まだ朝の4時前だというのに目覚まし時計が鳴った。
「ああそうか。今日は朝から三毛猫の三姉妹が家に来る日だった」
起きて美味しいご飯を作らないといけない、そう思って二度寝してしまった。
三毛猫の三姉妹とは、先週、市場のイワシ売り場の前で、ビリー・ワイルダーの映画みたいに突然恋に落ちてしまった。
それも三姉妹いっぺんに。
「良かったらお付き合いしてくれませんか」
恋は盲目とはよく言ったもので、あろうことか三姉妹に向けて告白していた。
「お姉さん、どうします?」と次女の三毛。
「私はイエスよ」と三女の三毛。
「あなたは黙ってなさい」と次女が小言を言う。
「そうね。では来週にでも三人であなたの家に伺いますから美味しい料理をご用意してくださる?」
嬉しくて興奮気味に「わかりました!」としっぽで答えていた。
今日がその日で、果たして本当に三姉妹は約束通り朝の5時にやってきたのだった。
慌ててベッドから飛び起きて身支度を整える。まだ背中の毛並みが乱れているが構わずに玄関へ走っていって「おはよう」とドアを開けた。
「おはようございます」「おはようございます」「おはよう」
三姉妹の三色の毛並みは相変わらずうっとりするほど美しかった。
「あら、あなた、美味しい料理をご用意して下さるはずではなかったかしら?」長女が鼻をピクピクさせる。
「すいません。それが起きられなくて…」
「あーもう信じられない!」次女がしっぽを膨らませた。
「なーんだ。ざんねん」三女の耳が垂れた。
「冷凍のピザならありますが…」
「いいえ結構です。私たちは帰らせて頂きます」長女が踵を返し、次女と三女もそれに続いた。
三姉妹は駐車スペースに止めていたクリーム色のベスパに乗り込んだ。長い座席に三姉妹が順番に跨り、長女の三毛が器用にハンドルを切ってあっというまに家の前の坂道を下りて行った。
スカートと耳とひげをひらひらさせてベスパに乗った三姉妹の三毛猫の姿に惚れ惚れした。
それでも二度寝をしてしまった自分を責めたりはしなかった。
「あの三姉妹と一緒に食事を楽しみたかったな」と少し思ったけれど、なんとなくこれで良かったんじゃないかとほっとしていた。