応援して6年、ようやくスワローズファンになれたというお話(後編)
優勝直後の2016年からまさかの暗黒時代に突入したスワローズ。
2015年の日本シリーズを見てスワローズファンになった私は、大して好きでもないのに強いチームを応援する「ニワカファン」のような後ろ暗さを感じながら、神宮球場に通っていた。
だが、チームが変わり始めた。
2018年、我々は、忘れかけていた夢を垣間見た。
リリーバー、魂の連投
梅雨明け。一体どれだけのスワローズファンが、目の前の現実を信じることができただろう。
最終的にリーグ優勝を果たす広島東洋カープを含めたセ5球団が大失速する中、ヤクルトスワローズが、交流戦を優勝したのだ。
最後の近鉄戦士の一人である近藤一樹。
守護神"和尚"石山泰稚。
この二人が圧倒的な投球をみせ、そこからチームは快進撃を続ける。
最終的に、直接対決の絶望的なまでの分の悪さが響き、広島東洋カープに優勝こそ譲るが、2位に浮上と大健闘を果たした。
だが、転んでもただでは起きない、起きていればただで転ぶのがスワローズ。
クライマックスシリーズで巨人に破れ、2試合目に至っては、菅野に四球1のノーヒットノーランをされる始末。
私はこの試合も現地で観戦していた。
唯一の見どころだった四球は、フルカウントから山田が三振を狙ったフォークを見逃したものだった。
随所に好守もあり、いい打球もあったが、打球は尽く野手の正面をついた。
選手たちは下を向いてクラブハウスに戻り、後ろ席の酔っぱらいの青年は始終雄平の悪態をついていたが、前年の成績をみれば、2位に大躍進した彼らが誇らしかった。
「下を向くな」と、激が飛んでいたことを思い出す。
ところで後ろの席の酔っぱらいが突然静かになったのは、ビールをこぼして、前の席に座る私の鞄を汚したからだったことに気付いたのは、試合が終わってからだった。
大輪、咲く
だが前年の健闘むなしく、2019年のスワローズはまたしても失速した。
秋吉と谷内を放出し、ファイターズから高梨と太田を獲得。しかし、貫禄すら感じさせる16連敗などが響き、結果は最下位。
それでも、高卒2年目の村上が台頭。新人王を掻っ攫い、翌年への希望を繋いだ。
野球は、夢を繋いだ
2020年。世界情勢は混迷を極めた。
新型コロナウイルスが世界中に蔓延し、オープン戦はおろか、シーズン開幕すら見通しのつかない日々が続いた。
ようやく6月にペナントレースが開幕するが、無観客試合、延長なしなど、平生とは違う野球が展開されていた。
試合中盤から中継ぎをつぎ込む異様な展開。投手力に難があるスワローズは戦術に対応しきれず、一気に失速。
だがそんな中でも、ホークス育成から入団した長谷川が活躍した。
シーズン中盤には西浦が藤川球児から劇的なサヨナラホームランを放つなど、要所では気を吐いたスワローズだったが、結果は最下位。
スワローズの「監督が替わると強くなる」ジンクスすら打ち砕かれた。
だが、奇跡はここから始まった。
不可能なんてない
2021年のスワローズは、とんでもないニュースから始まった。
廣岡大志と田口麗斗のトレード。
ファンに衝撃を与えたこのトレードは、結果として大きなターニングポイントとなった。
シーズンはタイガースが序盤から独走。昨年覇者のジャイアンツが食らいつくも、「Vやねん」が発動するほど、タイガースは強かった。
だが、サイン盗み疑惑、通称「絶対やってへんわボケ」の頃を境に、タイガースの快進撃に陰りが見え始める。
なんてことはない。今期の序盤、タイガース以外のチームは、助っ人外国人の入国が遅れた。
シーズン後半の勝率を見れば、結局タイガースが強かったことに間違いはないが、外国人戦力の充足とともに、タイガースと他チームの差が一気に埋まったこともまた間違いない。
そして夏。燕は、翼を広げた。
9月、タイガースとジャイアンツとの三つ巴の首位争いが続く。
9月10日、10月8日以降の神宮球場のチケットをすべて取った。
最終戦だけは確保に失敗したが、構わない。
そこまでにスワローズが優勝するという確信があった。
そして9月13日。バンテリンドームでの嶋田事件で火がついたスワローズは、引き分けをはさみながらの9連勝で、一気にアクセルを踏む。
9月24日についに首位に浮上すると、そこから1度も後塵を拝することなく、ペナントレースを駆け抜けた。
誰もが予想し得なかった、優勝がそこにはあった。
6年の意味
原樹理の登場曲が「煌めく瞬間に捕われて」に変わっていることに、多くの人は気付いているだろう。
この曲は、2軍で苦しむ原樹理を支えた永遠の第三捕手、井野卓の登場曲だった。
二人の間の物語を、私は知らない。
それでも、10月24日、この曲で打席に入り、二死満塁から走者一掃タイムリーを放ったのは、井野だったように思えてならないのだ。
今年は宮本が、川端が代打で結果を出した。
目を閉じれば、三輪のサヨナラタイムリー。大引の同点ホームラン。鵜久森の代打サヨナラ満塁ホームラン。10点差をひっくり返した、大松のサヨナラホームラン。荒木の数々の代打安打に、サヨナラヒット、バスターホームラン。劇的なバッティングの数々が思い起こされる。
藤井が魅せた守備。ジェフンの、坂口の美しい捕殺。山田の数々の好守。
この6年間見てきた選手が、プレイが、鮮明に脳裏に蘇る。
そしてその6年が、私の中のスワローズを形作っているのがわかる。
私は思う。
ようやく、自分はスワローズファンになれたのだと。
2021年、日本シリーズ。
相手は、かつて仰木監督が率いたオリックス・バファローズ。
相手にとって、不足はない。
ファンは祈っている。
野村監督に見せられなかった、日本一を。