カヌレのブームを止めてみた
いま、世間にはカヌレブームが到来している。
あの茶色のやつ。
外はカリッと中は中はもっちりのやつ。
近頃、やたらめったらカフェのメニューやデパ地下に並び出したので、見かける方も多いだろう。
僕個人としては、ラム酒の香りと黒糖の甘ったるさが苦手なので、ほとんど口にしない。
彼の良さを否定するようで申し訳ないが、カヌレさんだって僕みたいな小太りにばくばく食べられたくはないと思うのでお互い様だ。
だがしかし、僕の身近にはカヌレに取り憑かれている人がいる。
何を隠そう、たびたびnoteに登場している僕の妻である。
出会い
彼女の異変を感じ取ったのはちょうど1年前くらいだっただろうか。
四条河原町の藤井大丸で秋服を探してぶらぶらしていたところ、行きたいカフェがあると提案された。
それはいいねと二つ返事で連れて行ってもらったのが、今日の主人公であるカヌレの専門店だったのだ。
カヌレの!専門店!なんと!
カヌレに専門店は背負わせすぎじゃないだろうか。
雰囲気で言ったら、ポテトサラダ専門店とか鯖の味噌煮専門店とか、そんな状況である。(超偏見)
にもかかわらず、古民家を改修したお店の佇まいは京都の街並みにマッチしまくっているし、何だか堂々としているぞ。
当たり前のように店内へ入る妻に戸惑いつつ、遅れを取らないよう後に続いた。
そいつは、確かにお洒落そうな雰囲気を醸し出していた。
お皿に丁寧に置かれて隣に生クリームか何かを従え、カフェを構えるにふさわしい立ち振る舞いをしている。
立派だ。
そうは言ってもこのお菓子は一体何者なんだと怪訝に思いつつ、初カヌレをばくばく食べた。
ブームがやってきた
それからカヌレが世間で幅を利かせていくにつれ、妻のカヌレブームも徐々にエスカレートしていった。
コンビニ、カフェ、パン屋でヤツを見つけては、光の速さで買い物カゴに投げ込むようになったのだ。
とはいえ、別に妻がカヌレにハマっているだけなら何にも問題はない。
得体の知れない物体だとは思うが、わざわざブームを終わらせようと立ち上がることもなかった。
だが、僕がカヌレブームサヨナラ大作戦に乗り出したのにはもちろん理由がある。それものっぴきならないやつだ。
妻が京都各地のカヌレを食べ歩いたところ、グランディールというパン屋さんのものが味良し、値段良し、お店の立地良しでお気に入りとなった。
このお店は京都駅や三条、以前住んでいた北山エリアと僕たちの生活圏内のあちこちに鎮座している。
そのため、休日に遊びへ出るとだいたいお店の近くを通ることになるので、そうなったら最後、妻のセンサーが反応して半ば強引にカヌレさんをお迎えに行くことになる。
ここで問題が起こった。
パン屋の近くを歩いた時のことだ。
飽きもせず、嬉しそうにお店に通っては、ヤツを美味しそうに食べる妻の姿のが可愛らしくて、ついつい「パン屋行く?カヌレ買ってあげるで」と言ってしまったのだ。とっても軽率に。
この一言が命取りとなってしまった。
それ以来、お店の近くを通ろうものならば、問答無用でカヌレを買ってあげる羽目になった。
しかもそのお店はパン屋だ。
これまでカヌレしか買わなかったくせに、僕がお金を出すと分かった途端、クロワッサンだとかベーグルだとか、思わぬオマケがついてくるようになったのである。
(パン屋の店主にしてみれば、パンが主役であることは重々承知している。)
しかも、僕の職場がお店の近くであることもあり、平日にお使いを頼まれることさえあった。
良くない!良くないぞ!
会社からいただいた僕のお給料は、こんな見ず知らずのお菓子に使うべきではない!
しかも妻に献上したとしても僕は美味しいと思っていないので、一口ちょーだいと言う気にもならない。
自分は一体何を運んでいるのだろう。
ゴツゴツした焦げ茶色のフォルムが僕に向かってドヤ顔している気がして、ううう、と恨めしくなった。
作戦実行
そこで、何とかカヌレを買わなくて良い方法はないものかと考えたのだ。
①妻に「もうカヌレは買わない」と伝える。
これはない。好きな食べ物を取り上げることは絶対ダメ。デブの端くれとして、食の楽しみを奪うことは断じてできない。
②例のパン屋を避ける
不可能。京都の中心街にあるし、職場近いし。
③カヌレに飽きてもらう
これは平和!!僕がカヌレを取り締まるのではなく、妻から自分で距離を置いてもらうのだ!
そこで閃いたのが、妻にひたらすらカヌレをプレゼントすると言う作戦だ。
好きなものをいっぱいもらえるのだから、妻にとっても損はないし、僕の株も鰻登りでWin-Winな手段になる。
これでいこう。頑張るぞ。
結果発表
前置きが長すぎて非常に申し訳ないが、結末は簡潔に話そう。
まず、戦績としては、わずか10日間のうちに5個ものカヌレさんを持ち帰った。
最初の1.2個こそ妻は両手をあげて喜び、むしゃむしゃと食べていたが、3個目で全く喜ばなくなった。
これで終わりやと意気込んだ4個目。さすがの妻も「もうそろそろカヌレはいいかなあ」とこぼしたので、完結が見えてきたとニンマリする。
しかし、まだブームが終わったとは言い切れない。もう一押しだ。
そして迎えた5個目。
この日は仕事終わりにパン屋へ寄り、すぐさまLINEでお知らせした。
その時のラインがこれだ。
勝った。勝ったぞ。
苦節10日。
ついに、カヌレのブームを終わらせた。
妻は4回目からイタズラだと気づいていたようだが、何はともあれこれでカヌレの地獄から抜け出せた。
あの茶色くてゴツゴツした物体を見なくていいんだ!
嬉しさのあまりルンルンで帰宅すると、妻は僕の持つカヌレを見てげんなりしている。
そして、呆れた様子で話す。
「もうカヌレは終わり。買うのやめてな。」
おお!今この瞬間にブームが終わった!
心の中でガッツポーズをする。
そんな僕にに向かって、妻は笑顔でこう続けた。
「次は美味しいチーズケーキが食べたいなあ。」