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チャカガーン #我ら失敗団

これは僕がまだ二十代だった頃の仕事での失敗談。

某雑誌のレビューコーナー、つまり、掲載した商品を品評するようなページだったのですが、そのページを担当していた時の事です。
ライターさんに原稿を依頼して、原稿が出来たら校正して入稿。
校正紙が上がったら編集部全体で校正して、校了となります。
なので、ライターさんが署名で書いたものでも、原稿の内容に関しての責任は全て編集部にあります。何かあった際、対処する担当者は僕です。

ある時、掲載した商品のメーカーから品評に関してのクレームがありました。その商品を担当したライターさんが(何人かでの分担制でした)、その商品をあまり良く書いていなかったのです。
メーカーの社長自ら連絡してきて大変にご立腹でした。
そして先方は、編集部ではなく、書いたライターに謝罪を要求してきました。
この時の僕の対応が間違いでした。
「雑誌に掲載された内容は全て編集部の責任です!」
と主張してライターさんを守るべきだったのです。

しかし僕はそうは出来ず、結果、ライターさんと一緒にメーカーに出向き、くだんの社長と話し合いの場を設けたのでした。
(ライターさんとしては謝罪をする気はなかったのです。謝罪うんぬんにならないように編集者が内容をチェックするわけですから当然です)

話し合い当日。
僕とライターさんは早めに待ち合わせして、訪れる会社の最寄り駅の適当な喫茶店に入りました。
「腹が減ってはいくさは出来ぬ」と言ってナポリタンの大盛を注文したライターさん(経費は編集部持ち)。当時四十代で独身。
ナポリタンとセットのサラダをぺろっと平らげたあと、徐にジャケットの内側に隠していたものを僕に見せてこう言いました。
「なんかあった時の為に持ってきたよ」
それは拳銃でした。
もちろん本物ではありません。モデルガンでした。
「あの会社のバックは反社だって噂があるからさ」
と武者震いしながら笑顔を作るライターさん。

僕はその笑顔を見て、心臓を鷲掴みされた心持ちになりました。ちょっと変わり者なのは知っていてそこが魅力の人だったけど、この時のこの行動は驚いたし切なくもありました。

結局、話し合いは最初こそぴりっとした空気がありましたが、穏やかに幕を閉じました。
「良い社長だったね。話してみるもんだね。ああいう姿勢で作っているなら今後良いものが出来てくるから期待するよ」
ライターさんもそう言っていました。

チャカだけにスルーザファイア。

いやいやいやいやいや。
ほんとにやばい会社だったらモデルガンなんか出したらおしまいだったでしょーよ…。

でもそうさせたのは僕。

本当に失敗したなあと思った出来事でした。
バキュンバキュン。