高い外壁にぐるっと囲まれたお城が月に照らされています。
お城の尖った部分の、夜空に一番近い一つの窓に猫影が浮かびました。
王女の白猫です。
王女はまだお城から出たことがありません。
いつもこうして月夜に寂しそうに町の灯りを眺めています。
「わたくしもあの賑やかな灯りの場所へ行ってみたい」
王女は星に願うのでした。
すると、王女の白い毛がみるみる茶トラに変わっていき、着ているドレスも粗末なコットンのワンピースになって、ティアラは地味なスカーフになりました。
王女は姿見に映った自分の姿に驚きました。
「今ならお城を出られる!」強い衝動に駆られます。
変身した王女の目にはお城から町へと続く抜け道が光の道のように見えていました。
無事に町へ着くと夜祭の真っ最中。
「賑やかな灯りの正体はこれだったのか」町の猫に変身した王女は思いました。
猫の五感を喜ばせる食べ物や玩具を売る屋台がずっと遠くの方まで並んでいる光景は王女をとても興奮させました。
野外の音楽場では弦楽器を持った黒猫が美声を聴衆に披露していました。
「私が目の前を横切っても嫌いにならないでね」という歌詞がなぜか心を打ちました。
家族連れや雄雌連れ、どこもかしこも猫達でいっぱいで、その誰もが楽しそうでした。それを見た王女も笑顔になりました。
何もかもが初めての経験でもう胸がいっぱいです。
「ああ、そろそろ猫座様がお隠れになるな」
近くにいた年配のサバトラ猫が言いました。
「そろそろお祭りも終わりだね」
その隣にいた子供の猫が言いました。
「あの、すいません、もうお祭り、終わっちゃうんですか?」王女が尋ねました。するとさっきの年配サバトラ猫が「そうだよ。今日は222年に一度に現れるあの猫座様を迎えるお祭りじゃないか」
王女がサバトラ猫の指さす夜空を見上げると、そこには確かに猫の形をした星座が浮かんでいて少しずつ光量を失っていきます。
「そう言えば、今頃あのお城の中の王女様もお祭りに来ているのかもしれないよ」子供の猫がお城の方角を見て嬉しそうに言いました。
「坊や、それどういうこと?」王女がまた尋ねました。
「お姉ちゃん、そんな事も知らないのかい。昔から猫座様が現れる夜には王女様がお城からこっそり抜け出せるっていう言い伝えだよ」
猫座が見えなくなる頃、お城にはすでに王女の白猫が戻っていました。