しゃべるピアノ【ショートショートnote杯】(2周目)
小学校に入ってしばらくは友達にピアノを習っている事を隠していたんだけど、結局バレちゃってね。
「そんな顔してピアノ習ってるのかよ」
「ピアノっていうよりティラノじゃんか」
「ティラノザウルスがピアノ弾くなよ」
とにかく子供は残酷だからさ、散々言われたの。
ピアノを弾くと笑われるんだって思うともうピアノが弾けなくなっちゃってね。ズル休みするようになって何日もピアノを弾かなくなった。
ある日、ピアノの先生から呼び出された。言われた通りピアノの前に立ってたらさ、「ピアノが君に伝えたい事があるから聞きなさい」って。
可笑しいでしょ。
でも先生の顔が真剣だから「はい」って言うしかなかった。
「お友達が何て言おうとね。私にとって君は大切な存在だし、何よりとてもしっくりきている。だからどうか辞めないでくれ」
「あの時の先生の下手くそな腹話術には泣かされたよ」
世界的ピアノコンクールの優勝者の男性が優勝インタビューに答えながら笑っている。