・安全保障を軸とした国家戦略が存在しており、我が国の国家像を描くものの一つとして非常に重要です。
また、「成長戦略」など、経済分野の戦略も存在しています。
一方、他にも「〇〇戦略」と呼ばれるのものが各政策分野毎に多数存在しており、その中には、果たしてそれは「戦略」と呼べる類のものなのかというものもあります。
方々にそのような分野毎の部分最適の文書が存在する結果、数多ある「〇〇戦略」の全体像は誰も理解していないのではないかと推測します。要するに、「戦略」という名前の付いた文書が、統一性なく無秩序に氾濫しているのではないかということです。
テクノロジーの発展著しい現代において、また、非連続的な変化が起こり得る現代において、「こういう未来を作りたい」という意志・ヴィジョンを持ち、あり得べき社会像・未来像を構想し、そのために現在行うべき政策をBackcastingで考えることは必要です。
SF思考を使って描くような未来像を共通の基盤として各政策分野の戦略を策定していくことは、国の方向性として統一性があり、一定の有用性があると思います。
そして、その実行手段として、カナダやシンガポールのように、未来構想と国家戦略を描くことに特化した政府機関を創設することは一案ではないでしょうか。
以上
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