1章 旅人の目的

魔法遺伝子の開発者

科学で発展する明白領域は、
鉄筋コンクリートの高層建物が立ち並ぶ街並みに、
磁器の乗り物や端末が見られ、
日常に機械やデジタルの光景が溢れている。

しかし、死領域を一度越えればそこは、全くの別世界。
鉄筋コンクリートも磁器もない、風景は完全に中世時代の明白領域。

少女達は、
空に浮かぶ魔法学校から、
どちらに送られたのであろうか、、、。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

大洋に浮かぶ孤島に、貿易の中継地として栄えた町があった。

馬に股がり衣を売る商人、笛でへびを操る大道芸人、果物や野菜を乗せた荷台を馬に運ばせる農民。

様々な人々が、活気よく生活をしていた。

そのような賑やかな雰囲気の中に、人だかりが出来ていた。

踊り子の美女に、みな見惚れていたからである。

艶かしく踊る、その女性の背後で、3人の旅人が舞いに彩りをつけていた。

ひたすら無表情にタンバリンを叩く少女。

研究長の助手、

小柄で愛くるしい容姿とは裏腹らに、きっちりとした団子結びをしている。

その傍らで、踊り子に、紙吹雪をかける少女と、小麦肌の男の姿があった。

研究長の助手

及び
名もない航海士である。

この3人は、研究長フランチェスカの命により、魔界の扉を見つける旅の最中にいた。

エリカは、小柄で華奢な体つきに反して、つり目で勝ち気な顔立ちの少女である。

エリカが虚ろな顔で言った。
「私たち、一体何をしているのでしょう。」

「まぁ、せいぜいあいつを見習うんだな!」
洗練された手さばきでタンバリンを叩くマリアを示してそう言ったのは、名もない航海士である。

並外れた航海術の持ち主である彼は、この旅に協力する条件で、解放された死刑囚である。

記憶喪失で、あるいはそう装おっているのか、名前を言おうとはせず、みなに船長と呼称させるような信用しがたい人物だ。

男=船長は言った。
「よくも死刑囚の焼き印をしてくれたな!
こんなんじゃ、解放されても意味ないだろ!」
「帝国の魔法か、公国の再生医療かで皮膚を再生します。」
エリカは毅然として言った。

船長は、話を変えて問い詰めた。
「この島には、魔界の扉を知る人物が本当にいるのか?」

「断言出来ませんが、きっといると思います。
取り敢えず、この島にいる目的は、その人物を探すことです。」
エリカが答えた。

「そいつは一体何者なんだよ。」

「魔界の扉を突き止めたとされる科学者か、その助手」

「そいつを探すのか。」
船長が納得したように言うと、
     エリカが付け足すように言った。
「の先祖です。」

「はぁ?先祖だと?」
船長が方眉をあげた。

エリカは彼の様子を気に止めることなく言った。
「魔界の扉の位置は、
魔法遺伝子の開発には必用な情報だったそうですよ。」

「魔法遺伝子だと?」
船長は大きく目を見開いた。

彼にとっては、予想だにしない単語だったのだろう。

「魔法遺伝子とやらは、
魔族=皇族だけが持つとされる遺伝子だろ?
何故それをわざわざ開発したんだ?」

「魔族は、、、、
実は、科学者により産み出されたものなんです。
開発された魔法遺伝子が受精卵に入れられたことから、魔族は始まりまったんです。」

船長は眉間に皺を寄せ、府におちない様子で尋ねた。
「なぜそんなことしたんだよ。
魔法を生み出す為なのか?」

「逆です。
魔法を封印するため、、、。

かつては、世界唯一の魔法学校、ギャラクシアで魔法物理学を学べば、誰でも魔法を扱うことが出来ました。

それが仇となり、魔法が乱用され、世界は滅びかけた。

世に充満した魔法を封印する為に作られた入れ物が魔法遺伝子だったのです。」

聞き終えると、船長は、空を仰いで「、、、えらく込み入った話だな。」と、心の声を漏らした。

科学が魔法遺伝子を産み出し、魔族の起源となった。
その開発者が魔界の位置を突き止めたということなのだ。

一頻り、これまでの話を頭の中でまとめると、船長はエリカの顔を見て、新たな疑問をぶつけた。
「しかし何故、その入れ物は遺伝子なんだ?
何故、魔界の位置を突き止める必用があったんだ?」

「それは、その開発者にしか分かりません。」
エリカが答えた。

「後、、、」とエリカは船長を訝しげに見つめ、「花吹雪の手を止めないでください?」と言う。

船長は、再び花吹雪の手を動かし始め、「大体の内容は把握した。」と納得したように言った。

続けて、更なる疑問をエリカにぶつけた。
「だが、あと2つ聞きたいことがある。

1つ。
何故魔法学校ギャラクシアが開校されたのか、、、。
魔法が封印された時、ギャラクシアは封鎖されたんだろ?
しかし、オレ達はついこの間までそこにいたじゃないか。
一体どういうことなんだ?」

「つい最近、解禁されたんですよ。
理由は分かりません。
私たちの敵、ベータ国の軍事力により、再開校を迫られたんです。」

「なるほど。。。」
船長は凍りついたように一言そう返すと、2つ目の質問をした。
「2つ。
魔法物理学って何だよ。
魔法ってつくが、科学の要素でも入ってるのか?」

「はい。

人間は、自在に魔法を操る魔物とは違い、
魔法物理学を理解しなければ扱うことが出来ません。

その学問を理解出来るのは、今のところ、魔法遺伝子を持った魔族だけです。

ギャラクシアの開校は形だけですので、生徒はいますが、魔法は解禁しません。」

「了解。」
船長は全て聞き終えたようだ。

彼は納得したように言った。
「取り敢えず、魔界の扉を見つけた人物を探せばいいんだろ?
いや違ったな。その先祖か。」

「そういうことです。」

つまり今、3人の旅人の目先の目的は、人探しであった。

思わぬ展開での旅の幕開けであった為に、資金もほとんどない状態であり、こうして雇われているのである。

船長は、暑さにうんざりした様子で言った。
「魔族がいれば、魔法で資金調達出来ただろうな!」

エリカは言った。
「何もないところから、物質を生じさせるのは、とても難解な魔法物理学なんだそうですよ。
魔法物理学が分からない、一般人の私でもその難解さくらいは想像出来ます。
エネルギーを集約して分子にし、更にその分子を結合させて、欲しい物質を生じさせるんですから。」

船長は、鼻で笑って言った。
「気が遠くなる話だ!
その調子じゃ先祖を見つけだす魔法もないだろうな!!」

エリカが、暑さで苛つきながら言った。
「それも、強力な魔法です!
いるかも分からない先祖の居場所を突き止めるのですから。
全人類の脳内から記憶を取り出し、そこから祖先を辿る魔法ですよ?
記憶の中に祖先の情報が無ければ完全に終わりです。
魔法でさえ、過去に遡ることなど出来ないのですからね!」

船長も苛立ちながら言った。
「研究長フランチェスカ“様”の気まぐれにもうんざりだ!

同行する気だったのに、直前になり断り、何の目的だか知らないがギャラクシアに残ったんだろ!?」

「知りませんよ、そんなこと私に聞かれたってね!」
エリカも負けじと言い返す。

「お前は、只の助手でしかねぇからな!
腹心のルイスに聞くべきだが、奴は愛想よく口を割るわけないだろーな!」
船長が言うと、
エリカは目をつり上げて言った。
「何ですか?その態度は。
魔物がすぐらうギャラクシアの監獄から出られただけでもありがたいと思いなさいよ!」

口論が白熱した時、観衆達の歓声が上がった。

躍りが終わったのである。

上品にカーテシーのお辞儀をする彼女の元で、木箱に金貨が恵まれていく。

その様子をぼうっと見ていたエリカに、観客の1人の子連れ女性が話しかけてきた。
「花吹雪のお嬢さんも、中々良かったよ。
これ、あげるね。」
女性が、エリカに菓子を手渡す。

「あ、ありがとうございます、、、!!」
思わぬ褒美に、戸惑いつつも、エリカはそれを受け取った。

「にしても、あの踊り子、修道女さまにもに負けず劣らずに可憐だったわ。」
そう言いながら、女性は子どもを連れて去っていく。

「、、、修道女さま、、、?」
エリカは疑問を口にした。

「あの奥さまには教えてやりたいぜ!
花吹雪役が2人だってことをよ!」
船長が憤慨しながら言った。

それから、エリカに向かって言った。
「あれのこと言ってるんじゃないか?」

彼が指し示す方角には、聖堂に描かれた美しい修道女がいた。

「あら、、、まるで女帝みたいな崇拝ぶり。
お妃様が知ったら大変。」
エリカは、肖像画に見とれながら言った。

その様子を見た別の観客がまた話しかけてきた。
「あんたら旅人なんだってな!
なら、土産話に、修道女さまの偉業を教えてやる!

ここら、貿易の中継地だから、度々疫病が流行るんだ。

だがそれは、悪魔の仕業だった。
それを、あの方はやっつけてくれたのさ。」

「悪魔が、、、疫病を、、、?」
エリカには、信じられない話だった。

悪魔の最大の強みは魔法だ。

人間のように、科学や数学を扱う能力はない。

人間が、科学的な観点から魔法の原理を理解し、それを使用する半面で、悪魔はブラックボックスのように理解せずとも平気で扱う。

゛疫病を流行らせるだなんて、医学の知識がない悪魔に出来るのかしら゛

゛疫病も、魔法によるものよね、きっと゛

エリカはそう心の中で言って疑問を解決した。

しかし、もうひとつの疑問が沸き上がった。

それを聞いてくれたのは、船長だった。
「いや悪魔をやっつけるなんて物理行使、あいつらには効くわけないだろ!
魔族でもない修道女に、何が出来るんだ?」

「無礼な、、、!」
言い方が言い方だけに、観客は気分を害しながら去っていった。

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