七つの子 : another heaven 2
翌日。一緒に受けている講義に友達が現れませんでした。彼がLINEにも何も連絡なくサボるというのは初めてでした。
「どうしたんだろう」
少し気になって、大学が終わると友達の家に行ってみました。
昨日は赤い軽自動車を買ったあと、途中ファミレスに寄って一緒に夕飯を食べました。「同じサークルの女子の誰を誘うか」問題を熱心に、いつも通り楽しそうに話す様子に別段変わったところはみられませんでした。
そんな計画は上手くいく訳ないだろ、という少しズレてるなと思う事を話してはいたけれど、それもいつもの事でした。
決して綺麗とは言えないアパートの一階が彼の住居でした。アパートの前に砂利が敷き詰められているスペースがあり、そこに買ったばかりの赤い軽自動車が止めてありました。
以前、友達から「ボロはボロなんだけど駐車場付きで安かったから即決した」と聞いた話を思い出しました。彼は相場よりも安いものに目が無いようでした。
部屋のブザーを押すと、少しして上下スウェット姿の友達が顔を出しました。光の加減だったのかもしれませんが、その顔にすでに陰りが見えていたように思います。
「入っていいか?」と聞くと、彼は「少し歩こう」と部屋から出てきてアパートから程近い河川敷まで二人で歩きました。
だれかさんとだれかさんがむーぎばーたけー チュッチュチュッチュしているいいじゃないかー ぼくにはこいびとないけれどー いつかはだれかさんとむーぎばーたけー
河川敷に茫々と生えているススキが麦畑のように映ったのかもしれません。ちょうど若い男女もキャッキャしながらくっついたり離れたりしていました。
「あれは麦じゃなくてススキだろ」
昨日に続いてまたいきなり歌い始めた友達への対処の仕方に困ったボクはそんな事を言って取り繕いました。
「あのさ、あの後さ、家に帰ってきてから留守電に気づいたんだけどさ」
「誰から?」
「あの中古車センターのおっさんからだったんだけどさ…」
いまいち歯切れの悪い友達。
「あのおじさんが何の用事で?」
「うん、言い忘れた事があったって。カーナビが調子悪いのを言い忘れたって言っててさ」
「まぁ、安いんだから仕方ないよな」
「そうなんだけど。気になってカーナビをいじってみたんだよ。そしたらさ、履歴に残ってるんだよ、前の人のらしき履歴がさ」
「うわ。消し忘れたのかな…。壊れたから消せなかったとか…。でも別にそれぐらい問題ないと言えば問題ないよな」と言いながら実はなんだか気持ちがざわざわしていました。
「いや。それがさ、俺の住んでるアパートから《動物園》とか、あと《自宅》に設定されてる場所に何度も行ってるんだよ」
「え?! でも、それじゃあ、《自宅》に設定されてる住所の人が前の持ち主って事で、その人がお前のアパートまで来てたって事?」
「まぁそうだけど、ちょっと気持ち悪くなってさ。今日は大学に行く気分じゃなくなってさ」
「確かにお前のアパートの住所がすでにカーナビに記録されてるのは気持ち悪いけど、ただの偶然だろ」
ボクはそう言いながら、友達をほんの少し疑っていました。
「自分でカーナビを弄ってるうちに操作を誤り、そう記録されているように見えている」そういう可能性もゼロではないのでは、と。
大学で知り合ってこの2年、友達として付き合った限り、まずそういう間違いをする奴ではないのですが。
操作を誤る誤らないはさておき、履歴が残っているということは、友達が昨日の深夜、もしくは今日、そのルートを運転していた可能性もあるのでは、と思えてきました。
何の為に?
自分で自分の推理にツッコミを入れて振り出しに戻って考えていました。その時、友達が何を考えていたのかはわかりませんでした。何も考えていなかったかもしれません。ただ不思議だったのは、二人とも「カーナビに残っている履歴を消してみよう」とは思わなかったのです。
最初から、消そうとしても消せない気がしていたのかもしれません。
そうしてボクと友達は何かに突き動かされるように履歴を辿る事にしたのでした。
いつの間にか、突然見知らぬ場所に放り出され、自分の意思とは関係なくどこかに押し込まれていくような窮屈で不快な感覚が常に纏わりついていました。
つづく
🚗 🚗 🚗 🚗 🚗 🚗 🚗 🚗 🚗
これはしめじのお兄さんが書いた世にも怖い物語から始まった企画に乗っかった物語です。下記が募集要項(?)です。
《カーナビに残る、前所有者の住所》の設定だけ残して、あとは全部変えてくれてもいいよ👌 (どんどんゆるくなっていく企画設定)あなたなりの解釈を。 あなたなりのストーリーを募集致します🐵
怖い話が苦手な方は要注意です。
怖かったり残酷な話が大丈夫な方にとっては、その物語を読む事によってスッキリしたり、何かが抜け落ちたり、浄化されたりすることもある気がします。
僕の書いたものはそれほど怖くないかもしれませんが、
しめじさんと穂音(ほのん)さんが書かれたお話はガッツリ怖いので、苦手な方は本当に要注意です(笑
↓ こちらは しめじさんが書いたオリジナル(ホラー? サイコサスペンス?)小説(全9話)。
↓ こちらが 穂音(ほのん)さんが書いた別の最終話。この物語を一番と言っていいほど怖がっていた方が、さらに恐ろしい最終話を書くという現象が起きました。人の心の複雑さを垣間見れた瞬間でした(笑
七つの子(9) : another world