12章 終わりの始まり
戦争の始まり
ギャラクシアの雲の下では、落雷と雨の中で、
1本の巨大な竜巻が渦巻き、魔物のカラスが旋回していた。
まさに、この世の終わりかのような景色は、幻想的な退廃美であった。
そして、その雲上では、学園の敷地内で、門扉を前に、複数の人間が倒れていた。
エレン及びゴルテスとその率いる軍である。
遂に、侵入に成功したのだ。
荒れた髪型、倒れた馬や人。
荒々しい手段を取ったが故の惨状の跡はあったが、みな無事であった。
そして彼らは、不自然な丸い渦巻を中心に、放射状に倒れていた。
その渦は竜巻の根本であった。
そう、、
雲下の、魔法の竜巻により、ふ択手段により無理やり乗り込んだのである。
ゴルテスは、エレン王を助け起こしてから叫んだ。
「窮策は功をそうした!
竜巻を前に逃げ出した者は、後に必ず見つけ出し処刑する!
立ち上がれ!」
その言葉で、呆然としていた者達の顔つきが引き締まっていく。
すると突然、中年男性の声が響いた。
それは生身の声ではない響きをしていた。
『侵入者だ、、、!!』
みなが声の元を探った先は、門扉であった。
顔が浮かびあがり、険しい形相をしていた。
魔物の門番である。
エレンは、その門扉に言った。
「侵入者は、地上のカラスだよ」
門扉は、エレンをまじまじと見てから言った。
「、、、お前は、帝国の第1皇子だな、、、!
しかし、この軍服は見たことがないぞ」
「同盟国だよ。」
エレンは、清々しいほどの偽言を呈した。
「下のカラスが襲おうとしているんだ。」
更に付け加えた虚言に、門扉の顔が更に歪んだ。
顔をしかめたのはゴルテスもである。
彼は、魔物を利用しヴァイオレットを処分するつもりでいたが、
どこか彼女に情がありそうなエレンには伝えることを憚っていたのだ。
しかし、既にエレンの言葉を信じた門扉は行動に移しだしていた。
先ほどから不気味に渦をまいている、竜巻の根本が移動し始めたのだ。
みな、急に動き始めた雲の渦に動揺し、避けようとする。
雲の下では、強風、豪雨、落雷の中で、竜巻とその回りを旋回するカラスがいた。
一瞬、
一際大きな落雷により辺りは光に包まれた。
次に見せた景色では、カラスの姿はなかった。
この不気味な魔物は、竜巻の中へと消えていったのである。
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ゴルテスが侵入し、ほどなくして、
リー大佐軍は、正攻法である階段で雲の上に登りつめていた。
彼はギャラクシアの門扉から2通の手紙を受け取った。
内容を総合すると、フランキー少佐に陛下の同行の命を取り次いだ後、フランチェスカの元へ行くよう指示するものであった。
内容を把握すると、門扉に皇族印が押印されて、開門した。
「ご苦労様です」と言ってキリッと礼をして去っていくリー大佐を見て、不思議そうに門扉は言った。
「門扉に挨拶するなど、変わったヤツだ。」
卒業
校舎では、最終試験が終了し、卒業生、合格者を発表する時がきていた。
答案用紙は異例の速さで回収され、軍人達も手伝い、採点されたのだった
会場にいた生徒達は、緊張の面持ちで座っている。
フランキー少佐に呼名された者は立ち上がり、ほっと安堵の様子を浮かべ、卒業生の列に並んだ。
遂に全員呼び終えると、フランキー少佐が言った。
「中庭に行き、習わし通り、天使の羽を借りて下界に帰りなさい。」
「みんな、急いで行くよー!」
ラベンダーはそう言うと、卒業生達を率いて退室して行く。
彼女は、ちらりと悲しげな目で会場席の方を見つめた。
そこには、呼名されなかった数人の生徒達がいた。
卒業生達が行ってしまった後、フランキー少佐は、答案用紙を何度も見返していた。
点数が及ばなかった者達の採点ミスを探していたのだ。
みな、ぎりぎりの点数である。
天使は、合格点に達した答案用紙と引き換えに羽を渡す、規則を重んじる生き物だ。
偽装したとしても、無駄なのである、
残った生徒達は、みは青白い顔をし、呆然としていた。
そこへ、1人の軍人が慌てた様子で入ってきた。
「ゴルテスが、遂に、侵入に成功しました。
見晴台から、彼らが敷地内に入ってきていることが確認出来ました!」
フランキー少佐は、苛立ちと焦りを露にして言った。
「後方は学生達の護衛に徹しろ!
前線は迎え撃ちに行く!」
少佐は、前線の者達を連れて退室していく。
廊下に出ると、彼女は命をくだした。
「二手に別れる!!
前線は正門方面へ、最前線は裏庭方面へ!!」
軍人の1人が後に続きながら尋ねた。
「間諜の2人はいかがいたしましょう?
ゴルテスと繋がっています。
学生と言えど、至急対処する必用があります。」
フランキー少佐は、真っ直ぐ前を見据えながら言った。
「処遇を決める権限などないが、致し方ない。」
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一方で、
ラベンダーは、卒業生を率いて、裏通路から校門へと渡っていた。
控えていた天使に、順次合格証明の答案用紙を渡し、羽が授与され、学生たちは次々に下界へと飛び立っていく。
「卒業おめでとう」
ラベンダーが一人一人に、寂しげに言ってお別れの抱擁をかわした。
「ラベンダーさん、今までありがとう。」
卒業生達は、名残惜しそうに言いながら去っていく。
その時であった!!!
ラベンダーが始めに見たのは、空に飛ぶ゛天使たち゛が次々とらっかしていく様子であった。
次に、気づいたのは銃弾が飛び交う光景。
発砲源は、敵国の軍人(ゴルテス側の軍人)だった。
「殺すなよ!生け捕りにして情報を吐かせるんだ!」
指揮官が声をあらげて命令している。
ラベンダーは考えるより先に、手を勢いよく振っていた。
それに合わせて、地面の雲が浮き上がり、打たれた卒業生達を救護していく。
ラベンダー・スミス
1度も怒りの感情を爆発させたことのない、そんな感情をまるで知らないかのように、何事にもあっけらかんと対処してきた。
しかし今、彼女の目は鋭くつり上がり、髪の毛は逆立ち、憎みに満ちた顔を軍人達に向けている。
その剣幕は、鍛え上げられた軍人さえも怯ませた。
「あれは、もしや紫髪の用務員(管理人)、、、!!」
1人が緊迫した顔で言った。
ラベンダーは、はたきを取り出すと、校舎に向かって勢いよく突きつけた。
すると、轟音が響きわたり、その音が近付いてくる。
現れたのは、見たこともないような数多の魔物であった。
ラベンダーの後ろに集約されると、彼女を先頭に軍人達に向かって迫っていく。
魔物たちを率いながら、颯爽と歩いていく彼女は、管理人でありながら支配者のようでもあった。
ラベンダーが叩きを振る度に、魔物が襲いかかり、敵軍が吹き飛んでいく。
そこへ、公国軍の前線が駆けつけた。
怒りに満ちた顔で、彼女は学園の終焉について語りだした。
学園の行く末
廊下を歩く少佐に、前方から配下がただ事ではない様子でかけつけてきた!
「フランキー少佐!!」
そう言うと、彼は少佐に耳打ちをした。
彼女が、それを聞き終えたその時、、、!!
薄暗い廊下の先向かいから、軍人らがこちらへ歩いてくるのが見えた。
少佐率いる前線軍は、緊迫した面持ちになり剣を抜いた。
しかし、それは敵ではなかった。
姿を見せたのは、リー大佐とその従軍であった。
フランキー少佐は、希望に満ちた顔で言った。
「援護にいらしてくださったのですですね!!」
しかし、大佐はそれに答えず、持っていた手紙を手渡し、静かに、事務的に言った。
「フランキー少佐、命令です。
陛下がこちらへ向かっています。
到着までに、護衛の長として供に魔界へ参りなさい。
私は合流し、研究長の護衛として魔界へ向かいます。」
フランキー少佐は、怒りを露にして言った。
「、、、陛下は、国を留守にして何をなさろうとしているのです?!
愚かな、、、!」
リー大佐が静かに恫喝した。
「口を慎め!
同盟国の皇帝の命だ!」
フランキー少佐は、食い入るように言った。
「今この学園は、魔界の入り口へと向かっているのですよ!!!
ゴルテスらが、ギャラクシアの管理者、ラベンダーの逆鱗に触れました。
彼女を怒らせると、
学園は崩壊しながら強大な魔力を放出し、それを魔界が引き寄せてしまうのです。
その影響力は大きく、世界中を嵐で覆いつくします。
それも、自然発生した嵐とは桁違いの、地球規模での大惨事となり、
世界を破滅へと導いてしまうことでしょう。」
リー大佐が目を見開いて言った。
「、、、それは、、、確かな情報なのですね、、、」
フランキー少佐は声をあらげて言う。
「補佐官の報告です。
怒りを露にしたラベンダー本人の発言のようです!
この学園を支えている雲は、普通の水蒸気です。
それが魔法により、規則的に配列し、水とも氷とも言えない形態に姿を変えているのです。
その一部が水となり、学園を流れていますが、基本的には強大な魔力により゛雲゛の形として存在していました。
ですが、その雲を破壊出来る唯一の方法があります。
それは、高級水性樹脂。
浸透圧の原理を利用した吸収材です。
更には、学園独自に開発され極めて高い吸収能力を持つものが、ここにあります。
強力な魔法を解くのは科学技術だったのです!!
吸収材は、図書館の閲覧禁止区域の禁固に保管されています。
管理人の怒りは、彼女の意思と関係なく魔力と感情を暴走させ、その扉を開けようとしているのですよ!!」
リー大佐は、それを聞き終えると、眼光鋭く光らせて、静かに言った。
「、、、それが事実ならば、私は一刻も早くフランチェスカ研究長の元へ参らねばなりません。」
大佐が立ち去ろうとすると、
フランキー少佐は手紙を叩きながら言った。
「ゴルテスが侵入してくるような、ましてや学園が崩壊寸前の緊急事態が起こったとしても、命令通りにしろと書かれていますか??!!!
盲目的に従うのは間違っています!!!」
「我々は公国の人間。
公国側の上層部である方を危険に晒したままでいるわけにはいきません。
それがどれほど深刻な問題であることか、分かっているのですか。
あちらには、マリア・ルイスがいるとはいえ、圧倒的に護衛が足りません。
それに加え、彼女は優秀とは言えども少女です。」
リー大佐は、静かな声で厳しく言うと、踵を返して部下を引き連れ去っていく。。。
「お待ちください!」
フランキー少佐はそう叫んだが、
止まろうとしない彼の背中目掛け、
剣を向けて走っていった。
背を向けていた大佐の剣が、勢いよくフランキー少佐のそれと衝突した。
配下は、突然の主同士のの闘いを見届けることしか出来なかった。
暫く乱闘していたが、はるかに卓越した身体能力を持つ大佐が途中から優位に立ち、そして、フランキー少佐の剣が吹き飛んだ。
憤りを見せる彼女を背に、再びリー大佐は去っていく。
フランキー少佐は、彼の背中に向かって声をあらげて叫んだ。
「どこまで盲目なのですか!
せめて、
学生の救出の援護を要請は受けるくらいの、、、
気概はあると信じたいものです!!」
その時、リー大佐の方から、彼を通り過ぎて光輝くものが飛んできた。
それは天使であった。
フランキー少佐の元へ飛んでくると、
天使は特有は言語で、もにゃもにゃ話し始めた。
゛緊急事態に継ぎ、学生達に追試を認めます。
あなたたちが試験問題を作成してください。
問題は一門で構いません。
但し、必ず、ギャラクシアの水準に満たす問題に限ります゛
それを聞いた少佐は、握りこぶしで自身の太ももを叩いた。
「どこまで融通が効かないんだ!!」
部下が宥めるように言った。
「彼女達は悪くありません。
一定水準の基準を越えた学力がないと、雲が認めないのです。」
「その雲は崩壊寸前だろうが!!!」
フランキー少佐は吐き捨てるように言うと、
リー大佐の元へ走っていった。
フランキーは、立ち止まると、
今までにないほどの剣幕で名前を叫んだ。
「リー大佐!!!!
お待ちを!!!!」
長年付き従ってきた彼女が、ここまで怒りを向けてくるのは始めてであった。
その迫力に、大佐は立ち止まった。
フランキー少佐は、彼に向かって言った。
「学生救出には、エメラルド学園の卒業生の協力が必用です。
そこは、ギャラクシア開校前の、物理学における最高峰でした!
あなたしかいません!!」
暫くの沈黙の後、彼は口を開いた。
夢
エリカは夢を見ていた。
映像だけを第三者的目線で見る夢である。
第三者の目線は、建物の中を、天井から俯瞰して見ていた。
全面ガラス張りの綺麗な建物。
天井からは、金の鎖によるカーテンがぶら下がり、差し込んだ満月の光により輝いていた。
そこには、ドレスを着た人々が社交ダンスを楽しむ姿があった。
間もなく、視点は変わり、
エリカは第三者から、夢の映像の中の登場人物の1人となった。
綺麗な女性の腕に抱かれていた。
夢だからなのか、
その女性が社交ダンス会場の片隅で休憩していたことや、
自分が赤子であることが分かった。
赤子でも記憶に残るものなのだろうか、、、
どこか懐かしく、記憶の彼方に埋もれていた欠片を見た気がした。
女性は微笑みかける。
それから、美しい声で歌を口ずさむ。
小さな歌声だけれど、エリカにはしっかりと聴こえた。
その歌はいつの間にか、曲調を変え、更には歌声は横笛の音へと変化していく。
その音は、美しく、、、なかった。
鼓膜を激しくつつくが如く、尖った音!
そして、目が覚めた。
笛の音は現実のものだった。
誰が吹いているのだろうか。
エリカはとにかく、この演奏を止めてやりたくて、辺りを見回した。
それは船室の窓の外から聞こえた。
窓を開けると、そこにいたのは意外な人物であった。
マリアである。
手にフルートを握っていた。
唖然とするエリカに、マリアは気づいて演奏を止めた。
それからいつものごとく、淡々と言った。
「海賊船にあったものです。
私には、横笛の才がないようです。」
言葉にはどこか人間味があったが、表情からは一切の感情を感じなかった。
エリカは、驚きが口をついて出た。
「ルイスさんにも、、、、不得手なものがあるんですね。」
「人間ですから。」
マリアは、さらりと答えた。
空は、薄暗い明け方の色。
エリカは窓から出て、マリアの隣に座った。
風が冷たい。
「この世界の物は、みんな不完全です。
全知全能の神なんて、いません。」
エリカは真顔でそう言うと、何故だか少し寂しく感じた。
その心を誤魔化すように笑う。
「美音はどのように出すのでしょうか。
教えていただけませんか。」
マリアが言った。
いつもの口調と表情で言った。
しかし、初めて、個人的な要望らしきことを言ったのだ。
エリカは目を丸くするも、それには触れずに自分の横笛を取り出した。
「力任せに空気を出してはだめです」
と言って、基本音階を鳴らす。
「それから、腹式呼吸です。
、、、そうだ!軍人のルイスさんなら得意だと思います」
エリカはそう言ってニッコリ笑った。
マリアが小さく頷き、口を笛につけスッと息を吸った。
そして、音階が鳴り響く。。。
澄み渡った空気に、、、音の波が広がった。
1音1音、、、息継ぎがなされながら、、、
辿々しくも丁寧な音色
マリアの息継ぎは小さくて鋭く、鍛練された軍人の洗練された術のように見えた。
先ほどより、明らかに音が違う。
エリカは目を丸くして言った。
「さ、さすがです、、、!」
その時、、、、!!!
重要案件を思い出した。
大事なことは、何の脈略もなくふと思い出すものである。
エリカの顔が青ざめていく。
慌て、船室に戻ると、コロニーの培養土へと足を運ぶ。
すると、コロニーは、、、死領域に対して直角方向になろうとしていた。
マリアが後ろからやって静かに言った。
「直に周知しましょう」
「は、、、はい!!!」
エリカはそう返事をして慌ただしく動きだした。
魔法と音楽の謎
それから、半日経った。
夜明け前の薄暗さから、明るい昼間へと変わっていた。
今、航海旅の者達は、無人の孤島に停留している。
遠浅の綺麗な海に囲まれた島である。
海岸に押し寄せる波が、白い砂浜を濡らしては引いていく様は、まさに美景。
船は、そのような海岸付近の浅瀬に止まっていた。
一見座礁船のようであるが、水難事故などではない。
「この辺りは、定期的に満潮になる。その時に出発しよう。」
という船長の案で、ここに意図的に乗り上げているのである。
この島は、リー大佐とおち会う場所。
そして、目的地のすぐ目の前。
つまり、魔界の扉があるとされる場所である。
一見何の変哲もない只の海。
しかし、そこは、進みかた次第で不思議な世界への扉を開く、
魔界の入り口と検討される場所。
そんな旅の大きな節目を目の前に、言い出した当の本人は、全くそのような気概を見せていない。
フランチェスカは、航海士達と供に、浜辺でヤシの実をつついたり、呑気な様子を見せている。
その傍ら、エリカは船のデッキで海図を見ていた。
「ここは、死領域であり、日付変更線の近辺。
つまりは東と西の果て。」
そう呟くと、つかつかと歩いていき、
柵ごしに赤道方面を見た。
北半球、南半球を隔てる理論上の線は、すぐ鼻の先にある。
更に、それと直交するのが、日付変更線。
ふと横を見ると、船の上からフランチェスカを見守るマリアが見えた。
エリカは彼女の元へいき、言った。
「赤道と東西の壁の交わる場所、そこが魔界の入り口だったのですね。」
マリアは海を見ながら言った。
「コロニーの進捗率からの予測が正しければ、、、おっしゃる通りです。」
エリカは、考え込むように行ったり来たりしながらに言った。
「なぜしょう?
赤道はともかく、人間が方位を認識するために決めた壁に、何か物理学的意味合いがあるのでしょうか。
魔法は物理学の延長にあるのでしょう?」
マリアは、いつものように答えた。
「私は、神様ではないので知る由もありません。」
エリカは、空を仰ぎ見て言った。
「そうでしょうね!
神様とやらがいれば、聞いてみたいものです!」
それから、立ち去ろうとした時、マリアが言った。
「場所は偶然の一致でしかなくて、他の理由で生じたと考えられる余地はあります。」
珍しく、自分の考えを述べたマリア。
どうも、度々意外な一面を見せる。
エリカは、少し嬉しくなって言った。
「そ、そうかもしれません!
ありがとうございます!」
「とにかく、不規則に浮遊しているギャラクシアから、こちらへリー大佐がたどり着けるか不安です。
ここは無名の島ですからね!」
エリカはそう言うと、
世話しなくマリアのもとを去り、
船を降りた。
浅瀬に入り、柔らかな砂を踏みしめながら、歩いていると、レイナが砂浜で頭を抱えているのが見えた。
エリカはかけより、「大丈夫ですか?」と声をかける。
レイナは、苦しそうに言った。
「ここは、本当に、魔界の扉付近なのですね。」
「恐らくそうだと思いますよ。」とエリカが答えると、
レイナは低い声で言った。
「何故か胸騒ぎがします。
私のいた島も、この島も、同じ海に浮かぶ島なのに、ここは落ち着きません。」
「全然違いますよ。
ここは寂しい無人島だからじゃないですか?」
エリカはそう言ってみてからハッとした。
「もしかして、、、!」と呟きながら、先ほど見た海図を思い描く。
「ここは、水の都から最も遠い所だからじゃないですか?!」
考えをそう口にすると、レイナは「最も遠い?」と首を傾げた。
「水の都の間反対に位置しています。
逆に言えば、、、ここから地球の中心を通って、向こう側の地には、水の都がある、、、。」
エリカはそう言ってレイナを見た。
何故か、大きく心臓が鼓動している。
魔界と水の都とに、何か関係性があるのではないか、、、そう思ったからである。
「関係、ないか、、、。」
と1人呟くエリカ。
それは、自分の考察に対する心の声が漏れでたものだった。
「いいえ。あります!
この胸騒ぎの原因は、多分、それです!」
レイナは確信したようにそう言った。
「、、、これ以上、旅を続けない方が良いのでは?
私たちは、魔界に必ず行きます。
レイナさんは、魔界がいやで、逃げ出してきたのですよね。」
エリカが心配そうに言うが、
レイナは自分の思いを曲げなかった。
「大丈夫です。私もご一緒します。
暫くは憔悴しているので魔法は使えませんが、きっと必ず、魔界に行けるように協力します!」
それから、エリカを真っ直ぐに見据えて言った。
「私も、知りたいんです。自分が住んでいた、魔界という場所が、どんなところなのかを。
善悪きっちり分かれているのが居心地悪かったけれど、
今は、人間の方々と一緒だから、怖くありません。」
「頑固なやつだなぁ。」
という船長の声がした。
エリカが声の方を向くと、船長が腰に片手を当てて立っていた。
彼はエリカに向かって言った。
「研究長が呼んでいるぞ。」
「何だろう。」
とエリカが呟くと、
船長は怖いことを言った。
「一人一人、面接らしいことしてやがる!」
「えぇ、、、何それ」
エリカが度肝を抜かれていると、「早く行けよ。」と船長に急かされた。
言われた通り、緊張しながら、フランチェスカの元に行く。
~~~
フランチェスカは、手懐けた海賊にヤシの実の汁を抽出させながら、自分は優雅にそのジュースを飲んでいた。
エリカがやってくると、彼女はグラスを差し出した。
「おひとつ、どうぞ。」
悠長な様子に憤りを見せつつ、
エリカはそれを受けとると言った。
「ご用とは?」
「仮説を整理しましょう。」
フランチェスカはそう言ってから話し始めた。
「粒子はエネルギーの凝縮体。
そして、エネルギーも何かの凝縮体であると考えられます。
その何か、が精神力。
逆を言えば、精神力を凝縮すれば、エネルギーになる。
エネルギーにすれば、物理的な現象を引き起こすことが出来ます。
精神力を凝縮する力、、、それこそが魔力であり、その役割を担っていると考えられるのは、、、
何だと思いますか?」
急に話を振られるも、戸惑いながらエリカは答えた。
「、、、秘少石、、、でしょうか。」
「の光です。
青いその光には粒子がなかった。
魔力の正体だからです。」
フランチェスカは、エリカの回答に付け加えるようにそう言うと、再び話し始めた。
「あなたは、秘少石は、幻の数を扱うブラックボックスなのではないかと言いましたよね。
それが正しいならば、石が生み出す光は、その数の計算結果として出されているものかもしれません。
だとしたならば、魔力でさえも、数字に支配されている、いうことかもしれません。」
それから、声色を変えて、言った。
「ここまで仮説出来ました。
しかし、一切、仮説の余地を与えない謎があります。
それは何だと思いますか?」
「、、、」
今度こそ、答えられずにいると、
「0点です。」と、唐突に採点されてしまった。
「結論から言えば、
時間と空間の超越は出切るのか否か、ということと、
それが可能ならば、どう実現化させるのか、ということです。
その手がかりは、秘少石にあるに違いありません。」
フランチェスカはそう言ってから、
秘少石の光について話し出した。
「秘少石はどこかに行方をくらましましたよね。
魔法を使うとき、その光だけが、なぜか出現する。
光は、どこにあるかも分からない石から来ているのですよ?」
そこで一旦区切り、
フランチェスカは手を顎に当てて伏し目がちになる。
さらに彼女の話は続く。
「粒子と魔力、それから秘少石の関係については、大体の考察が立ちましたが、
その青い光については、謎が深すぎます。」
フランチェスカは、エリカを強い眼差しで見つめて言った。
「ただ分かることは、
その光は、瞬間移動しているかもしれないということ。
魔法を使うときに光が現れるのは、石から光が瞬間移動でやって来ているからに他なりません。」
エリカはそこまで黙って聞いていたが、
腑に落ちない様子で口を挟んだ。
「研究長、僭越ながら申し上げますけど、
瞬間移動ではなくて、ものすっっっごく速いだけってこともあるのではないですか?
普通の光ってすごく速いじゃないですか。
同じ地球にいたら、それこそ、瞬間移動みたいに感じるほどですよ。」
しかし、フランチェスカは、自身の仮説を曲げなかった。
「それは、地球上だけの話ですよね。
距離が離れれば、一瞬には感じられなくなる。
私たちが見ている星ぼしの光も、宇宙の遥か彼方からやって来ているもので、何百年もの時間をかけて私たちの目に入るのですよ。」
それから、彼女は、エリカから視線を離して、空を仰いだ。
「秘少石がどこに消えたのかは分かりませんが、宇宙は広大であるということは分かります!
地球上にあると考える方が難しいです!!」
話す内に、熱量をあげていき、彼女は立ち上がって力強く言った。
「瞬間移動は言わば、空間の超越です!!
私たち人間が、
魔法でも今だもって不可能なことは、時間と空間の超越です!
そして、空間と時間は繋がりあっている、、、。
秘少石の光が瞬間移動しているとしたならば、
その光について分かり、時空についても、分かるかもしれないと、いうことです。」
彼女は再びエリカに視線を移して言った。
「仮に瞬間移動していないとしても、
魔力を持つ秘少石には、時間と空間についての手がかりがあるに違いありません。
魔力を自在に操るには、魔法物理学を理解する必要があるからです。
それは、4次元を認知出来る人間のみが出来る。。。
ギャラクシアにいたころ、私は最初の授業で言いましたよね。
4次元は、奥行き以外の空間が、時間に見える世界なのではないかという科学者がいると。
つまり、普通の人間には理解出来ない、4次元目の空間が、時間そのものであるとしたらば、
魔法物理学は、時間と空間の概念の元に成り立っているというかもしれないのです。
魔法物理学は、魔力を扱う学問。秘少石が関係しないわけはありません。」
そこでフランチェスカの壮大な話は終わる。
彼女は意味深な笑みを浮かべ、エリカに投げ掛けた。
「さて、もう一度再確認しましょう。
私たちが、魔界で研究することは、何ですか?」
再び、問いかけられたが、エリカは今度こそ、しっかりと答えた。
「魔界で私たちが研究することは、、、
秘少石を探し出して、時間と空間を超越出来るか否かということです。」
凛としたエリカの様子に、フランチェスカは満足げに言った。
「100点です。」
しかし、再び彼女は、エリカに問いかけた。「あとそれにプラスして、
もう1つ、重要な研究テーマがあります。
それは、何だと思いますか?」
「、、、」
エリカは暫く考えたが、直ぐに時間切れになってしまったようだ。
フランチェスカは、
答えられぬエリカに回答を言った。
「音楽です。
なぜ、音楽は魔法と関係があるのか、、、
それについても付随して研究していきましょう。」
エリカはごくりと唾を飲み込んだ。
少しずつ真相に近づいていく実感と共に、喜びと恐怖が混在した。
本当にそれを知ってしまって良いのだろうか、、、
一瞬、そんな懸念が頭をよぎったが、すぐにそれを払拭する。
自分にも、フランチェスカに負けない好奇心がある。
エリカは、力強い眼差しで言った。
「魔法の謎については、ほぼ仮説がついた。
それの証明と共に、
時間と空間の超越に加え、魔法と音楽の関係を探る。
その為に、秘少石を探すのが、魔界に出でる具体的な目的ということですか。」
「そういうことです。」
フランチェスカはそう言って笑った。
それから、エリカはハッとして顔つきを変えた。
怪訝そうに彼女を見つめて言う。
「それ全員にやっているんですか?」
「もちろん。」
と、悠長に答えるフランチェスカ。
「軍人の方々にも?」
「もちろん。」
「航海士の方々にも?」
「もちろんです。」
そんなやり取りを経て、エリカは純粋な疑問を抱いて尋ねた。
「なぜ、そんなことするんですか?」
「この旅は、魔界という、未知の場所に出でる危険な旅。
皆で共通認識を持つことの、何がいけないのでしょうか。」
フランチェスカの答えに、エリカは何も言えずにいた。
「そうですね。
差し出がましいことを言って、すみませんでした。」
と謝意を伝えてから、
エリカはがらりと話を変えた。
「本当に、ここでリー大佐とおち会えるのでしょうか。
迷っているかも、、、」
フランチェスカは言った。
「学園の雲の破片とその上に乗る船を、移動手段に手配するようラベンダー・スミスにことずけました。
ここは、西と東を隔てる概念上の壁がある、人間にとっては地理的な意味合いの深い場所。
しかし、西の果てでもあり、東の果てでもあるといった、
人間が唯一理解可能なパラドックスの存在するこの場所は、
魔法的な意味合いもあるのでしょう。
なぜか、遊離した、魔法物体の破片が自然に流れ着く場所なのです。
赤道へ吹き込む貿易風に乗ることが出来れば、
そして風により転覆しないよう船の重心を調整することが出来たのなら、
自然にこちらへたどり着けるでしょう。
ギャラクシアは、浮遊しているとは言え、中緯度以下の大規模な大気循環の影響を受けているのですから。」
エリカは、フランチェスカの仮定的な言い方に不安な様子を変えずにいた。
「召し上がって。
美味しいですよ」
その言葉に促され、ひと口飲んだ。
それからエリカは、辺りを見回してから声を潜めた。
「何故、研究長は、皇族に代々伝わる魔界の言葉を知っていたのですか?」
フランチェスカは目を光らせて、微笑を浮かべた。
「端的に言えば、私は皇族なのです」
「え!」
エリカは思わず感嘆の声を上げた。
「ですが、私は、同盟を除いて、帝国とは何の関わりもありません。
私の祖先が、皇族だったのですが、逃げてきたのです。
野蛮な悪政から。
ですから、私の家系には、その残り香みたいなものもありました。
只のおとぎ話だと最初は思いました。
しかし、研究者になり、多角的に物事を見ることが出来るようになると、そのおとぎ話が事実だったのではないかと思うようになったのです。
そして、その考えは当たっていましたね。」
フランチェスカはそう言うと、上品に笑った。
「皇女フランチェスカ様、、、ですか?」
エリカが唖然として言うと、
フランチェスカはコロコロと笑って言った。
「悪くないですね。」
帝国の皇女となり権力を得たフランチェスカを想像し、エリカはゾッとしたが、今も事実上の権力者であることを思い出し、平常心に戻ることが出来た。
囚人の運命
ギャラクシアの牢獄には、2人の囚人が収監されていた。
涙ふくろの気弱な女の子、
ジャスミン・ベンジャミン
気性の荒い男の子、
エヴァン・ブラック
2人とも、ゴルテスの手下である。
この学園の生徒として、間諜を行い、それが露呈して捕まったのである。
ジャスミンが不安げに言った。
「私たち、どうなるのかな。」
エヴァンは、暗い表情で返す。
「、、、ゴルテス様を待つしかないだろ。」
その時、複数かの足音が近づいてきた。
彼らにとって、それは希望の光なのか、死刑宣告であるのか、、、
2人の顔に緊張が走る。
姿を表したのは、見知らぬ顔をした軍人達であった。
それは、明らかに死刑執行人。
恐らく、緊急事態に次ぐ代理の者達。
ジャスミンもエヴァンも、絶望したように腰を抜かした。
執行人は、牢の前に立つと、羊皮紙を取り出し読み上げた。
「ジャスミン・ベンジャミン
エヴァン・ブラック
間諜による謀反の罪で、極刑に処する。
これより、毒殺刑を実行する!」
期待しつつも、どこかしらで覚悟をしてはいたが、やはり現実を突き付けられると受け入れがたいものがあった。
「終わりだ、、、完全に。」
エヴァンが硬い表情で言い、ジャスミンは言葉を失っている。
「言い残すことはあるか!」
執行人は、この言葉で情報を聞き出すよう仰せつかっていたが、
放心状態の2人は口を割る様子を見せなかった。
執行人は、太くて長い針を取り出して言った。
「これは毒針だ。
意識が次第に薄れていき昏睡状態におちいる。
それから、数時間後に目覚める。」
2人は、しばらく身構えていたが、
その言葉に違和感を覚えるのに少々時間を呈した。
「目覚める、、、?」
エヴァンの尖った目尻が下がった。
執行人は言った。
「フランキー少佐の恩赦だ。
必要性に迫られた際、皇帝の許可無しに直ちに、極刑もしくは、舌切りの刑に処すことも可能だ。
しかし、未成年であるお前たちの境遇を加味しての特別措置だ。
その後の処分は、陛下に委ねられる。
少しでも生き長らえられることに感謝するのだ!」
思いがけない出来事に、2人は顔を見合わせた。
「か、感謝します!」
ジャスミンが言う。
「感謝します」
エヴァンは、手放しには喜びがたい判決に、暗い表情を見せながら言った。
「では、柵越しに屈み、上腕部を差し向けろ」
執行人の命令に従い2人は移動する。
その時、複数の疾走する足音が近づいてきた。
それには、執行人達も気づいており、緊迫した表情で剣を抜く。
「ブラック!!!」
毒針を持つ者が、叫んだ。
エヴァンは、震えながら柵から後退りしている。
突然、執行人の脇腹に勢いよく衝撃が走った。
ジャスミンが悲鳴をあげる。
短剣が刺さり倒れる執行人、、、
愕然としている間もなく、やって来た者達が襲撃してきた。
それは、帝国の敵国及び公国の敵国、そして2人の主の国の軍人達であった。
あっという間に、執行人達は全員倒されてしまった。
最後の1人の体に刺さった剣を抜いたのは、2人が待ち望んでいた主、ゴルテスであった。
「ゴルテス様!」
「ゴルテス様、お許しを!!」
ジャスミン、エヴァンは必死の思いでそう言いながら膝をつき頭をたれた。
しかし、ゴルテスの口から出た言葉は無慈悲な者であった。
「無様だ!
お前たちがノロノロしている間に、この私自身が、気色の悪いこの学園へ侵入することになったのだぞ。
そうなった今、無能どもを生かしておく理由もない。」
2人は慌てふためきながら謝罪した。
地面に頭をつけて何度も。。。
「命乞いする情けない姿を見せるならば、何か役に立つ情報を1つでも聞かせないか!!」
ゴルテスが恫喝すると、
エヴァンが顔だけ上げて言った。
「ラベンダー・スミスです!
紫髪の女、この学園の管理者です
ヤツはよく図書館にいます!!!」
「ほぅ」とゴルテスが相槌を打つと、暫く沈黙が訪れた。
エヴァンは、続く言葉が見当たらず、学園生活の記憶の中から、必死に何か有益情報となりそうなものを探した。
そんな彼の様子を見て、ゴルテスが沈黙を破って言った。
「言いたいことは、それだけか。」
その時であった。
水流の音が聞こえてきた。
魚だ。魚が来る前兆である。
エヴァン、ジャスミンは、怯えた顔で牢の端まで逃げ、ゴルテスは訝しげな顔で足元を見た。
廊下に出来た水の道が、足を濡らしていた。
その流れは、急激に速度を増していく。
今までとは明らかに違う水の増し方である。
そして、次の瞬間、通路に水の壁が一気に走った。
それは、天井にまで届く高さであり、逃げ場など無かった。
牢内にいる者以外は、、、
ゴルテス含む軍人達は一気に水に飲みこまれ、永遠に2人の前から姿を消し去ってしまった。
「わ、、わわわ私達も溺れ死ぬよ!!」
ジャスミンが発狂する。
「ご、、、ゴルテス様、、、」
エヴァンは、焦点の合わない目でそう言った。
しかし、
牢には柵から水しぶきが散るばかりで、不思議なことに、水がこちらに雪崩れてくる様子はない。
そして、次の瞬間、水圧によるものなのか、魔法で強固に施錠されていたはずの扉が勢いよく、音をたてて開いた。
気づくと、牢の外の水流は止まっていた。
まるで、柵ではなく強化ガラスで隔たれているかのように、水が不自然に垂直に留まっているのだ。
2人は呆気にとられたままだったが、ジャスミンが恐る恐る近づいていき、開いた扉から、水の壁を触る。
それはまるでゼリーのような感触であった。
エヴァンも、呆然としながらも歩いていき、水に触れた。
すると、手がずぼりとはまり、水の感触を捉えた。
透明の膜のような中に、水が入っているのだ。
奇妙な現象に2人は目を見合わせる。
エヴァンは、意を決して、はまった手を抜いた。
抜いた箇所を覆うように、また膜により塞がった。
「この中を泳いで脱出するしかない。」
エヴァンが神妙な面持ちで言った。
「ちょっと、何言っているの?」
ジャスミンが震える目で彼を見て言う。
「この先を曲がったら、広間に出る。
そこまでなら、息がもつはずだ。」
エヴァンが言った。
「もし、広間も水没していたらどうするの?
それに、魚だっているかもしれないんだよ!?」
ジャスミンが懸念を口にする。
「水没していたら戻るしかないだろ!!魚なんて知るかよ!!」
エヴァンが、苛立ちを露にした。
ジャスミンは、こくりと息を飲むと話し出した。
「、、、正気?今までとは違う水の流れ。
きっと何かが起こったんだよ。
私ね、見ちゃったの。
図書館のとある閲覧禁止区域の床下から水が流れ出しているとこを。
その本棚、水が流れてないときに見たら、床に鍵穴みたいなのがあったの
きっとこの学園の秘密だよ」
エヴァンは、かっと目を見開くと、ジャスミンに物凄い剣幕で掴みかかって言った。
「なぜ、そんな重要なことをゴルテス様に言わなかった!!??」
ジャスミンは、俯いて言った。
「あの方はもう死んだ。
何故か分からないけれど、ゴルテス様のしようとしていたことが、世に大惨事をもたらす引き金になる気がしたの。
今は亡き、この学園の厨房シェフの声が聞こえてきた気がしたの。」
エヴァンは、暗い表情で言う。
「厨房のおっさんは、お前が魔法を解き、魔物の彼を人間の姿に戻したんだ。
彼の肉体は寿命を越えて朽ちて消え去った。
人間の意識は所詮、脳が作り出した幻想でしかないんだ。
死んだ者の声が聞こえるはずがないんだよ!!!」
「、、、そんなことない。
その考えなら魔法物理学が成り立たない。」
ジャスミンが静かに言うと、
エヴァンが語気を強めて言った。
「あんな学問はな、まやかしでしかないんだ」
「あなたは学者なの?
なぜそんなに断言するかのように言うの?」
エヴァンは、それには答えず、
水の壁に顔を向けた。
「どちらにしろ、ここを出る
お前は好きにしろ!」
ジャスミンの肩に手を置いて、少し寂しそうにエヴァンは言った。
「またな」
彼は、水の中へと体を入れていき、完全に水中へと身を投じてしまった。
ジャスミンは、その様子を不安げに見送ることしか出来なかった。